表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/77

第57話 辺境伯の評価

アルシュタイン辺境伯邸の客室は、カケルの想像を遥かに超えていた。数日が経っても、カケルは肩の力を抜けずにいた。


朝、音もなく開いた扉から数人のメイドが滑り込み、カケルの意向を待たずに「最適」を整えていく。湯を運び、火を世話して、カケルが下げた頭には微かな衣擦れだけが返った。畳もうとした衣服は先回りして回収され、代わりに清潔な着替えが差し出される。


礼を言うたび、自分の声だけが場違いに浮いていく気がして、背もたれに預けかけた体を起こした。こちらの手を差し込む余地が一切ない空間だった。


「師匠、入るよ。顔色は良くなったね」


リアナは日に何度も足を運び、カケルの様子を確認した。カケルは贅を尽くした皿を音もなく下げるメイドの背中を見送り、小さく息を吐いた。


「ありがとう、リアナさん。ありがたいんだけど、落ち着かないんだ」


「父様が許可したことだよ。大切に扱うのが客人に対する礼儀。だから、そんなに困らないで」


リアナが笑うと、カケルも苦笑して頷いた。少し体を起こした拍子に、討伐直後に視界を流れた文字列がふと脳裏をよぎる。


新たに解放された召喚枠は「魚類・水生生物」。


本当なら、今すぐにでもどんな子が来てくれるのか確かめたかった。けれど、水の中で生きる家族なら、迎える前にきちんと環境を整えたい。仮の器や間に合わせの水場で呼ぶようなことはしたくなくて、その思いが逸る気持ちにそっと蓋をしていた。


「……どうしたの、師匠?」


「ううん。ちょっと、次のことを考えてたんだ。でも、慌てないで準備したいなって」


カケルがそう言うと、リアナは事情を深くは問わず、ただ不思議そうに首を傾げた。


――――――


アースマンモスとの接触から四日目の午後。カケルはアルシュタイン辺境伯の執務室へと呼び出された。室内には辺境伯とリアナ、そして長男のヴィクトールが同席していた。


「父上。この平民を厚遇するなど、アルシュタインの品位に関わります」


ヴィクトールはカケルへ冷ややかな視線を浴びせた。


「あの場の連携は認めてやる。……悪くない。だが単体なら、私のサンダーウルフが上だ。貴様の愛玩動物に、並ぶものはない」


辺境伯はカケルから目を離さず、言葉だけを落とした。


「崩し方は悪くない。多数を回した手際も見事だ」


辺境伯が一度口を閉じると、部屋の空気が一段重くなる。


「だが、押し切れなかった。あれ以上は、力でねじ伏せるしかない場面が来る。それもまた事実だ」


カケルは言葉を返さず、その評価を受け止めた。辺境伯の視線は次に、息子へと向けられた。


「ヴィクトール。禁域の封印を破ったのはお前だ。越えた代償は、領が受ける」


ヴィクトールの反論の気配を、辺境伯が言葉で押し潰した。


「判断が甘い。己の証明のために、自分で制御できぬものに手を出し、結果として土地と民を危険に晒した」


声は平坦だったが、室内の空気だけが冷えていく。


「余波はまだ収まっていない。街道沿いの見回りを完遂しろ。お前の判断が招いた不始末だ」


ヴィクトールは唇を噛目、喉の奥を鳴らしたが、父の視線に押されるように頭を下げた。


「ヴィクトール、下がれ」


一礼してその場を退く息子を見送り、執務室の空気がわずかに変わると、辺境伯はリアナへ向き直った。


「リアナ、お前は屋敷へ帰ってこい」


「父様……私は……師匠の家に戻りたい。まだ学びたいことがあるの」


リアナは言い訳をせず、ただ父を見据えた。


「終わらせる強さと、支える強さ。その両方を知らなければ、私はシルバーの主として、足りないままになってしまうわ」


一拍の沈黙の後、辺境伯は一度だけ重く頷くと、視線だけで外を示した。控えが扉を開け、リアナは一礼して部屋を後にした。


部屋に残されたのは、辺境伯とカケルだけになった。


「お前のやり方は認める。リアナにも成長が見えた」


辺境伯は一度だけ息を置き、言葉を続けた。


「娘を、お前の家に置くことを許可する」


「……よろしいのですか、辺境伯様」


「シルバーは、あの場で見事に牙を剥いた。お前の教えが、恐怖を上回ったのだろう」


辺境伯は手短に条件を並べた。


「リアナの行動はお前が見ろ。危険判断は任せる。護りを切らすな。……月に一度、状況を報告しろ」


そう言い切ると、それ以上は口にせず、書類へ視線を戻した。


条件はどれも、リアナの安全に寄っていた。カケルは何かを言いかけて、それを飲み込んだ。


辺境伯はもはや言葉を重ねず、ただ退出を促すように視線を外した。カケルは丁寧に頭を下げ、部屋を辞した。


廊下に出た瞬間、溜めていた息を深く吐き出す。あの厳格な男の底にある不器用なものを、カケルは確信に近い感覚で捉えていた。


三日後。街道の足跡は統制を失って乱れていた。森が静かすぎて、逆に耳が痛い。見回り任務中のヴィクトールは、二頭のサンダーウルフと共に森の境界に立っていた。


茂みが大きく揺れ、三体のフォレストボアが興奮状態で突っ込んできた。本来なら格上の気配を前に止まるはずだが、彼らは恐怖を塗り潰したような異常な昂ぶりを見せている。


「サンダーウルフ。処理しろ」


二頭が左右へ分かれ、ボアの頸を沈めるように噛み伏せた。戦闘は十数秒で終わった。二頭は獲物から牙を抜き、音もなく主の半歩後ろで静止した。なおも遠くの茂みがざわめき、次が来る気配が消えない。


ヴィクトールは一度だけ手を伸ばし、傍らに立つ一頭の耳の付け根を確かめるように撫でて、すぐに手を離した。


「悪くない動きだ。……次に備えろ。遅れるな」


指摘を受けた二頭は短く喉を鳴らして応えると、再び前方の警戒へと意識を戻した。ヴィクトールは召喚を維持したまま、乱れた街道の先を睨み据えた。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


本作の他にも、完結済みの作品を公開中です。


■魔王軍、おもてなしの極致 〜聖女の笑顔のために軍予算を「観光」へ全振りしたら、魔界が爆益を上げ始めた件〜

https://ncode.syosetu.com/n1299lr/


■人間嫌いの私は闇の精霊(上級)に転生しました。~見た目が「黒い毛玉」なので無能と罵られましたが、契約主の孤独な侯爵令嬢と共にレベルアップして毒親たちを断罪します~

https://ncode.syosetu.com/n5749lp/


■異世界コンサルはじめました。~元ワーホリマーケター、商売知識で成り上がる~

https://ncode.syosetu.com/n5582kv/


ぜひこちらもお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