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大人になれない少年と王国騎士  作者: 高丘楓
第二章:力を求めて

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2-5 少年と興奮と心配と

※今回R15基準の際どい描写が一部含まれます。読まれる際はご注意下さい。

 あれから更に月日が経った。


 ツヅル・ヴァーゴ、十歳。


 その日、王都に来て初めて、ツヅルに城下町への外出が許可された。

 随伴するのはセオドアとアッシュ、そして、城下へ行くなら自分も行きたいと言ったミアの三人だ。


 ミアは学園でも優秀な成績を収めており、所属する学年ではトップを争うほどのの実力者となっていた。その行動原理はあくまでセオドアに相応しい淑女になるということではあるが。


 セオドアから城下に出掛けようと話を持ち掛けられたとき、ツヅルはその意味がいまいち理解できずに首を傾げるだけであった。が、学園の春休みという暇を持て余す行事の最中であったミアが部屋に乱入し、「つまり、外に遊びに行くってことよ、ツヅルくん!お買い物したりお菓子を食べたり、お店で食事をしたり、とにかく楽しいってことよ!わたしも一緒に行くわよ!」と半ば強引に誘ったことでようやく意味を理解し、キラキラした目でセオドアを見て何度も強く首を縦に振ったのだった。


 「ツヅル君はどこか行きたいところはあるかい?」

セオドアの優しい問いかけにツヅルは考え込み、その横でミアが元気よく手を上げてセオドアに発言の許可を貰おうとアピールする。

「ミア、まずはツヅル君だよ?彼は城下町が初めてなんだ。ミアは城下町を知る先輩だから、譲ってあげられるよね?」

「当然ですわ!わたしはツヅルくんの先輩なのですから、城下町初心者のツヅルくんを優先してあげることくらい余裕です!」

相変わらずの勢いの良さでミアはセオドアに返事をし、威張る様に仁王立ちをする。


 「あ、あの、城下町って、お兄ちゃんが行ってる訓練場?っていう場所があるんですか?」

伺い立てるようにセオドアの顔を覗き込み、自信なさげに声が小さくなっていく。

「あぁ。エイダン様とユウゴは城下にある傭兵組合の訓練場に居るよ?行きたいのかい?」

「は、はい!……その、ボク……、お兄ちゃんを応援したくて……」

顔を赤く染めて恥ずかしがりながらもじもじと自分がしたいことを口にする。


 「んー……。訓練の邪魔にならないように、声を掛けたりしないで様子を見るだけでもいいかな?訓練中に集中が途切れてしまうと、大怪我をする原因にもなってしまうからね」

「はい。ボク、絶対邪魔しないです」

「うんうん。わかったよ、ツヅル君。じゃあ訓練場に顔を出すことにしよう。他には無いかい?」

「ツヅルくんと一緒にお菓子が買いたいですわ!最近人気のお店があって、そこのケーキがとても美味しいと評判なのです、セオドア様!」

「お菓子……っ!」

「じゃあ菓子店にも行こう。せっかくの外出なんだ、楽しいこともあった方が良いだろう」

ミアとツヅルのやり取りを見てセオドアは柔和な笑顔を二人に向けながらメモ書きしていく。


 城の敷地内だけでの生活を続けて二年、ツヅルは特段不便を感じてはいなかった。

 必要な物は大抵揃っているし、騎士団の宿舎も快適な居住空間を維持出来ていて、騎士達も優しい。

 セオドアやアッシュ、エルゥは差し入れでたまに美味しいお菓子を持ってきてくれたり、ユウゴもいつも寝るまで一緒に居てくれる。

 ミアという友達も出来た。


 あの日から寂しさを感じることは殆んど無かった。




 その日の夜、布団に入ってからもツヅルは興奮気味でなかなか寝付けなかった。それでも布団に入ってから一時間もすれば静かに寝息を立て、その様子を見たユウゴは口元を少し緩めて、握っていたツヅルの手を離す。


 もう二年一緒に生活しているが、ここまで興奮して楽しそうなツヅルは初めて見た。それが嬉しくもあり、自分だけでは見れなかったその様子が寂しくもある。知らない内にツヅルに我慢をさせていたのではないかと不安にもなる。


