アラームを切った朝
目覚ましは鳴らなかった。
私は昨夜、アラームを全部切ってから眠った。十月最初の月曜日。もう出勤しなくていいのに、目が覚めた瞬間だけ、遅刻だと思った。
時計は八時を少し過ぎていた。
しばらく天井を見ていると、カーテンの隙間から光が入ってきた。朝の光を、急かされずに眺めたのは久しぶりだった。
キッチンに立って冷蔵庫を開ける。昨日、久しぶりにスーパーへ寄ったおかげで、朝ごはんは作れそうだった。
卵焼きを作ることにした。甘いほう。
フライパンに油を引いて、溶いた卵を流す。じゅうと音がして、端から少しずつ固まっていく。箸で巻いて、空いたところにもう一度卵を流した。
みそ汁には、豆腐とわかめを入れた。鍋の中で味噌がほどけていくのを、火を止めるまで見ていた。
テーブルに卵焼きとみそ汁と白いごはんを並べた。
「いただきます」
小さく言って箸を取ると、卵焼きは甘くて、味噌汁はちょうどよかった。
食べ終わるころ、スマホが鳴った。蒼からのLINEだった。
『おはよう。今日の面接、がんばって』
その下には、莉子からも届いていた。
『奈月ちゃん、今日面接でしょ? あんたが一番子どもに好かれるんだから、ちゃんと胸張って行きな』
半年前のカフェで「転職しなよ」と言っていた莉子が、今は一番に応援してくれている。
今日は、児童発達支援センターの面接だった。退職届を出したあと、自分で求人を探して応募した。履歴書はもう書いてある。志望動機の欄には、「子どもの声を聴ける大人でいたい」と書いた。
食器を洗って歯を磨き、髪をおろした。保育士のときのように、お団子には結ばなかった。明るい色のブラウスを着ると、鏡の中の私は見慣れない人に見えた。
鞄に履歴書の入った封筒をしまい、玄関の鍵を閉めた。駅へ向かって歩き出してから、私は鞄の持ち手を握り直した。




