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大人になれない少年と王国騎士  作者: 高丘楓
第二章:力を求めて

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2-3 少年と令嬢とお友達

 今日もセオドアの執務室を訪ねるツヅル。

 それを陰から見ている一人の少女が居た。


 「じゃあツヅル君、ここらへんで午前の分を終わろう。今日はもう少ししたらこの部屋に食事が運ばれるから、それまでは寛いでいてくれていい」

「はい、セオドア様」

返事と共にツヅルは開いていた本を閉じて、本棚に戻す為に立ち上がる。

「今日は街で人気のお菓子も準備している。たまにはそういった物もいいだろう?」

セオドアは背伸びして本を戻そうとしているツヅルを見ながら言い、お菓子という単語にピクリと反応した姿を見て小さく笑う。


 神々の力を手に入れて、みんなの役に立とうと頑張っていても、結局はまだ子どもなのだ。

 本を戻した後でキラキラした瞳をセオドアに向けてくるあたりは本当に幼い。


 コンコン――ッ。


 「来たみたいだね、ツヅル君」

執務室のドアを軽くノックする音が聞こえたことで満面の笑顔をツヅルが浮かべ、セオドアはその顔を見てクスリと笑い、ドアを開く許可を出す。


 「セオドア様!その男の子は誰ですか!」


 ドアを勢い良く開けて入ってきたのは、華美ではないが、清らかで慎ましい美しさを持つスカイブルーの綺麗なドレスを身に纏った一人の少女だった。

 丁寧に結われた亜麻色の髪をリボンで結び、快活そうでありながらも明確な敵意を宿した瞳をツヅルに向け、セオドアの執務机の前までズカズカと歩みを進める。


 「セオドア様は未婚だと思って大丈夫だと信じていたのに…………こんな隠し子が居ただなんて……!!」

少女は奥歯を噛みしめるように『クッ』と言いたげな悔しそうな表情を拳を握りしめながら見せ、少し涙で瞳を滲ませながらセオドアの顔を見る。


 「セオドア様と結婚するために淑女教育も頑張ってきたのに……、この仕打ちは酷すぎますわ!」

「ミア?何を勘違いしているかわからないけど、ツヅル君は僕の子ではないよ?ましてや隠し子なんて。僕がそんな不誠実な男に見えるのかい?」

「いいえ。セオドア様は完璧な男性ですから、そういうことは一切無いと思いますわ!」


 一人で暴走しようとする少女、ミア。

 しかし、セオドアの言葉で即座に方向転換し、彼の言葉を全肯定する。

 その光景に何が起きているかいまいちピンと来ないツヅルは首をかしげながら呟く。

「……お菓子じゃなかった……」


 頑張った勉強のご褒美として考えていたお菓子が来ないと思ったツヅルは、目尻に涙が滲みはじめ、その微妙な絶望感で泣きそうになってしまう。


 「男の子が泣かないの!」

ミアの一言でツヅルは体を硬直させ、涙を袖で拭って泣きそうになったことを無かったことにしようとする。

「いい子ね、流石男の子ね!セオドア様には勝てないけれど」

少し得意げに胸を張りながら仁王立ちでツヅルに声を掛けて、ミアは満足したように何度か頷く。


 「……ミア、何しに来たのかな?」

様子を傍観していたセオドアは二人のやり取りがひと段落しただろうと思い、改めて目の前の少女に問いかける。

「その……、セオドア様のところに通っている子がいるというウワサを耳にしたので……、探りに来ました!」

「うん。相変わらずストレートな反応だね、ミア。じゃあせっかくだから、ツヅル君に自己紹介をしてあげなさい」

「わかりましたわ。ツヅルくん、わたしはピスキア公爵家令嬢のミア・ピスキアよ。セオドア様とは将来を誓い合った仲よ!」

「うん。何も誓ってないね?……ということで、この子は僕と繋がりがある公爵家の令嬢で、幼い頃から懐いてくれているんだ。ミアは今何歳になったんだっけ?」

「セオドア様、レディに年齢を訊くものではないと、お母様も言っていましたわ」

「うんうん。で、何歳だったっけ?」

「花も恥じらう十歳ですわ」


 力強く一生懸命自己アピールをするミアを慣れた感じであしらうセオドア。

 普段からこういう仲なんだろうと、ツヅルはボケっとしながら考えて、二人のやり取りから目の前の少女のことをちょっとだけ理解した気持ちになる。


 「ツヅル君より一歳年上だね。じゃあミアはお姉ちゃんだから、ツヅル君に強く出るのは―――」