 そして、その興奮が伝染したのか、ユウゴも自分が寝る時間になっても中々眠れずにいた。

 このままでは翌日の戦闘訓練にも支障が出てしまう。常に万全の状態で戦わなければ、エイダン相手に勝てる確率がただでさえ低いのに下がってしまう。

 どうにかして疲れて寝てしまわないとと思案し、そして、その興奮が伝わってしまったものに気付く。


 世界が静まり返る真夜中、ツヅルは街へ行くということへの興奮の所為で浅い眠りから目を覚ました。

 暗い部屋の中には自分とユウゴしかいない。寝ぼけた目に映る物は木の天井だけで、ぼんやりと視界は歪む。

 その暗さが不安な気持ちを強くさせ、気が付けばユウゴが眠っている隣のベッドに視線を移す。


 ツヅルに背を向けて布団を被り寝ているユウゴの背中は大きく、岩のような影だけが見える。が、その影は微かに揺れているようにも見えた。

 耳を澄ますと室内には浅く速い呼吸と布が擦れて湿り気のある音が響いていることに気付く。


 苦しんでいるのだろうか?声を掛けた方がいいのだろうか?

 ぼやけた思考でツヅルが色々と考えるが、思い浮かぶ言葉はどれも纏まることなく思考の海へと沈んでいく。


 しかし数十秒後に、歯を食いしばって低く呻くような声が聞こえたのを境に部屋に響いていた音は止み、静寂が室内に戻ってくる。

 揺れていた岩のような影も動きが止まったが、それを確認した直後にユウゴが布団を剥いで起き上がり、部屋の外へと出ていった。


 ユウゴの姿を見てはいけないような気がしたツヅルは、布団に潜り込んで寝たふりをする。

 それまで部屋の中に無かった匂いは時間の経過とともに濃くなり、僅かに鼻をくすぐるその匂いはどこか野生的で青臭いが、ツヅルに何とも言えない感覚を与えた。


 その後ツヅルはユウゴが部屋に戻ってきたことにも気づかずに眠りに入り、それが何だったのかを確認することなく朝を迎えた。




 「今日はね、セオドア様と、アッシュ様と、ミアさんと、一緒に城下町に行くんだよ!」

朝、寄宿舎の食堂でツヅルはユウゴと食事をとりながら、周りに騎士が居ることも気にせずにニコニコとハイテンションでアピールしていた。

 その無邪気な様子を見て騎士達は優しく笑いながら、通りすがりに「よかったな」と言いながら頭を撫でていく。

 ユウゴも少し呆れたような笑みを浮かべながらツヅルの話を聴き、彼よりも早く食事を食べ終わる。


 「おみやげ買ってくる!」

「あまり無駄遣いをしたら駄目だぞ?みんなの言うことをちゃんと聞いて、一人でどこにでも行こうとしたら駄目だからな?知らない人に付いていっても駄目だし、あと、自分で食べきれない量のお菓子を買っても駄目だし―――」

 宿舎の玄関前でユウゴはしゃがみこんでツヅルと目の高さを合わせて、ツヅルの服装を整えながら注意事項を連ねるように伝えていく。


 「それじゃあまるでお兄ちゃんじゃなくて親だな、親」

通っていく騎士がユウゴを見て笑って言う。ユウゴの二歳年上で、夕方ユウゴが戻ってくるまで、先に帰ってきていたりするツヅルの相手をよくしてくれるその騎士は、ツヅルがこの宿舎の騎士の中でも比較的懐いている男だった。


 「オーグさんにもおみやげ!」

「おう、楽しみにしてるぞ、ツヅル」

ツヅルが上げた手に、騎士、オーグ・スコルピオは軽く手を叩いてハイタッチする。

「オーグ先輩、なんかすみません」

テンションが高いツヅルに付き合わせてしまって申し訳ない気持ちから、ユウゴはオーグに向かってしゃがみこんだまま軽く身を捻り、頭を下げる。


 「いいっていいって。初めての城下町なんだろ?はしゃぐのも無理ない。ほら、お前もちゃんと見送ってやれって。ちゃんと護衛も付くんだ、心配なのもわからないでもないが、な?」

オーグのその言葉にユウゴも小さく頷くと、最後にツヅルの両肩に手を置いて伝えるべきを伝えた。


 「気を付けて行って来い」

「うん!いってきます!!」


 挨拶をして走り出すツヅルを心配そうに見送りながら、ユウゴも傭兵組合に向かう準備をしようと立ち上がる。

「大変だな、お兄ちゃんってのも」

「はい。でも、俺は…………嫌ではないです」

「いいことだ。さて、お前も気を付けろよ、ユウゴ。弟の心配ばかりしていると、自分が痛い目に遭ってしまうからな」

「はい」

オーグはユウゴのこともツヅルと同じように扱い、ツンツンの短く切られた黒髪を押さえるように頭を撫で、騎士団の演習場へと歩いていった。

弟の城下町行きを『はじめてのお○かい』レベルで心配するお兄ちゃん。

そんなお兄ちゃんも男ではあるという事実。


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