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園に来た男の子が配信者だと知ってから、帰り道が長い  作者: ユキ@異世界転生と俺TUEEEはもう辞めて現実的に生きよう


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17/25

蒼の声が、遠い

 日曜日。蒼と公園を歩いていた。


 六月の終わり。梅雨の合間の晴れた日で、木漏れ日がベンチに斑模様を作っていた。蒼が買ってきた缶コーヒーを受け取って、並んで座った。蒼の肩が近い。風が吹いて、私の髪が蒼の腕に触れた。蒼は動かなかった。


 蒼が缶コーヒーを渡すとき、指先が触れた。冷たい缶の向こうに、温かい指があった。蒼は気づいていないふりをしていた。でも耳が少し赤かった。


「なつきさんは、自分のために何がしたいですか」


 蒼が聞いた。缶コーヒーを両手で持って、前を見たまま。


「自分のために?」


「はい。仕事とか、誰かのためとか関係なく。なつきさん自身が、やりたいこと」


 考えた。缶コーヒーを両手で温めながら、ほんとうに考えようとした。でも何も浮かばなかった。料理? でも自分ひとりのためだけに鍋を出す気力が、今はない。旅行? 有給を一度も取ったことがなかった。趣味? 睡眠以外に何も浮かんでこない。


「私のため、か。あんまり考えてこなかったかも」


 蒼は何も言わなかった。急かさなかった。黙って隣を歩いてくれた。


 公園の出口に向かう途中、私の頭の中で別のことが回り始めた。月曜の配置表。三島主任が先週二日休んだから、シフトを組み直さないといけない。夏祭りの買い出しリスト。桐谷さんへの返信を書かなきゃ。


 蒼が何か言っていた。


「——で、凛が最近学校で」


 声が遠い。聞こえているのに、意味が頭に入ってこない。蒼は妹の話をしているのだろう。大事な話かもしれない。でも私の頭は、月曜のシフトに持っていかれていた。


「ごめん、なんて言った?」


「あ、いえ。大した話じゃないです」


 蒼は笑った。でも目が笑っていなかった。缶コーヒーを両手で持ったまま、しばらく公園の木を見ていた。


 帰宅して、部屋のドアを閉めた。スマホにLINEが来ていた。


『今日、楽しかったです』


 それだけ。いつもなら次の約束を聞いてくるのに、今日は聞いてこなかった。


 楽しかった。はずだ。缶コーヒーの温度も、風に触れた髪も、蒼の肩の近さも、全部覚えている。でも何を話したか、記憶の中にない。


 三島主任の欠勤が増えている。次は誰が、あの席に座るのだろう。

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