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前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


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第79話 辺境伯への報告

聖ミレア孤児院から戻った翌日。リアナたちは、エアリスの手配で辺境伯邸の一室に通されていた。


窓から差し込む光は明るい。だが、部屋の空気は静かに張りつめている。


リアナは膝の上で指先を組み、知らず力を込めていた。


正面の上座には辺境伯。その少し後ろには、ヴィクトールも控えている。


腕を組み、面白くなさそうな顔をしていたが、父の前では口を挟まない。


「報告を」


短い一言に、エアリスが一歩前へ出た。


「はい」


「聖ミレア孤児院について、支援物資の不適切な保管、および支援金の用途不明支出が確認されました」


文官が静かに筆を走らせる。


「子ども用衣類、菓子、書籍、遊具などが未配布のまま保管されていました。にもかかわらず、一部は使用済み、あるいは配布済みとして処理されていました」


辺境伯は黙って聞いている。


「さらに確認を進めたところ、ベルクマン本人は、支援物資の一部を一定期間保管したのち売却していたことを認めました」


リアナの指先に、ぐっと力が入った。


「支援金についても、孤児院運営とは無関係と見られる支出が複数確認されています。現時点で、アントン・ベルクマンによる私的流用の疑いが濃厚です」


報告がひと区切りつくと、辺境伯の視線がリアナへ向いた。


「お前が気づいたことで発覚したと聞いた」


「……はい」


「話せ」


リアナは小さく息を吸った。


「街で、ターニャという女の子に会いました」


最初の出会いから、順を追って話していく。


古びた服と靴。

「院長先生に怒られちゃう」と慌てて帰ったことが気になったこと。

孤児院で、普段とは明らかに違う服を着ていたこと。

「特別な日だけ」と言ったこと。

「お客様の日だけ」と、召喚獣へおやつを差し出したこと。


そして一週間後、差し入れを持って再訪し、保管室の存在へたどり着いたこと。


最後まで話し終えると、部屋はしんと静まった。


辺境伯は少しのあいだ黙っていた。やがて、低くよく通る声で言う。


「市井の小さな違和感を見逃さないことは、上に立つ者にとって大切なことだ」


リアナの背筋が伸びた。


「よくやった」


胸の奥に、まっすぐ落ちる言葉だった。認めるべきものを認めた、ただそれだけの一言。


「……ありがとうございます」


声が少し掠れた。辺境伯はそのままエアリスへ視線を戻す。


「エアリス」


「はい」


「アントン・ベルクマンは即時更迭とする。身柄は確保し、帳簿と支出記録はすべて押さえろ。孤児院には臨時で人員を入れ、子どもたちの生活を途切れさせるな」


「承知しました」


「物資は棚卸しの上、必要に応じて再配布。子どもたちに不要な不安を与えるな。説明は最小限でよい」


「はい」


「流用分については文官と騎士隊で追え。必要ならば関連先も洗え」


「承知しました」


命令は迷いなく静かに下されていった。


「カケル」


「はい」


「お前も、ご苦労だった」


カケルは少しだけ目を伏せた。


「いえ。俺は、リアナさんが気づいたことを一緒に確かめただけです」


「それでも、見過ごさなかった」


「……はい」


短いやりとりのあと、部屋にひとつ静けさが落ちた。


それを破ったのは、ヴィクトールだった。


「……一件の孤児院を正した程度で、大げさなことだ」


抑えた声だった。父に逆らう気はないが、面白くないという雰囲気が滲んでいた。


リアナはちらりと兄を見たが、何も言わなかった。


辺境伯が口を開いた。


「ヴィクトール」


「……はい」


「大切なのは武功のみならず、領内の歪みに気づき、正すことだ」


ヴィクトールの口元が、わずかに固まる。


「お前もよい機会だ。今後、孤児院の視察に加わるように」


数秒、部屋が完全に静まり返った。


ヴィクトールは目を見開いたまま固まる。何を言われたのか、理解が追いつかない顔だった。


辺境伯はその反応を気にも留めず、文官へ向き直る。


「日程を調整しろ」


「承知しました」


辺境伯は立ち上がり、最後に一度だけリアナたちを見た。


「下がってよい」


「はい」


リアナは深く頭を下げた。カケルとエアリスも続く。


その横で、ヴィクトールだけが、まだ完全に固まっていた。


孤児院。

視察。

命令。


その全部が一度に降ってきた顔をしている。


部屋を出る寸前、リアナはちらりと兄を見た。さっきまでの皮肉げな余裕は、もうどこにもない。


無言で立ち尽くすその姿は、少しだけ気の毒で、でもかなり面白かった。


扉が閉まる直前。

ようやく絞り出された、かすれた声だけが中から聞こえた。


「…………っ」


さすがに声にならなかったらしい。


それが余計におかしくて、リアナは廊下に出た瞬間、思わず肩を震わせた。


次に送り込まれる先を思えば、なおさらだった。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


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