第91話 ヤモリ枠の開放
『オーナー・カケル・モリシタの召喚士レベルが16に到達しました』
『新たな召喚枠「ヤモリ類」が解放されます』
カケルはその場で足を止めた。ようやく届いた。
ぎゅっと拳を握る。
「……っ、やった」
喉の奥からこぼれた声は、少し震えていた。次の瞬間には、もう抑えきれなかった。
「やったーーーー!! 長かった!!」
街道脇に響いた声に、リアナがびくりと肩を跳ねさせる。
「し、師匠!? 急にどうしたのよ!?」
カケルは振り向いた。顔が勝手に緩むのを止められない。
「きたんだよ、リアナさん。やっと」
「……何が?」
「新しい召喚枠が解放された!」
リアナの目がぱっと見開かれた。
「ほんと!?」
「うん。本当に」
「やったじゃない!!」
この二カ月、カケルたちは以前リアナが提案したように、これまでより高めの依頼も積極的に受けるようになっていた。
その中で、カケルはひとつの傾向を改めて強く意識するようになっていた。
戦いで敵を倒したのがその子自身でなくてもいい。索敵でも、誘導でも、拘束でも、水辺での警戒でもいい。少しでも戦闘に関わっていれば、その働きの大きさにかかわらず、誰にでも同じように経験値のようなものが積み重なっている。
日々の伸び方を細かく見ていくうちに、カケルはそう考えるようになっていた。
だから最近は、無理をさせないことを大前提にしつつ、できるだけ多くの家族に役目を持たせるようにしていた。
借家へ戻る足は、いつもよりずっと速かった。
扉を開けるなり、リアナが振り返る。
「師匠、早く庭に出ましょ」
「うん」
荷物を置き、二人はすぐに庭へ回った。夕方の光はだいぶ傾いていて、庭先にはやわらかな影が落ちている。リアナはそわそわと落ち着かない様子でカケルを見た。
「ヤモリって、トカゲみたいなやつでしょ? 何匹いるの?」
「全部で……六匹かな」
「六匹!? それはまた、多いわね」
呆れたように言いながらも、リアナの顔はしっかり笑っていた。
カケルは小さく息を吐く。胸の奥が妙に熱い。前世で一緒にいた家族たちが、またこの世界に来る。何度経験しても、その瞬間の前だけは少し落ち着かない。
「……じゃあ、呼ぶね。からし、みかん、おいで」
カケルが手をかざすと、足元に光が広がった。
最初に現れた二匹を見て、リアナがぱちぱちと目を瞬かせる。
「えっ、ちょっと待って。この子たち、すごく綺麗なんだけど」
庭に姿を現した二匹は、どちらも一メートル半ほどの大きさがある。けれど目を引いたのは、その落ち着いた動きよりも先に、体色だった。
片方はやわらかな黄色をまとい、もう片方はあたたかな橙を帯びている。どちらも斑模様がくっきりと入り、夕方の光の中でもよく映えた。
「ヒョウモントカゲモドキだよ。前世ではレオパとも呼ばれてた子たちで、こっちがからしで、こっちがみかん」
「へえ……なんだか、どっちも愛嬌を感じられる名前ね」
「うん。この子たちに合うと思って」
からしは落ち着いた様子でゆっくりと地面を歩き、みかんはその少し後ろからついてくる。派手な色合いなのに、動きは不思議なくらい穏やかだった。
「ヤモリって、もっと地味な色かと思ってたわ」
「この子たちはけっこう華やかなんだよね」
カケルは思わず頬を緩める。低い姿勢も、太い尾も、ゆったりした足取りも、何もかもが懐かしかった。
「久しぶり」
からしがゆるく瞬きをし、みかんは少しだけ首を傾げた。
リアナがその様子を見て、少しだけ笑う。
「師匠、顔がすごく緩んでるわよ」
「仕方ないよ……久々に会えたんだから」
カケルはもう一度二匹を見てから、次の召喚へ意識を向けた。
「ダイス、チップ、おいで」
再び光が揺れ、今度は灰色を基調とした二匹が姿を現した。
全長は一メートルほど。さっきのレオパより一回り小さいが、体つきには独特のもっちりとした厚みがある。足は短く、重心も低い。けれど次の瞬間、その一匹がするりと石壁を駆け上がり、もう一匹は木の幹へぱっと移った。
「速っ!?」
リアナが目を見開く。
その体表は、どこか魚を思わせる細かな鱗に覆われていた。
「オオバクチヤモリ。ダイスとチップ」
「……ずいぶん変わった名前の種族なのね」
「うん。でも、この子たちの特徴を知ると、たぶん納得するよ」
