一ヶ月のはずだった
夏祭りが終わった。園庭に残った紙吹雪を拾いながら、私は何度も深く息を吐いた。子どもたちは笑っていて、保護者からの苦情もなかった。園長は「大成功です」と言って、声を上げて笑っていた。
私は職員室の椅子に座ったまま、三十分ほど動けない。
その夜、スマホが鳴った。三島主任からの着信だった。
「柊先生、お疲れさま。夏祭り、うまくいったって聞いたわよ」
三島主任の声は、思っていたより穏やかだった。休職してから少し経って、声に力が戻ったのかもしれない。
「ありがとうございます。三島主任のおかげです。引き継ぎメモがなかったら無理でした」
「お世辞はいいわよ。……で、あなた、調子はどう?」
「大丈夫です」
三島主任は小さく笑った。電話越しに、息の漏れる音がした。
「私もね、最初は一ヶ月だけのはずだったの」
返事が出なかった。スマホを持つ手に、少し力が入った。
「最初は主任代行。一ヶ月だけって言われて引き受けたの。気がついたら正式に主任になって、十五年よ」
電話の向こうで、テレビの音がうっすら流れていた。三島主任は、今は園ではなく自宅にいる。その当たり前のことが、急に重く感じた。
「あなたは、私みたいにならないでね」
電話が切れた。
洗面台に立った。鏡を見た。
目の下にクマがあった。頬が少し痩せている。髪を結ぶのが雑になっている——お団子が崩れかけている。
休職する前、職員室で見た三島主任の顔と同じだった。
「あなたしかいない」と言われた場所に、私はいちゃいけない。ずっといたら、この顔が戻らなくなる。
私は引き出しの奥にしまっていた白い封筒のことを思い出した。




