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大人になれない少年と王国騎士  作者: 高丘楓
第二章:力を求めて

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2-6 少年と信用と未来

 王都スタリナ。

 アステイス王国中央に位置し王国一の人口を擁するその街は、北東にそびえ立つ霊峰セスティナからもたらされる大自然の恵みを大いに受け、難攻不落の都として大陸中に知られていた。


 城下町は人々の往来で賑わい、シタン村という辺境の村とは比べ物にならない程の音や物で溢れていた。

 ツヅルは馬車の車窓から流れる街並みを見て、吐息のように声にならない感嘆の声を上げる。

「王都スタリナ。すごいでしょ、ツヅルくん。これがこの国で一番大きな都よ」

ミアはそんな彼に誇る様に言って、広くも無い車内で胸を張って少しだけ威張る。


 ミアの言葉に小さく何度も頷きながら振り向きもせず外だけを見続け、それを面白くなく感じたミアは少しだけ頬を膨らませて席に座り直す。

 向かい側に座る王子と騎士長はそんな二人の様子を見てくすりと笑い、平和な時間を肌で感じ取る。


 しばらく馬車に揺られて辿り着いた場所は、大通りに面した広い敷地に堅牢な造りをした立派な建物の前だった。

「着いたぞ、ツヅル。ここが傭兵組合。―――エイダン様が仕切っていて、今、君のお兄さんが頑張っている場所だよ」

アッシュは席を立ってツヅルに手を差し出し、彼が掴んだことを確認すると御者が開けたドアから車外へと出る。

 ツヅルは転ばないように慎重に足を踏み出してステップを下りると、建物の入り口の大きな扉をジッと見つめた。


 「ツヅル、約束は覚えているね?」

後ろからミアの手を繋いで降りてきたセオドアが、表情に興奮を隠しきれていないツヅルに確認の意味で問いかける。

「えっと……、お兄ちゃんに声をかけない。静かに見る。セオドア様たちから離れない。他の人達の邪魔をしない…………ですよね?」

「そうだね。ちゃんとわかっているね。ミアも、いいね?静かにしているんだよ?」

「当然です!ツヅルくんの見本となるよう、お姉さんとして格の違いを見せてあげますわ!」

「うんうん。ここからもう大声を出したらいけないからね?」

「わかってますわ……」


 アッシュと手を繋いで入った先では、四人の到着を待っていた傭兵組合の受付嬢が丁寧なお辞儀をし、二人が戦闘訓練を行っている訓練場へと誘導する。


 訓練場が近づくにつれて大きくなる金属音や打撃音、強い掛け声に唸り声。

 その音が響く度にツヅルは小さな体をブルッと震わせるが、聞こえてくる声がユウゴの声だということに気付くと、胸の中に熱い感情が沸き上がるのを感じる。

 だが、セオドアとの約束で声を出さないことをしっかりと守り、口をキュッと結んで廊下を進んでいく。


 訓練場を一望できる場所にある観覧席に着いたツヅルは、目の前で繰り広げられる激しい戦闘にそれまでの浮ついた気持ちを砕かれて、真剣に静かに見守る。


 熟年の筋骨隆々とした肉体はその持ち主の歳を感じさせない程に鋭い動きを見せ、喰らい付くように攻撃を繰り出す青年を軽くいなしていく。

 鍛えられた肉体を全力で酷使する青年は、時々熟年の戦士に対して危機感を覚えさせる攻撃を繰り出すが、あと少しのところで弾かれ、カウンターでダメージを負ってしまう。


 「やはりエイダン様は強いな。ほぼ全ての攻撃を見切って一つ一つ適切に対処している。ユウゴはまだまだ粗削りだが、それでも、エイダン様でも気を抜けば一気に喰われそうになる勢いと攻撃センスを持っている」