ダイスが壁を素早く駆け、チップが木の幹へ移る。短足でもっちりした体つきなのに、その動きは驚くほど軽い。リアナはまじまじと二匹を見上げた。
「……さっきの子たちと違って、こっちの子たちはちょっと地味ね?」
「何言ってるの!?」
あまりにも即答だったので、リアナが一歩引く。
カケルは壁と木に張りついた二匹を指さした。
「この短足でもっちりした体形に、見た目に似合わない素早さだよ? それに、ただの灰色じゃないんだ。グレーの中にうっすら虹色の光沢があって、何より、このつぶらな瞳! 可愛いしかないでしょ!!」
「ちょ、師匠、怖い……」
「特に脱皮殻はオーロラカラーで…」と、なおもぶつぶつ言っているカケルから視線を外し、リアナは若干のけぞりながらも、改めて二匹を見る。
短い足。低い体。もっちりした輪郭。ぱっと見は地味に見えるかもしれない。けれど、言われてみれば妙に愛嬌がある。しかも壁や木を走る動きは見た目に反して軽やかで、その落差が目を引いた。
「……あれ」
「でしょ?」
「……よく見たら、かわいいかも」
「でしょ!!」
「うわ、圧が強い」
リアナは苦笑しながらも、ダイスとチップから目を離さなかった。
カケルは満足げに頷き、最後の召喚へ意識を向ける。
「ミカド、シルク、おいで」
三度目の光の中から現れたのは、もっと小柄な二匹だった。
全長は六十センチほど。ミカドが少し高い枝へするりと移り、シルクもその下の枝に張りつく。目元から後ろへ流れる突起が、夕暮れの光の中でまつげのように見えた。
「クレステッドゲッコー。ミカドとシルク」
「何この子たち! まつげあるわ!!」
リアナが思わず声を上げる。
ミカドもシルクも、枝の上を軽やかに移っていく。小柄なぶんだけ可憐さが目立ち、どこか品がある。
「これはクレストっていうんだけど、可愛いよね」
「へえ……ほんとだ。可愛いし、なんだか上品ね」
「それに、この子たち、頭のあたりは触り心地もいいんだよ。すべすべしてて、ちょっともちっとしてて」
「えっ、ほんとに!?」
リアナがぱっと身を乗り出す。
「触るなら優しくね」
「わかってるわよ」
リアナはそっと手を伸ばし、シルクの頭まわりに指先で触れた。
「……わ、なにこれ」
思わず漏れた声に、カケルが笑う。
「でしょ?」
「すべすべしてるのに、やわらかい……」
リアナは目を輝かせたまま、もう一度そっと撫でた。
こうして並ぶと、六匹ともたしかに大きい。レオパは一メートル半ほど、バクチは一メートルほど、クレスでも六十センチ近くある。
けれど、不思議と威圧感は薄かった。
どの子もしっぽが長く、体の半分近くをそこが占めているせいかもしれない。胴そのものはそこまで大きくなく、低い姿勢で動くぶん、迫力よりも先に愛嬌が立つ。
カケルは改めて六匹を見渡した。
からしとみかんの華やかな色合い。ダイスとチップのもっちりした体と、そこからは想像しにくい素早さ。ミカドとシルクの軽やかさと、目元の愛らしさ。
同じヤモリでも、こうして並べてみるとまるで違う。
「……やっぱり、可愛いね」
「ええ。ほんとに」
リアナは笑いながら頷いた。
カケルはそこで意識を集中させる。
「さて、と。あの子たちに何ができるのか、ちゃんと見ておこう」
脳内に、新しい家族たちの詳細なステータスが展開された。
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【召喚獣詳細】
名称:からし、みかん
種族:ヒョウモントカゲモドキ
レベル:1
【固有スキル】
・魔力備蓄:尾に蓄えたエネルギーを分け与え、オーナーの魔力を緩やかに回復する。
・尾囮:尾を切り離して敵の注意を逸らし、その隙に離脱や立て直しを行う。
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【召喚獣詳細】
名称:ダイス、チップ
種族:オオバクチヤモリ
レベル:1
【固有スキル】
・すり抜け:攻撃を受けた瞬間、剥がれた皮だけを残して回避する。
・壁走り:壁や天井を高速で移動する。
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【召喚獣詳細】
名称:ミカド、シルク
種族:クレステッドゲッコー
レベル:1
【固有スキル】
