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革命勇者  作者: 春風英人
1/1

第1話 これは

これは、

僕の知る中で一番好きな英雄譚だ。



「——誰かが聞いているといいな」


静かな声だった。


「そう願って、僕の一番好きなお話をしよう」


 


世界は炎に呑まれていた。


赤い。


熱い。


息が苦しい。


周囲では建物が崩れ、人の悲鳴が響いていた。


逃げ道はない。


……ああ。


結局、こうなるのか。


思わず笑ってしまった。


本当に、18年どうしようもない人生だった。


近くに包丁が落ちていた。


見慣れた銀色。


家で何度も見たものだ。嫌な記憶しかないけど。


焼け死ぬのは痛そうだな。


そう思った。


「……はは」


どうせ死ぬなら、

せめて自分で終わらせるか。


俺は包丁を握り、

ゆっくりと首へ向ける。


 



 


「——起きてください」


声が聞こえた。


……誰だ。


意識が浮かび上がる。


ゆっくり目を開けると、

そこは真っ白な空間だった。


そして目の前には、

白い服に身を包んだ女が立っている。


綺麗な人だった。


けれどその表情は、

どこか疲れて見えた。


「起きたみたいで良かったです」


女は小さく微笑む。


「私は女神とだけ。あなたにお願いがあり、ここへ呼ばせていただきました」


「……は?」


頭がうまく回らない。


「俺は、首を切って——」


「はい。あなたは死にました」


あまりにもあっさり言われ、

逆に現実感がなかった。


「じゃあなんで意識がある」


「私が魂を召喚したからです」


女神は静かに言う。


「どうか、私の世界を救って欲しいのです」


世界を救う?


そんなスケールの話、

突然されても困る。


「……別にいいけど」


「え?」


女神が少し目を見開く。


「どうせもう死んだしな」


それに。


あんな人生のまま終わるのは、

少しだけ嫌だった。


女神は数秒黙った後、

小さく笑った。


「そんな軽く了承されるとは思いませんでした」


そう言うと、

女神はこの世界について話し始めた。


魔王。


レベル。


スキル。


人類を脅かす存在と、

それに対抗するための力。


「簡単に言えば、魔王を倒して欲しいのです」


「いや、無茶だろ。俺ただの人間だぞ」


「ですが、あなたは適性が非常に高い」


女神は真っ直ぐ俺を見る。


「私の世界において、あなたは特別で、あなたを必要としています」


特別。


必要としている。


その言葉は、

今までの人生で一度も言われたことがなかった。


「……できるか分からないぞ」


「それでも構いません」


その瞬間だった。


女神の身体が、

光になって崩れ始める。


「おい、大丈夫なのか」


「時間がありません」


女神は少し苦しそうに笑った。


「本当はもっと説明したかったのですが……」


光が強くなる。


「あなたを王国の“転生の間”へ送ります。まずはそこで話を聞いてください」


意識が遠のいていく。


最後に。


女神は静かに言った。


「あなたに祝福を」


 



 


「勇者が召喚されたぞ!」


その声で意識が覚醒した。


眩しい光。


石造りの部屋。


床には巨大な魔法陣。


「……ここが転生の間?」


身体を起こす。


周囲には多くの人間がいた。


豪華な服を着た偉そうな男たち。


鎧姿の兵士。


冒険者らしき荒くれ者。


神官服を纏った人々。


そして。


一人だけ、

黒いローブを深く被った人物。


みんな俺を見ていた。


その視線に、

少しだけ身体が強張る。


……嫌だな。


昔を思い出す。


「私は司祭のユーラと申します」


神官の一人が近づいてくる。


「俺の名前は、えいじだ」


「勇者様の名前はえいじというのですね!」


「勇者?……まぁそういう扱いか」


「勇者様。単刀直入に申し上げます」


ユーラは深く頭を下げた。


「どうか、魔王を倒してください」


「あー、それは聞いた」


「なんと!? 女神様の声を!?」


周囲がざわつく。


兵士たちが顔を見合わせ、

神官たちが驚愕していた。


「初めてです……女神の声を聞いたという勇者は……」


「そうなのか?」


「はい。まずは勇者様のステータスを確認させてください」


そう言って、

ユーラは大きな水晶を差し出した。


「この水晶に手をかざしてください」


「これで分かるのか?」


「レベル、ステータス、スキル、そして勇者のみが持つオリジナルスキルが表示されます」


「オリジナルスキル?」


「勇者だけが持つ特別な力です」


ふーん。


よく分からないまま、

俺は水晶へ手をかざした。


瞬間。


——ピシッ。


水晶に亀裂が走る。


「……は?」


さらに。


バキッ、と大きな音が響いた。


部屋全体が揺れる。


「なっ……!?」


「水晶が!?」


周囲が騒然となる中、

水晶の表面に文字が浮かび上がる。


見たこともない文字。


なのに、なぜか意味が理解できた。


 


筋力 測定不能


魔力 C


潜在性 測定不能


スキル なし


オリジナルスキル 『革命』


概要 ██████


 


「革命……?」


ユーラの顔から血の気が引く。


「そんな……」


「測定不能だと……?」


「記録にないぞ……!」


ざわめきが広がる。


兵士も、

神官も、

貴族たちも、

誰もが困惑していた。


……そんな中。


一人だけ。


黒いローブの人物だけが。


まるで、

面白い物語の続きを見つけたみたいに。


静かに笑っているような気がした。

英雄譚は、

いつだって誰かに語られることで残っていく。


次話もよろしくお願いします。

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