「おにいちゃん……」

アッシュのユウゴに対する褒め言葉ともとれる検証を聴いても、目の前で少しずつ傷付いていくユウゴの姿に心が締め付けられるように痛くなる。


 「ツヅルくん、大丈夫よ。あなたのお兄ちゃんはちゃんと強いわ」

ミアはツヅルの気持ちを知ってか知らずか、ツヅルの小さく震える手をギュッと握ってあげて優しく微笑む。

「だって、今も、今までもずっと組合長の相手を続けられているんですもん。それって、十分強いってことじゃないの?」

「でも、痛そう。辛そう……」

「そうね。でも、ユウゴさんは騎士だから、強くなろうとしているのよ?ツヅルくんがそんな騎士様を信じれなくてどうするの?」


 信じること。

 自分の手が出せない場所のことを、ただ静かに信じて見守ること。

 ツヅルは十分ユウゴを信じているつもりだった。

 しかしそれは、兄として、自分に優しいユウゴを信じているだけであって、騎士として、男としてのユウゴを信じているわけでは無かった。


 大丈夫だと思いながらもどこかでユウゴが怪我をしてしまうこと、挫けてしまうこと、傷ついてしまうことを恐れていた。


 ミアの言葉でそれに気付かされたツヅルは、目の前で必死に強くなろうとしている男としてのユウゴの姿をじっと見つめて、ただ信じる。


 お兄ちゃんは凄いんだ。必ず強くなるんだって。


 「ありがとう、ミアさん」

ちょっとだけ自分の心も強くなれた気がして、ミアの手を握り返して優しく笑う。

 ミアはその姿に安心したような、ホッとしたような。そして、自分が人にここまで優しくできることを知って照れるように顔を背ける。


 「いいのよ、ツヅルくん。ツヅルくんは私の大切なお友達なんだから」




 しばらくエイダンとユウゴの戦闘訓練を見守っていた四人は傭兵組合を出て、城下町を散策するように歩いて移動していく。


 大通りから少し入ったところにある小洒落た菓子店で、ツヅルは自分用にミアがオススメするパウンドケーキを買い、普段優しくしてくれている第一騎士団の団員達にそこまで高くはないクッキーの詰め合わせを買って包装してもらう。両手で抱えられなくなりそうな荷物を、自分の胴体と同じくらいの大きさのリュックに詰め込んで背負うと、子どもが歩いているのか荷物が歩いているのか、背後から見るとわからなくなる。


 「ユウゴさんにお土産はよかったの?」

ツヅルの買い物を見ていたミアは、確認するように彼に訊くが、彼は軽く頷くだけで明確に意思を伝えない。

 ニコニコと笑顔を浮かべたままで、セオドアもアッシュもミアも、ツヅルの不思議な感じに顔を合わせて首をかしげた。


 街は楽しい。

 セオドアもアッシュもミアも、自分が知らない世界を色々と教えてくれる。

 村では見たことが無かった物を見て、食べたことが無い物を食べ、村の祭りみたいだと言いながら、噴水広場にいた大道芸人の芸を他の観客達と一緒に見る。


 いつか自分がちゃんと大きくなって、セオドアに許可を貰ったら、ユウゴと一緒に街を観光したい。

 ユウゴと一緒にお菓子を買いに行って、ご飯を食べて、賑わう広場での催し物を見て、色々な思い出を作りたい。

 そんないつ叶うかもわからないささやかな希望を胸に抱いた。


 帰りの馬車の中でツヅルとミアは肩を寄せ合うように眠り、大人二人はそんな彼らの姿を見ながら城への道を進んでいく。


 辛いかもしれない未来しかないツヅルが少しでも楽しめたのならそれでいい。

 大人としてできることは全てしてあげたい。

 同じく何かを失い、その代わりに力を手にした者達だからこそ、幼くしてその立場になった者を守りたかった。


 本当ならミアを同席させるのは不安だった。悪い子ではないが、素直すぎる子だ。彼女の素直さはもしかしたらツヅルを傷つけてしまうかもしれない。

 しかしミアはツヅルのことを友達と呼び、彼が少し他の人と違うことに気付きながらも見ないふりをして、友達として振る舞い続けていた。


 ミアはセオドアに言った。

 「セオドア様が私にも真実を隠すというのなら、私はそれに従います。普通に考えたら、ただの子どもがセオドア様やアッシュ様、エルゥ様達と共に行動するなんてこと無いと思いますし。ツヅルくんは私なんかが想像できない何かを持っている子であるのでしょうけど、私の友達であることに変わりはありません。私は、友達が悲しむようなことはしたくないですし、人と違うからと言って友達を切り捨てることもしたくないですわ」

セオドアからすれば、まだまだ幼い子どもで猪突猛進なミアがここまで色々考えていたということに驚かされた。

「セオドア様。これは貴方をお慕いしているからの言葉ではありません。ツヅルくんの友達として申し上げます。―――私にできることがあるのなら、なんでも言って下さい。こう見えても私、学園でもそれなりに成績もいいですし、将来宮廷魔導士として王に仕えないかというお誘いも来ているのですよ?」

少し悪戯な笑みを浮かべながら言ったミアは、子どもだと侮ってはいけない真剣さをその瞳に宿していた。


 「まだ子どもだと思っていたら、いつの間にか簡単に想像を超えたことを言ってくる…………。少し寂しいと思ってしまうのは、僕の我が儘かな?アッシュ」

「いつもそんなものだ。自分達の想像はあくまで想像でしかない。意外な強さを発揮する者も居れば、意外な弱さが露呈する者も居る。―――セオドア様、彼女は―――」


 「―――あぁ。ミアには王国騎士になってもらう―――」


 城に着くまで静かな寝息を立てて眠っている二人が起きない程の声で、二人の例外は一人の少女の未来を決めたのだった。

しばらく間が空いてしまい申し訳ありません。


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