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前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


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第55話 構造の勝利

咆哮が空気を物理的な塊に変えて、広場を殴りつけた。肺の奥が押し潰され、呼吸が一度止まる。


アースマンモスの巨大な鼻が、粉塵を吹き飛ばしながら石畳を横に薙いだ。地面が容易く捲れ上がり、破片が礫となって周囲を削る。


ナビゲーターの報告が途切れない。


老人が動けない位置。門前の詰まり。次に沈む足場。


カケルは視線を動かさずに、必要な情報だけを拾い上げた。すべてが、刻一刻と変化していく。


「ピー太郎、そのまま。右へ偏らせて」


ピー太郎が先頭で急旋回し、残りの三羽が左右からアースマンモスの視界を横切るように散った。アースマンモスの巨大な瞳が、鼻先をかすめる橙色の嘴を追って、右へ大きく首を振った。


生物としての習性が優先され、巨体が群衆のいる方向とは逆へと傾いた。カケルが狙った通りの、脱出のための空白が生まれた。


「師匠、こっちは任せて! 導線はシルバーが守る!」


リアナがシルバーと共に、パニックに陥った群衆の横を走る。シルバーが低く唸り、逃げ惑う人々を物理的に押し出すようにして門へと誘導した。


ヴィクトールは歯噛みした。自分が力でねじ伏せようとして失敗した山を、カケルは直接触れもせずに動かし始めている。


「キョロ、チョロ、糸をもっと。足裏と関節の内側、嫌がる場所に置いて」


糸は人のための転倒防止の補助線になり、逃げる手がそこに縋った。


同じ糸が、足先にまとわりつくように執拗に絡んだ。アースマンモスが前足を上げた。


その一歩の重さが地面を沈ませ、石畳が波打つ。


「イガ、グリ、今――頼む」


二頭のフトアゴヒゲトカゲが、石畳の隙間を滑走した。


アースマンモスの巨大な足が下りてくる。その影がイガの全身を覆い、踏み込みの衝撃が地面を叩いた。


イガが余波だけで吹き飛ばされ、石柱に背中を打ち付けた。輪郭が激しくブレ、粒子が体表から溢れ出す。


「イガ、無理しないで。すぐ戻って」


強制送還される寸前のイガを、カケルは迷わず送還した。輪郭がほどけ、粒子になって消える。


アースマンモスは、足先にまとわりついた糸の粘性を嫌がって、降ろしかけた足が半拍遅れた。その隙に、キョロとチョロが接地している三本の足の周囲に糸を集中させた。


だが、衝撃は想定を超えていた。アースマンモスが苛立ちに任せて鼻を振り回すと、糸を固定するアンカーにしていた石柱の一本が根元からへし折れた。


避難路を支えていた仕組みが、音を立てて崩れる。逃げ遅れていた老人の目の前に、瓦礫の山が崩落した。


「師匠、あっちが崩れた!」


リアナの声に焦りが混ざる。カケルは即座に意識の情報を更新した。


(先に、みんなを出さなければ!)


「じったん、半歩だけ。そこで受けて、踏む位置をずらそう」


重厚なアオジタトカゲが、カケルの足元の石畳を沈ませながら進み出た。


巨体は折れた石柱を無視し、最も目障りなカケルへと向けて傾く。重心が前に崩れる。


十トンを超える質量が、慣性に従って移動を開始した。


「キョロ、チョロ、右の柱へ。転ばせるよ」


カケルの判断と同時に、アースマンモスの左前足に大量の糸が絡みついた。それを引きちぎろうと力任せに足を振り抜いた瞬間、糸が引かれ、沈んだ石畳が滑り、着地点がわずかに外へずれた。


じったんはそのわずかなずれを逃さず、その場で踏ん張り、ずれた足先をさらに外へ逃がした。


地面が沈んだ。アースマンモスの前足が、想定された位置から三十センチ外側へ滑った。


バランスを失った山の筋肉が、自らの質量を支えきれなくなる。


ドォォォォォン。


世界が反転したかのような衝撃が広場を揺らした。アースマンモスが横倒しに転倒し、周囲の建物が震動で悲鳴を上げた。


粉塵が視界を白く染め上げ、空気の塊が全員の肺を等しく圧迫する。


巨体が横たわった衝撃で、頸の付け根、皮膚の薄い部分がさらけ出される。


その時、ヴィクトールが叫んだ。


「今だ、平民! さっさと仕留めろ。……その醜い化物の息の根を止めろ!」


だが、カケルは動かなかった。


視界の端で、じったんの輪郭がわずかに揺れている。イガも、まだ粒子が落ち着ききっていない。


ここで近づけば、アースマンモスは死に物狂いで暴れるかもしれない。脚が跳ね、鼻が薙いでくる。衝撃が連鎖すれば足場が割れて、逃げ道が潰れるだろう。


「……ごめん。みんな、もう少しだけ、付き合って」


狙うのは急所じゃない。起き上がる「手順」を崩す。


「リアナさん、今のうちに全員を門の外へ。俺は、起き上がりを遅らせる」


倒れた巨体が、横倒しのまま脚をばたつかせる。怒りというより、足場を失った獣の苛立ちと、鈍い焦燥。


鼻先が土煙を吸い込み、吐き出すたび、地面の粒が跳ねていく。残った柱へ糸が張り替えられ、切れかけた逃げ道がつなぎ直される。


上空では鳥影が割れ、門へ向かう流れだけを途切れさせない。カケルは一歩だけ前へ出て、家族が作った細い安全圏に自分を置いた。


粉塵がゆっくりと落ち始め、叫び声が遠ざかり、耳鳴りと、重い呼吸だけが広場に残る。


次の瞬間が、いちばん静かだった。


起き上がりの「音」はないのに、重さだけが戻ってくる。土煙の向こうで、次の一歩の気配がふくらんだ。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


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