「よくないことですわね!さぁツヅルくん、わたしのことは姉上……。いえ、気楽にミアお姉ちゃんと呼んでちょうだい!」

「いきなりゼロ距離は感心しないね」

「ミアさんでいいわ!」


 「ミアさん…………?」

「何?ツヅルくん!」

「…………自分で呼んでとか言って、強気で聞き返すのもどうかと思うよ?ミア」

セオドアはミアの真っすぐさを嫌いではないのだが、勢いだけで動こうとする姿勢は直さないといけないと感じていた。

 実際、強めに聞き返されたツヅルは少し弱気になりながらミアに気圧されている様子で、何を言っていいかわからないくらいに戸惑っているようであった。


 コンコン―――。


 そのやり取りの中、再度ドアがノックされ、セオドアは再び開く許可を出す。

「王子、昼食と、城下で流行っている菓子をお持ちしました」

入ってきた執事の言葉に、ツヅルとミアは瞳を輝かせて一緒に叫んだ。


 『ご飯とお菓子だーっ』




 「そうでしたの……大変でしたわね、ツヅルくんも。あ、この味のクッキーも美味しいから食べないと後悔するかもしれないわ」

小さなテーブルで向かい合って座り、昼食の間セオドアから神関係以外の話を聞いたミアは早速距離を縮め、ツヅルの面倒を見るように食べて気に入ったお菓子を勧める。

 ツヅルも勧められて皿に乗せられたクッキーを両手で持って、サクサクとかじりつく。


 「これおいしいですよ、ミアさん」

「なかなか良い舌を持ってるみたいね。それはとても良いことよ」

ツヅルもお返しに自分が美味しいと感じたクッキーをミアに渡し、それを食べたミアもクッキーの甘さと美味しさに口元を緩めてツヅルに微笑みかける。


 「わたし、お兄様達しか兄妹がいないから、年下の男の子というのもいいものね。特に、わたしが貴族ということを知っても反応が変わらないのがいいわ」

ツヅルにとって貴族は遠すぎる存在過ぎて、王城で王族であるセオドアの指導を受けていながらもその偉さをあまり実感できていない。村に貴族なんて居なかったし、貴族がお忍びで旅行に来るような村でもなかった。

 セオドアや王城の者達は大人だから丁寧な対応をしようと一生懸命意識するが、貴族は所謂教科書の中の存在でしかないのだ。

 だから、貴族だとしても同じ子どものミアに対してはニュートラルな対応しかできないのがツヅルだった。


 「気に入ったわ!ツヅルくん、わたしとお友達になりましょう!いいですよね?セオドア様!」

短時間のやり取りでミアはツヅルを気に入り、セオドアに対して承諾を求める。

 本来友達は誰かの承諾の下で作る物ではないのだけれどもと思いながらも、セオドアはミアに許可を出す。


 「ツヅルくん。このミア・ピスキアがお友達になったのだから、何かあったらわたしを頼ってもいいのよ!むしろお姉ちゃんを頼ってちょうだい!」

「うん。ありがとう、ミアさん!」


 二人のほのぼのとしたやり取り―――といっても、どちらかというとミアの一方的な押し付けのような交友関係の構築を見て、セオドアはまた笑う。


 ツヅルの味方は一人でも多い方が良い。

 ミアは真っすぐ過ぎる性格ではあるが、悪い人間でもないし、むしろ善良であり、何があっても友達となった者を裏切ったり見限ったりすることも無いということを、昔からの彼女を知っているセオドアは確信している。

 「友達ができてよかったね、ツヅル君。じゃあミアも、ツヅル君が胸を張ってお友達と自慢できる子にならないとね」

「当然ですわ!では、わたしはこれで失礼します。また遊びに来るからね、ツヅルくん!」

「勉強中は来てはダメだからね?お昼か、お茶の時間しかダメだからね?ミア」

手を振りながら部屋から出ていくミアは、意中の王族の前だというのに既に令嬢としてではなく一人の少女として振る舞っていた。

 ツヅルもそれに応えるように大きく手を振って彼女を見送り、閉まる扉を名残惜しそうに見つめていた。


 「大丈夫、ミアはちゃんとまた来てくれるよ」

「はい……」

寂しそうな弱い声で返事をする少年を、セオドアは優しく見守ることしかできなかった。

プロローグで登場したミア・ピスキアとツヅルの出会い。

ミアは公爵家の令嬢で、セオドアのことを一方的に慕いまくっています。根はとてもいい子で、ノブレス・オブリージュの精神も持っているけれど、実際は貴族という立場をあまり深くは考えていなかったりもする雑さを持っています。


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