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前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


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第51話 狩猟会の幕開け

切り出された灰色の石材が、広大な円形広場を埋め尽くしていた。アルシュタイン領都の北端。原生林の喉元に位置するこの場所は、幾多の「狩り」の血を吸い込み、冷気とともに鉄の匂いを放っている。


石畳の随所には、魔獣の爪が刻んだ古い傷跡や、噴き出した血を拭った跡が黒ずんで残っていた。広場の中央では、過去の優勝家たちの家紋が刻印された石柱が、墓標のように冷たく並び立っている。


「ガラン、ガラン」と、魔石の重さを量るための巨大な天秤の錘が、不気味な音を立てて揺れていた。その秤の根元には、長年の計測で削れた補修痕が幾層にも重なり、この場所が積み上げてきた歴史を物語っている。


カケルの隣に立つリアナは、先ほどから何度もシルバーの首筋を撫でていた。その指先が、小刻みに震えている。


カケルはその震えを見逃さず、そっと彼女の隣に寄った。


リアナの脳裏には、幼い日の記憶が張り付いている。


かつてこの場所で、一体しか喚べなかった自分を「不要」と断じ、一度も振り返ることなく森へ消えていった父の冷たい背中。成果を計る秤は一度も動かず、観客席から「一体しか喚べぬ娘」と嘲笑を浴び、空っぽの革袋を突き返された時の屈辱。


手柄を自慢するように巨大な召喚獣を従えて凱旋した兄の、勝ち誇った歓声。


彼女にとってこの広場は、誇りを奪われ、家族から切り捨てられた拒絶の象徴だった。シルバーの毛並みに埋めた指先に、じわりと汗が滲む。


広場の端では、出番を待つ他家の召喚士たちが、鋭い視線をこちらに投げかけていた。


「あれが噂の、平民に媚びを売る出来損ないか」


「損耗ゼロ? 臆病風に吹かれて逃げ回るだけだろう。武威の欠片もないな」


冷ややかな囁きが、風に乗ってカケルの耳にも届く。彼らの傍らには、三体もの魔獣を同時に展開する老練な貴族や、岩のような巨躯を誇る大熊型の魔獣が控え、呼吸一つで周囲を威圧していた。


いずれもが、洗練された「武」を誇示するように、血気盛んな呼吸を繰り返している。


そんな喧騒を切り裂くように、重厚な足音が石畳を叩いて近づいてくる。


辺境伯との謁見の際に横にいたリアナの兄、ヴィクトールだ。その両脇には、体長三メートルを超える巨躯を誇る二体のサンダーウルフが控えている。


周囲の召喚士たちが、潮が引くように道を開けた。羨望と、それ以上に深い畏怖が混じった視線がヴィクトールに注がれる。


雷のような瞬発力と破壊的な質量を宿した、ヴィクトールの召喚獣。その巨躯が動くだけで、周囲の空気が低く鳴動した。


ヴィクトールは、カケルの連れる家族たちをゴミを見るように一瞥し、鼻で笑った。


「小賢しい小細工を並べたところで、真の捕食者の前では一噛みで終わる。リアナ、お前はその男と仲良く安全な入り口付近で、泥でも啜ってろ。精々、その駄犬が肉片にならないよう祈るんだな」


シルバーが喉の奥で低く唸り、牙を剥き出しにする。リアナの呼吸が目に見えて乱れた。


カケルは何も言い返さない。ただ、ヴィクトールのサンダーウルフの足運びを静かに観察していた。


確かに強い。だが、その強さは「自分以外の全てを殺す」ための鋭利な刃物だ。カケルの求める「誰も欠けない」強さとは、やはり根本から構造が異なっていた。


その時、森の境界付近にいた鳥たちが、何かに弾かれたように一斉に飛び立ち、空を覆った。ざわり、と木々が騒ぎ、広場の馬たちが僅かに足踏みをする。


「……今の、何?」


リアナが顔をこわばらせ、カケルの袖を掴む。


カケルはすぐには答えなかった。ただ、入り口付近であるはずなのに、光も音も吸い込まれるように消えていく森の暗さを見つめる。


「……嫌な静けさだね、リアナさん」


「え?」


「空気が重い。入り口でこれなら……奥に入るには、覚悟がいるね」


カケルはそれ以上、言葉を重ねなかった。ただ、肩の上のワサビが僅かに体を強張らせ、【警戒色】を発動したのを感じて視線を落とす。確信はないが、境界線の向こう側にある圧倒的な「密度」に、肌が粟立つような感覚を覚えていた。


沈黙が広場を支配した。上座のバルコニーに、アルシュタイン辺境伯が姿を現した。


その瞬間、騒がしかった周囲の召喚士たちが一斉に膝を折り、広場は氷を打ったように静まり返る。傲慢だったヴィクトールですら、無意識に姿勢を正し、二体のサンダーウルフを制して深く頭を下げた。


空気が物理的に重くなったかのような、逃げ場のない支配力が広場を満たす。


辺境伯は何も語らない。ただそこに立つだけで、周囲の光も熱も、すべての命の主導権を握りしめているような圧倒的な圧があった。


彼は右手に持った銀の鈴を、氷のような手つきで静かに振り下ろした。


キィィィン、という鋭い金属音が静寂を突き抜ける。それが、殺戮と生存を賭けた狩猟会の、開始の号令だった。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


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