表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/98

第96話 領内の冬事情

暖炉の火が小さく鳴る中、カケルは受け取った書状を開いた。向かいでは、リアナも背筋を伸ばしたまま、その手元を見ている。


「……辺境伯領の視察に同行せよ、だって」


リアナがわずかに眉を寄せる。


「視察……」


「明日の朝、北門に来るようにって」


「そう」


リアナはそれだけ言って、小さく息を吐いた。


「父様がわざわざ呼ぶなら、何か理由があるはずだわ」


「うん。行けばわかるよね」


────


翌朝。


まだ冷えの残る空気の中、二人は北門へ向かった。


昨日買った上着は、風が当たっても冷えにくく、暖かい。リアナも動きやすそうな厚手の服に替えている。


肩の上では、ワサビ君がカケルの襟元を掴んでいた。左右の目が別々に動き、門の前に集まる人や荷馬車をゆっくり追っている。


「昨日のうちに準備しておいてよかったね」


「ええ。さっそく役に立ってるわ」


北門の前には、すでに数騎の騎士と馬車が待っていた。その中央に、アルシュタイン辺境伯の姿がある。


辺境伯は二人を認めると、近くまで来るのを待ってから口を開いた。


「揃ったか」


「はい」


カケルが頭を下げると、リアナもそれに続いた。


辺境伯は娘へ視線を向ける。


「毎年冬が深くなる前に、領民の備えを確認している。ヴェロワもルドルフも、ヴィクトールも見てきた。お前も知っておけ」


リアナの背がわずかに伸びる。


「当主になるかどうかは関係ない。アルシュタインの子なら、この地が冬をどう越えるかは見ておくべきだ」


「はい」


辺境伯は次にカケルを見る。


「お前も来い。平民の目で見えることもあるだろう」


「承知しました」


辺境伯は頷くと、馬車へ向かった。


「行くぞ」


一行はそのまま北へ向かった。


カケルとリアナは用意されていた馬車へ乗り込む。外は冷えるが、囲いがあるぶん風はだいぶましだった。


馬車が街を抜けると、領都の外は朝の気配を濃く残していた。


道の端には、切り出した木材を積んだ荷車が並んでいる。干した草束を運ぶ者、柵を補強している者、屋根の傷みを直している者。街の中よりも、人の動きが忙しい。


カケルはその様子を見回した。


「冬の前って、やっぱりあわただしくなるんだね」


隣のリアナが小さく頷く。


「雪が深くなる前に、やれることを全部やっておくの。遅れると、そのまま困る村もあるわ」


「そっか……」


しばらく進んだところで、辺境伯が前を見たまま口を開いた。


「冬は寒さだけが厄介なわけではない。雪で道が塞がれれば、物資は届きにくくなる。怪我人が出ても運ぶのが遅れる。備えが足りなければ、それだけで生活が立ち行かなくなる」


