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大人になれない少年と王国騎士  作者: 高丘楓
第二章:力を求めて

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2-1 穏やかな日々に

 ツヅルの王城での生活が始まり、一年が経った。

 

 実践的なことはまだ行っておらず、ツヅルの勉強はセオドアとの文字の読み書きや計算の練習から始まり、今ではアステイス王国の歴史を勉強している。神殿からたまに顔を出すエルゥからは魔法の原理や神々についての知識を教えられている。

 対するユウゴは、城下にある傭兵組合の訓練場で毎日エイダンに扱かれ、疲労困ぱいの状態で部屋に帰ってくる。初めは部屋に戻るとすぐに倒れていたが、最近では一通りの日課をこなしてから寝るようにはなった。


 ツヅルは穏やかな日常の中で、ユウゴを労りながら自分でできることを増やしていき、少しずつ成長を見せていた。

 ユウゴはツヅルに気を遣わせていることを良くは思っていなかったが、エイダンの容赦ない修行の所為で対応することもできなかった。

 たまに疲れているのに、疲れすぎて眠れなくなっているユウゴの様子を見てツヅルは、「おにいちゃん、いっしょに寝よう?」と言って、一緒に寝ることをせがむことで、無理矢理ユウゴを休ませようとする。

 ユウゴもそれを無下にすることはできず、ツヅルと一緒に布団に入って眠る様に努力する。


 「そうか。ユウゴはエイダン様に大分好かれているようだな」

部屋に帰ってきたユウゴの様子をセオドアに伝えると、彼は苦笑いを浮かべながらツヅルに言う。

 ボロボロになるレベルまで痛めつけることのどこが好いていることになるのか、ツヅルにはまだ理解できなかったが、彼はそんなツヅルに気付いて言葉を続ける。

「エイダン様は手加減はするが、相手の限界を超えさせる為にひたすら戦い続けることを弟子に求める癖があってね。殆んどの弟子は一週間もしない内に逃げ出すんだ。でも、君のお兄さんは一年間ずっと、エイダン様の戦闘訓練に付き合って、弱音も吐かずに強くなる為に貪欲に食らいついていく。エイダン様は言っていたよ?ここまで骨のある弟子は初めてだ。鍛え甲斐があるってもんだ。ってね」

「でも……おにいちゃんボロボロ…………」

「大丈夫だよ、ツヅル。ユウゴにはユウゴの意地があるんだ。それを理解してあげなさい」

「うん」

「それじゃあ、今日の勉強を始めようか―――」




 「そんなもんかユウゴ!儂はまだまだ本気を出してねぇぞ!」

「ゥッス!」

傭兵組合が所有する訓練場の一角で、激しい攻防が繰り広げられている。

 ここ一年ずっと続いているこの光景は、すでに傭兵組合の名物となっていた。あのエイダンが弟子を取り、しかもその弟子がずっと続いて戦闘訓練に明け暮れているということは、やはりエイダンという男を知る者達からすれば特異でしかなかった。

