プリンだけが
瀬野くんと口論してから一週間が過ぎていた。職場では目が合わない。廊下ですれ違っても、どちらも顔を上げない。
朝。出勤してロッカーを開けた。
プリンが入っていた。カスタード。いつものやつ。メモはない。
最近はのど飴ばかりだった。プリンが置かれるのは久しぶりだ。
瀬野くんはいつ入れたのだろう。今朝、私より早く来て、誰にも見られないうちに入れたのだろうか。
保育室に入った。瀬野くんは四歳児クラスで、子どもたちの朝の支度を手伝っていた。
瀬野くんの声は、いつもより小さかった。
「ゆっくりでいいよ。靴下、こっちね」
いつもなら、言葉の終わりに少しだけ間がある。今日はその間がなくて、次の言葉を急いで足しているように聞こえた。
子どもへの受け答えも、いつもより速かった。沈黙を置く人が、途切れさせないように話し続けていた。黙ったら何かが溢れてしまうみたいに。
瀬野くんの声まで、少しずつ削れているように聞こえた。
一日が過ぎた。瀬野くんの視線は私を避けていた。私も瀬野くんの方を向けなかった。でもロッカーの中のプリンだけが、まだ繋がっていた。
帰りの電車で、プリンのことを考えていた。怒っているなら置かない。許しているなら話しかける。怒ってもいないし、許してもいない。ただ、プリンだけは置いてくれる。
空のカップを、ロッカーに残した。捨てたら、本当に終わってしまう気がした。




