第83話 白くあふれた光
白い光の向こうから、影が飛び出した。
速い。
いや、速いというより、地を裂くように駆けた。
リアナの前へ回り込もうとしていたフォレストフォックスが、その影に弾き飛ばされる。
一体、二体。茶褐色の毛並みが宙を舞い、土の上を転がった。
「……え?」
思わず漏れた声の先で、その存在が地を蹴る。
馬ほどの大きさがある。だが、馬ではない。
しなやかな後肢。
鋭く地を掴む爪。
前へ突き出した頭部には、鳥のようなくちばしがあった。
それなのに、漂う気配はもっと別のものに近い。獣とも鳥とも違う、どこか竜を思わせる鋭さがあった。
低く身を沈めたそのまま、それは再び走る。目で追うより先に、影が森の中を切り裂いた。
フォレストフォックスたちが慌てて散る。けれど、その動きよりさらに一歩早く、それは横へ回り込み、逃げ道を塞ぐように駆け抜けた。
一体を右へ。もう一体を左へ。
そして残った群れを、大きく弧を描くようにシルバーのいる側へ押しやる。
その動きを見て、リアナははっと息を呑んだ。考えるより先に、口が動く。
「シルバー!」
銀の狼が、すぐに振り向く。
「今よ、やって!」
シルバーが地を蹴る。逃げ場を失ったフォレストフォックスへ、一気に飛びかかった。
鋭い爪が閃き、一体が倒れる。すぐ後ろの一体へ噛みつき、そのまま押し倒す。
それは止まらない。
さらに外側を回り込み、散ろうとしたフォレストフォックスをまた押し返す。気づけば自然と、シルバーのいる側へ追い込んでいた。
「すご……」
呆然としかけた思考を、リアナはすぐに引き戻す。
まだ終わっていない。
「シルバー、右!」
リアナの声に応え、シルバーが最後の一体へ駆ける。そこへ、それが横から飛び込み、逃げ道を断った。
短い悲鳴。それで、森はようやく静かになった。
荒い息の中で、リアナはようやく目の前の存在をまともに見た。
馬ほどの体格。
細く強い脚。
鳥のようなくちばし。
けれど、伏せた姿の奥に潜む空気は、やはり竜を思わせる。
見たことがない。少なくとも、リアナの知るどの召喚獣とも違っていた。
「……あなた、何なの?」
問いかけても、もちろん答えは返らない。そのかわり、それは勝利を喜ぶみたいにリアナのそばへ寄ってきた。
「え、ちょっと――」
細い首がぐいと伸び、腕にすり寄ってくる。思っていたよりずっと無邪気な仕草に、リアナは目を瞬いた。
その横で、シルバーが低く唸る。主を庇うように、半歩前へ出た。
「グルル……」
「シルバー」
リアナはそっと銀の頭を撫でた。
「大丈夫よ。この子は、私たちを守ってくれたわ」
唸り声はすぐには消えなかったが、シルバーはそれ以上前へ出ようとはしなかった。ただ、油断なくそれを見つめている。
リアナも改めて、その姿を見上げた。
見たことがない。それなのに、不思議と怖くはなかった。
「……この子、私が召喚したの?」
口にしてから、胸の奥へ意識を向ける。
さっきまで激しくざわついていたはずの内側が、今は妙に静かだった。それどころか、どこかすっきりしている気さえする。
「もしかして……」
そこで、はっと我に返る。
「レオ!」
うろの中へ駆け寄ると、震えた顔のレオがこちらを見上げた。
「も、もうだいじょうぶ……?」
「大丈夫よ。もう終わったわ」
リアナが声をかけると、レオはうろの中からおそるおそる顔を出した。けれど、外へ出た途端、張っていたものが切れたみたいに顔を歪める。
「う、う……っ、こわかったぁ……!」
花を握ったまま、レオはその場で大泣きした。
「ごめ、ごめんなさい、おねえちゃん、ごめんなさいぃ……!」
「違う、謝らなくていいの。あなたは悪くないわ」
リアナはすぐにしゃがみ込み、レオの肩を抱いた。
「ごめんね。怖い思いさせちゃったわね」
そう言った声が、自分でもわかるくらい少し震えた。
今さらになって、足が震えている。息も浅い。
張り詰めていたものが遅れて一気にほどけていった。
レオがしがみついてくる。そのぬくもりに触れた瞬間、リアナの目からも涙がこぼれた。
「ちょ、ちょっと……私まで何泣いてるのよ……」
半分呆れたみたいに言いながら、声はうまく整わない。
「もう大丈夫よ。ほんとに、もう大丈夫だから……」
しばらくそうして背をさすっていると、ようやくレオの泣き声が少しずつ落ち着いてきた。
その時だった。
新しく現れた召喚獣が、レオの前まで歩いていく。そして、すっと足を折ってしゃがみ込んだ。
「え?」
「ケー!」
くちばしの先を少し上げ、背中を見せるようにしている。まるで乗れと言っているみたいだった。
レオがしゃくりあげながら、リアナを見る。リアナも一瞬きょとんとしたが、すぐに小さく笑った。
「……優しいのね、あなた」
それはしゃがんだまま、どこか嬉しそうに首を揺らした。
「レオ、乗れそう?」
「う、うん……」
まだ涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、レオは小さく頷く。
リアナが支えてやると、レオはそっとその背に乗った。馬ほどの大きさがあるだけあって、子ども一人なら十分に乗せられそうだった。
花を抱えたまま背に乗ったレオを見て、リアナはようやく大きく息を吐く。
「……とりあえず、帰りましょう」
シルバーはまだ少しだけ警戒したままだったが、リアナが歩き出すと、何も言わずその横についた。新しい召喚獣も、レオを背に乗せたまま楽しそうに後をついてくる。
森を出る頃には、胸の奥はさっきまでと違って、不思議なくらい静かだった。
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