せんせい、だいじょうぶ?
夏祭りが近づいていた。保育室で飾りつけの準備をしていた。
四歳児クラスのゆうたくんが、私のエプロンの裾を引っぱった。
「せんせい」
しゃがんで目線を合わせた。ゆうたくんの丸い目が、まっすぐ私を見ていた。
「せんせい、だいじょうぶ? なんか、かなしいおかおしてる」
笑顔を作った。「大丈夫だよ。せんせい、元気だよ」
ゆうたくんは首を傾げた。四歳児は嘘を見抜く。言葉の意味はわからなくても、顔の筋肉が作る不自然さを、子どもは感じ取る。
「ほんと?」
「ほんとだよ。ゆうたくんこそ、明日のお祭り楽しみだね」
話題を変えた。ゆうたくんは「うん!」と笑って走っていった。
私はしゃがんだまま、しばらく動けない。膝に力が入らなかった。
子どもに心配されている。笑顔を作って「大丈夫」と言っている。私のやってることはいいんだろうか。子どもの前で本音は出すなってずっと思ってきたけど。でも嘘の笑顔を見せるのは、もっと違う気がした。
帰り道、電車の中で涙が出た。理由はわからなかった。ゆうたくんの「かなしいおかお」が頭から離れないのか、自分が嘘をついたことが悲しいのか、それとも単純に疲れているだけなのか。
蒼にLINEを打とうとした。「今日、ゆうたくんに心配された」と。途中まで打って、消した。言ったら蒼が心配する。心配されたくなかった。弱いところを見せたくなかった。
スマホを膝の上に伏せた。窓に映った自分の顔は、さっき作った笑顔よりもずっと正直だった。
私は、子どもの前でちゃんと笑えているつもりだった。




