婚約破棄の夜の公爵家(2)
部屋に入って来たのは、何とも可憐な女性だった。
触れたら折れてしまいそうな華奢な身体で赤みの強い茶色の髪に、透き通るような白い肌エメラルドの様な瞳。
まだ幼さが残る少女の様な顔立ち。
確かにどれを取っても人を騙す様な人物には見えない。
それにこんな女性を町に放置すれば、直ぐに騙されるか拐かされるなど面倒事に巻き込まれるに決まっている。
ジュリアンがここへ連れてきたのは賢明な判断だったと言わざる負えまい。
「どうぞ暖炉のそばへ」
部屋の奥に来るよう勧める。
「はじめまして ステラ・アンダーソンと申します。
いきなり押し掛け、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
そう言った鈴が転がるような声にドキリとしてしまった。
何から何まで可憐だ。
ジュリアンと一緒にここへ来た理由を説明している顔は貴族令嬢には珍しくとても表情豊かで、好感の持てるものだった。
最初ここに滞在する提案には極端に狼狽えていた。
しかしジュリアンと一緒に説得するとやっと安心したように納得したようだった。
彼女を客間に下がらせて、またジュリアンと2人になると、彼がからかう様に言う。
「どうだい、ステラの印象は」
「婚約破棄されて追い出されたと言っていたからもう少し大人の女性だと思ったが随分と幼く見えたな」
「16になる成人の年に婚約して同居させられたと言っていたから、まだ16か17だからだろうな」
「そうだとしてもだ。 それにどうすれば貴族の娘があんなに痩せ細れるんだ?」
「それだけ伯爵家での生活がひどかったんだろ。
実物を見て僕が男を誑かす様には思えなかったのが頷けるだろ?
あの子が男に騙されたなら分かるけど、どう考えても無理のある嘘だよ」
ジュリアンの言う事は理解できる。
あんなに幼さと可憐さと凛とした気品を持ち合わせている女性は見た事がなかった。
子爵令嬢の割りにはしっかりとした教育も受けているような所作だった。
まだ少女なのに、本当に男を誑かして金を巻き上げる悪女だとしたら世も末だ。
世間知らずで悪い男にひっかかったと言うならまだ分かる。
「女嫌いのアルから見ても、好感がもてるだろ?」
とジュリアンが余計な事を言う。
「別に女嫌いではない。 自分勝手な女が苦手なだけだ」
ついむきになって反論してしまった。