言葉はまっすぐだった。


「だから冬が来る前に見ておく。足りているか、抜けがないか、自ら見て確かめる。それがこの地を治める者の務めだ」


カケルは黙ってその言葉を聞いた。リアナもまた、前を向いたままだった。


やがて一行は、小さな集落へ入った。


領都からそう遠くはないが、外れに寄ったぶん風当たりが強いらしい。家々の壁には新しい板が打ちつけられ、屋根には補修の跡がある。


人々が辺境伯の一行に気づき、手を止めて頭を下げた。


辺境伯は馬車を降りると、そのまま備蓄小屋へ向かった。カケルたちも後を追う。


中には干し肉、乾燥豆、根菜、薪がきちんとまとめられている。辺境伯はざっと中を見回し、管理を任されている男へ声をかけた。


「先月より減りが早いな」


「はっ。道の補修に人手が要りまして、そのぶん食わせる数が増えました」


「補充の見込みは」


「三日後に届く予定です」


辺境伯は小屋の奥まで見たあと、すぐに近くの騎士へ言った。


「領都から少し回せ。届くまでのつなぎでいい。配り方も見直せ。後半で足りなくなるほうがまずい」


「はっ」


管理役の男が深く頭を下げる。小屋を出たあと、辺境伯は振り返って二人を見た。


「見て、何か気づいたことはあるか」


いきなり問われ、カケルは少しだけ考える。


「思ったより余裕がないんだなと思いました。足りてはいるけど、何か一つ予定がずれると苦しくなりそうです」


辺境伯は短く頷いた。


「冬はそういう小さなずれが積み重なる」


リアナも備蓄小屋のほうを見て口を開く。


「補充が三日後でも、もう前倒しで手を打っておられるのですね」


「ああ。間に合うはず、では遅いからな」


そのまま集落の外れへ向かう。


そこには背の高い柵が立っていた。近くまで行くと、何本かの木に深い傷が残っている。割れた箇所を継ぎ足した跡もあった。


辺境伯はそばにいた年配の男へ視線を向けた。


「被害はどうだ」


「先月の終わりに家畜を二頭やられました。騎士様方がすぐ来てくださって、それ以上は出ていません」


「その後は」


「見回りを増やしてからは、まだ」


辺境伯は柵へ手を当て、傷の深さを一度見た。


「補強は急げ。雪が降る前に終わらせろ」


「はっ」


男が深く頭を下げる。


リアナは、柵の傷をじっと見ていた。爪で抉った跡が深い。一本や二本ではない。


カケルもそこへ視線を向ける。


「魔獣……ですか?」


「ああ。こいつは一頭でも厄介だ。群れで来れば、こうなる」


辺境伯はそこで言葉を切り、二人を見た。


「お前たちは、この傷を見てどう思う」


リアナが先に口を開いた。


「柵そのものを強くするのはもちろんですけど……押し寄せられた時に、どこで受けるかも決めておかないと危ないと思います」


「そうだ」


辺境伯は頷く。


カケルも傷跡を見ながら言った。


「一か所に集まられると、支えきれなくなりそうです。見回りが来るまで持たせるなら、柵だけじゃなくて、人が動く位置も大事なのではないでしょうか」


「そうだ。だが、それだけでは足りん」


辺境伯の声が少し低くなる。


「群れを一度に受ければ、位置を決めていても押し切られる。だから出てくる前に気づくための見張りと、下りてきた時にすぐ動ける詰め所も要る」


リアナが小さく息を呑み、カケルも頷いた。


「だから視察は村だけ見て終わりではない。騎士がどこから動くか、どこで受けるか、それも見ておく必要がある」


その後、一行は集落の周辺と街道沿いの備えを順に見て回った。


冬の間、荷車が止まりやすい場所。雪で道幅が狭くなる箇所。森側から獣が出たとき、騎士が入りやすい道筋。


辺境伯は、それらをひとつずつ確認しながら必要な指示を飛ばしていく。


「そこは除雪が遅れる。先に枝を払っておけ」

「この柵は低い。もう一段足せ」

「見張りの交代が遅い。日が短くなる前に組み直せ」


カケルはその背を見ながら思う。


この人は、強さだけを見ているわけじゃない。強さが必要になる場所を、ちゃんと知っている。


昼を過ぎた頃、一行は街道脇の高台で足を止めた。


そこからは、遠くの森と、その手前に広がる道筋がよく見える。道の脇には古い見張り台の残骸が残っていた。


辺境伯はそちらへ目をやった。


「ここは以前、スノーグリズリーに壊された」


リアナが息を呑む。


「……あれに、ですか」


「そうだ。冬に活発化して、群れで下りてくる。雪が深い年ほど、麓まで来やすい」


辺境伯は少し間を置いて続けた。


「我が騎士団であっても毎年苦戦する。対応に出た騎士にも死人が出る年もある」


風が吹き、乾いた草が揺れた。辺境伯は視線を森から外し、二人を見る。


「だから冬の備えは、村の中だけ見て終わりではない。被害が出る前に、どこまで踏ん張れるかも見ておく必要がある」


リアナは静かに頷いた。


「……はい」


「お前たちも、今日はそこまで見ろ」


「わかりました」


その後も一行は、街道の曲がり角や見晴らしの利く場所、騎士が集まりやすい詰め所を回った。視察が終わる頃には、日はもう傾きかけていた。


冷たい風の中、リアナが外套の前を押さえる。


「……兄様たちも、こういうのを見てきたのね」


「そうなんだろうね」


カケルが答えると、リアナは少しだけ森のほうを見た。


「知識では知っていたつもりだったわ。でも、実際に見ると違う」


「うん。違うね」


前を行く辺境伯の背は、最後まで変わらずまっすぐだった。


やがて辺境伯が足を止めた。


「今日はここまでだ」


騎士たちが馬車を整え始める。辺境伯は振り返り、二人へ告げた。


「明日は、さらに雪の深くなる側を回る。今日見たものが、冬にどう変わるかも知っておけ」


「はい」


リアナが答え、カケルも続けて頷いた。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


本作の他にも、完結済みの作品を公開中です。


■魔王軍、おもてなしの極致 〜聖女の笑顔のために軍予算を「観光」へ全振りしたら、魔界が爆益を上げ始めた件〜

https://ncode.syosetu.com/n1299lr/


■人間嫌いの私は闇の精霊(上級)に転生しました。~見た目が「黒い毛玉」なので無能と罵られましたが、契約主の孤独な侯爵令嬢と共にレベルアップして毒親たちを断罪します~

https://ncode.syosetu.com/n5749lp/


■異世界コンサルはじめました。~元ワーホリマーケター、商売知識で成り上がる~

https://ncode.syosetu.com/n5582kv/


ぜひこちらもお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