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前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


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第54話 決断の天秤

ズシン、という衝撃の周期が、一秒に満たない間隔まで短縮された。会場である広場を囲む石柱が目に見えて震え、天秤の錘がジャラジャラと耳障りな音を立てて互いにぶつかり合っている。


「……何? 何が起きてるの?」

「おい、森の方が……鎖が切れたぞ!」


広場を埋め尽くしていた観客たちの声が、緩やかな波から激流へと変わった。


最初は戸惑いだった。だが、境界の鎖が弾け飛ぶ金属音と、地平を埋めるような土煙が視界に入った瞬間、それは理解という名の悲鳴へと変貌した。


「逃げろ! 門へ急げ!」

「魔石が……私の魔石袋が! 離せ、これは私の成果だ!」


押し合い、へし合いが始まる。転倒した者を踏みつけ、手に入れたばかりの魔石袋を抱え込んだまま出口へ殺到する召喚士たち。


成果主義の極致であった狩猟会は、その瞬間に醜悪な生存競争の場へと成り下がった。


召喚獣たちもまた、主の恐怖に呼応して吠え猛り、あるいはパニックを起こして強制送還の粒子となって消えてゆく。


その阿鼻叫喚の渦中を、一条の雷光が切り裂いて戻ってきた。


ヴィクトールだ。そのサンダーウルフは、もはやかつての威厳を失っている。


左翼を担っていたはずの一頭は影も形もなく、残された一頭も輪郭が激しくぶれ、体表から青白い粒子が絶え間なく溢れ出していた。


ヴィクトール自身も、無傷ではない。


衣服は裂け、腕から流れる鮮血が、サンダーウルフの銀毛に飛沫として散っていた。だが、その瞳に宿るのは後悔ではなく、底知れない苛立ちと傲慢さだった。


「どけ、塵芥ども。私の歩みを汚すな。……父上、見ていてくださいよ。この『逆境』でさえ、私の武を飾る舞台に過ぎません」


彼は背後から迫る山の重圧など一顧だにせず、逃げ惑う群衆を召喚獣の力で強引に跳ね除け、広場の中央へと突き進む。そこにいるのは、自分の失策をなすりつける対象を探す、一匹の愚かな獣だった。


「兄様……!」


リアナの声が震えていた。あこがれ、恐れ、実の兄が災厄を引き連れて帰ってきた現実。


彼女の指がシルバーの毛に深く食い込む。


シルバーは低く唸りながらも、その四肢を踏ん張り、主人を守るように前に出ていた。


怯えはない。ただ、己のなすべきことを理解している者の静かな構えがあった。


カケルは、そんなリアナの肩をポン、と一度だけ叩く。


「リアナさん、任せたよ。みんな、上から繋いで」


キンカチョウが飛び立ち、四羽は上空へ散った。


カケルはヴィクトールを視界から外した。あのような男に構っている時間は、一秒も残されていない。


カケルの視界には、崩壊しつつある広場の全容が映っていた。


門へ殺到する人々、動けなくなった老人。そして――会場の石畳を粉砕しながら迫りくる、アースマンモスの巨大な影。


倒せるかじゃない。ここで誰も欠けない形を、今組み直す。


カケルは一度だけ息を吸って、家族の名前を順に呼んだ。


「ピー太郎、進路。ピー次郎、門。プー子、人の詰まり。ペー子、逃げ道。見えたらすぐ教えて。できそうなら、鼻先をかすめて目を逸らして」


キンカチョウたちがそれぞれの空域へと分かれた。


ナビゲーターから絶え間なく情報がもたらされる。


人の流れ、門の詰まり、巨体の一歩先。全部が、今の形を変えていく。


倒せない。なら、踏ませない。


「ほっぺ、【呼び寄せ】をお願い。みんなを門へ導いて。落ち着かせてあげて」


ほっぺが放った鋭い音階が、広場全体に響き渡る。思考を奪われた群衆の足が、その一瞬の静寂に繋ぎ止められた。


「キョロ、チョロ。門までの最短ルートに糸を張って。手すりにして、誰も転ばせないようにね。糸を幾重にも重ねて、巨体の進路を絞り込んでいこう」


二匹の蜘蛛が石柱の間を縫い、白銀の導線を作り上げる。それは物理的に人々を支え、同時に通路を細く絞っていく。


「イガとグリは足だけお願い。踏み下ろす直前に滑り込んで、踏み込みを一瞬だけ遅らせて。噛まないで」


「じったん、俺の前に来て。動かずに、楔になってほしい」


フトアゴヒゲトカゲの二頭が地面を砂走りで滑走し、重厚なじったんがカケルの足元に構える。


「ワサビ君、俺の肩で備えて」


ギュッ、と爪が服を掴む感触があった。


「……俺を守ってくれるかな」


糸が石柱をつなぎ、地面すれすれに影が走る。上では鳥影が分かれ、門へ向かう一本の流れを作った。


カケルは迫りくる巨大な皮膚の質感、鼻息と共に舞い上がる粉塵、あるいは自分の足元で微細に跳ねる小石を見つめた。


「師匠……あの子たちで、あんなものに勝てるわけが……!」


リアナの悲鳴のような問いに、カケルは前を見据えたまま、静かに口を開いた。


「倒せない。……でも、止められるかもしれない」


次の瞬間、境界の石柱が、マッチ箱のように容易く粉砕された。アースマンモスの巨大な前足が、広場の石畳に最初の一歩を置く。


ドォォォォン。


衝撃波が石畳を波打たせ、粉塵が視界を白く染め上げる。空気の塊が肺を圧迫し、耳鳴りが世界の音を奪った。


土煙の向こう側で、マンモスの巨大な瞳がカケルを捉えた。


カケルは、ただ一歩だけ踏み出した。


地面が沈んだ。


止める。止めなきゃ、誰かが欠ける。


土煙の向こうで、次の一歩の気配がふくらんだ。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


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