・夜間索敵:暗闇でも広範囲の気配や動きを探知する。
・樹上跳躍:木々や高所を素早く飛び移る。
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「へえ……」
リアナが表示を覗き込みながら小さく息をつく。
「本当にみんな全然違うのね」
「うん。レオパは支援寄りだし、バクチは攪乱と回避、クレスは夜と高所に強い索敵役だね」
カケルは改めて六匹を見る。
昼の索敵ならピー太郎たちがいる。地上の制限や足止めならキョロとチョロ。そこに、夜や高所に強いクレスが加わる。からしたちの支援も、ダイスたちの攪乱も、これからかなり頼りになるはずだ。
「いいね……眼福」
「師匠、また顔が緩んでる」
「仕方ないよ。嬉しいから」
リアナはくすっと笑った。
カケルは続けてナビゲーターへ問いかける。
「今いる家族たちのレベルも確認したい」
『現在の召喚獣情報を表示します』
茶渋はレベル40。ワサビ君は39。ピー太郎たちとほっぺは35。キョロとチョロは32。イガとグリは30。じったんも30。金魚は18、ベタは16、ヴァンパイアクラブは19。
二カ月前と比べると、ずいぶん成長した。
前に出て戦う者。見つける者。誘う者。縛る者。支える者。水辺で動く者。夜にこそ力を発揮する者。
それぞれ違う力を持つ家族たちが、少しずつ増えて、少しずつ育って、ここまで来た。
カケルは小さく息を吐く。
「……すごいな」
カケルはそのまま、もうひとつ気になっていたことを尋ねる。
「次の召喚枠が解放されるのは、召喚士レベルいくつ?」
『次の召喚枠解放は、召喚士レベル19です』
庭先に立つ六匹を見ながら、カケルは胸の奥に満ちる温かさを噛みしめた。
長かった。けれど、そのぶん嬉しい。
「まだまだ可愛い子たちがたくさんいるから、リアナさんもびっくりするよ!」
「これまでも十分びっくりしたもの。今更だわ」
「どうだろうね」
カケルが笑うと、リアナもつられて笑った。夕暮れの庭は、いつもより少しだけ賑やかで、少しだけ優しかった。
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今回はヤモリ枠が解放されて、ヒョウモントカゲモドキ、オオバクチヤモリ、クレステッドゲッコーが新しく登場しました。どんなヤモリなのか簡単に紹介します。
◾️ヒョウモントカゲモドキ
英名がレオパードゲッコーで、「レオパ」と呼ばれることも多いヤモリです。
※AIで生成しています
夜行性で、地表を歩くタイプで、ヤモリの中では珍しく動くまぶたを持っています。そのため、「トカゲモドキ」というのです。また、太い尾に栄養を蓄える性質があり、健康的な個体はかなり尾がふっくらとしています。
今回の二匹は、マックスノーの「からし」と、タンジェリンの「みかん」です。ヒョウモントカゲモドキは品種によって色の印象がかなり変わるので、あの華やかさはレオパらしい魅力のひとつだと思っています。
◾️オオバクチヤモリ
※AIで生成しています
樹上性のヤモリで、ずんぐりした体つきと、しっかりした尾を持っているのが特徴です。木の上で暮らす種類ですが、見た目のもっちり感に反して動きはかなり素早いという特徴があります。
「オオバクチヤモリ」という和名の由来としては、危険があった際に鱗をずるっ剥いて逃げる様子が、まるで博打に負けて身ぐるみ剥がされたように見えることから、という説があります。作中でダイスとチップという名前にしたのも、そこから連想しました。
◾️クレステッドゲッコー
和名では「オウカンミカドヤモリ」とも呼ばれます。
※AIで生成しています
目の上から背にかけて並ぶ突起が特徴で、この部分が英名の「crested」の由来です。種小名の由来も、まつげのように見えるその突起に関係していると考えられています。夜行性で、木の上を軽やかに移動し、尾も登る時の支えとして使います。
ミカドとシルクという名前は、和名の「オウカンミカドヤモリ」から「ミカド」を取りつつ、そこからミカドの名を持つ最高級シルクから連想して付けています。
本作の他にも、完結済みの作品を公開中です。
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