 二人は動きやすい恰好で武器も持たず、ひたすら己の肉体だけで格闘訓練をしている。


 武器に頼っていてはいざという時に戦えなくなる。

 まず、己の肉体を極限まで鍛え、その上で武器を持て。

 魔法は魔力切れもあるから極力使わずに戦い、いざという時の切り札にしろ。


 エイダンはユウゴに枷となる条件を持たせ、エイダンもそれに付き合うように素手での戦いを楽しむ。

 歳をとったとはいえ、今だに現役の傭兵達では太刀打ちできない彼は、単純な武力だけで言えば王国騎士長よりも強い。

 それこそ、聖骨の鎚を持たずとも己が身だけで圧倒できるほどには。


 「儂は魔法というものが嫌いだ。あんなもんが無くとも、儂はここまで上り詰めることができた。ユウゴは魔法も使えるのだろう?儂を超えられる素質はすでに持っている」

 拳を交わしながら、老兵は息一つ乱すことなく若者に話しかける。

 戦闘訓練が始まってから聞かない日が無いほどに聞き慣れた言葉達だった。

「ウッス……!」

「儂を超えろ、ユウゴ!儂を超えなければ、儂以上に強い者が現れた時に、お前はあの坊主を守れねぇぞ!」

「ッス!!」


 暑苦しいほどの拳と拳、肉体と肉体、叫びと叫びの応酬が訓練場に響き渡り、観客と化している他の傭兵達が手を止めて戦いの行く末を見守る。

 ユウゴの素性は誰も知らないが、それでもエイダンに気に入られているいうことだけはわかり、若い身でありながら大変だと他人事のように応援される。


 ユウゴが弟子入りしたことで、傭兵達は安心している部分もある。

 王国の最高戦力として普段はあまり任務に就くことが無く力と暇を持て余していたエイダンは、何かと理由を付けて傭兵達に模擬戦を挑んできていた。

 結果は当然のように彼の勝ち。

 傭兵達はできるだけエイダンに見つからないように任務を受けたり雑務を処理したりして逃げ回っていた。

 そこにユウゴが来たことで、常に彼と共に行動し、喰らい付くように模擬戦を繰り返し、書類仕事も適切に処理していき、いいこと尽くめでしかない。

 それ故に傭兵組合でユウゴは大事にされ、戦闘訓練で傷ついても誰かが差し入れで回復薬を渡したり、食事に誘ったりしていた。




 「ユウゴの奴は鍛え甲斐があるぞ、アッシュ!どこまでも貪欲で、儂に打ちのめされても何度も何度も倒そうと立ち上がってくるぞ!騎士団に置いとくには勿体ない男だ」

城の一室で大人四人が揃って話し合いをしている。

 興奮気味に楽しそうに語るエイダンは、前線で戦っていた頃のような輝きを持っていた。

「エイダン様には悪いですが、あと六年だけですからね?そこからは騎士団に返してもらいますから」

「つまんねぇこと言うなぁ、アッシュ。わかってるさ。アイツはあの小僧を守る為の盾であり剣だ。その為に儂を超えようと頑張っていることもわかってる」

アッシュの落ち着いた声に少し頭を冷やされ、エイダンは椅子の背もたれに寄りかかりながら雑に言い放つ。

 彼が割と本気でユウゴを欲しがっているのはセオドアもエルゥも、もちろんアッシュもわかっていた。

 弟子を育てることができて楽しいという感情だけは消せていない。

 逃げずに強くなろうとする者をエイダンが好むということも知っているからこそ共通の認識に至る。


 「ツヅル君にはまず、基本となる教育を行っている。僕が文字や計算、王国の歴史や地理の勉強を担当して、エルゥには魔法と神々の勉強を任せている。王立学園で習うようなことを、年相応に学習できているとは思うよ」

「ツヅル君、ついこの間まで文字もしっかりと読めなかったけど、最近は魔法の教本とかも読めるようになってきたし、ちゃんと学習するっていう意識も持っているみたいだから安心かな。むやみに聖樹の槍とか魔法を使いたいとか言っても来ないし」

セオドアの報告にエルゥが補足のように言葉を足して、ツヅルが大人しく勉強しているということをアピールする。


 「まぁ、何か変わったことある?とか気になることある?とか、最近どう?とかそういう話をしても、口から出てくるのはお兄ちゃんのことばかりなんだけどね。エイダン様、ユウゴ君をボロボロにしすぎなんじゃない?いつもお兄ちゃん大丈夫かなぁって言ってるし」

「儂としてはちゃんと倒れないギリギリのラインを守ってるぞ?」

「エイダン様は基本が基本だからねぇ。ツヅル君に恨まれないように注意しておかないと」

「気にはしておく。だがなぁ、ユウゴはなぁ……、楽しいしなぁ……」

現状報告から雑談になっていき、部屋の中にはちょっとした笑い声が聞こえ始める。


 「でも、一つ気になることがあるのよねぇ……」

話が脱線していき雑談を交わしている中、エルゥはテーブルに片肘をついて、その腕で顔を支えながら思い出したかのように言い、しかし、どう伝えようか考えながら言い淀む。

「気になること……?」

アッシュはその言葉にピクリと眉を動かし、呟くようにエルゥに聞き直す。セオドアもエイダンも興味深そうにエルゥの言葉の続きを待つ。


 「ツヅル君、ここに来てもう一年経つのよね?……その割に、成長していないのよ、肉体も、精神も」

第二章開始です!

急に一年が経ってしまっていますが、逆に、この一年は何事も無く穏やかだったということに。


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