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前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


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第50話 アルシュタイン城

刺すような緊張感が借家のリビングに満ちていた。訪れたエアリスは、出された茶菓子にも手を付けず、いつになく硬い表情でカケルを見つめていた。


「……カケル、単刀直入に言おう。この地を統治しているアルシュタイン辺境伯閣下が、君に興味をお持ちだ」


その名を聞いた瞬間、隣で茶を淹れていたリアナの手が目に見えて震えた。ガタリ、と小さな音がして、カップの縁から数滴の雫がこぼれる。


「閣下は、君の戦い方に注目されている。多数同時召喚、および召喚体を一体も損耗させない継戦型の運用。……それが、閣下の掲げる『個の絶対強度』という思想と真っ向から対立するからだ」


エアリスの声は低く、警告の色を帯びていた。


「気をつけてくれ。あの方は、私たちが信じている『強さ』の基準とは、全く別の場所に立っている」


そうして、断ることもできずにやってきたアルシュタイン城。


そこは華美な装飾を排した、巨大な石の塊だった。磨き抜かれた廊下には一片の塵もなく、すれ違う兵たちも、傍らに控える召喚獣たちも、機械のように静かで無機質だった。


案内された謁見の間。


上座に座る男、アルシュタイン辺境伯は、豪奢な服を纏っているわけではなかった。だが、その空間の空気、光、重力さえもが彼一人に従属しているような覚える。


入室したカケルを、辺境伯の冷徹な双眸が射抜いた。視線は、カケルの後ろに隠れるように立つリアナへと移る。


一瞬、視線が止まった。驚きも、怒りもない。ただ事実を確認するだけの、氷のような一瞥。


「……まだ、生きていたか」


その一言は、死者に向けられるものよりも冷たかった。リアナの肩が小さく跳ねる。


すかさず、辺境伯の傍らに立つリアナの兄が、卑俗な笑みを浮かべて前に出た。


「ククッ……父上。我が家の恥晒しが、噂の平民に寄生してまで延命していたようです。一匹しか喚べぬ出来損ないの愚妹には、お似合いの無様な姿ではありませんか」


兄の言葉は感情的で、露骨な嘲りに満ちていた。だが、辺境伯は兄を見もすることさえしない。視線をリアナに据えたまま、静かに口を開いた。


「放っておけ。成果を示せぬ者は消える。それだけだ」


それは非難ではなかった。ただの断定だった。


そのあまりの合理性に、カケルは喉の奥が焼けるような怒りを感じた。同時に、この男は本気でそれを世界の真理だと信じているのだと、その圧に気圧されそうになる。


辺境伯の視線が、再びカケルへと戻った。


「損耗ゼロか。興味深い」


その瞳がわずかに細められる。


「実体で示せ」


抗えぬ要求にカケルは無言で精神を研ぎ澄ませ、十二の家族を呼び出した。


カメレオンのワサビ、サビ猫の茶渋。四羽のキンカチョウにオカメインコのほっぺ。ジャンピングスパイダーのキョロとチョロ、およびイガとグリとじったん。広大な間に、総勢十二体の召喚体が整然と並ぶ。


辺境伯は重厚な椅子から立ち上がり、ゆっくりと、値踏みするように一体ずつを観察していく。やがて彼は、カケルの目の前で足を止めた。


「統率は悪くない。……だが、弱い」


短く吐き捨てられた言葉。


「数は質に劣る。それが戦だ」


辺境伯は一度言葉を切ると、射抜くような視線をカケルに向けたまま告げた。


「数が戦術になるか。……次週の狩猟会で、それを示せ」


辺境伯の短い宣告を受け、傍らの兄が歪んだ笑みを深くして一歩前に出た。


「……おい、平民。教えてやろう。狩猟会とは我がアルシュタイン家が主催する、選ばれし召喚士のみが参加を許される神聖な儀式だ。単騎で大型魔獣を狩り、その絶対的な武威を誇示する場……。貴様のような薄汚い小細工で数を並める者が入り込めば、それだけで笑い種、いや、公開処刑も同然だ。一族の恥晒しと、その寄生虫にふさわしい、無様な終わりの舞台になるだろうな」


兄の嘲笑は、カケルの思想を「小細工」と断じ、その場がいかに不向きであるかを突きつけていた。


辺境伯は兄の言葉に反応することなく、ただ短く、重く命じた。


「実力を示せ」


「承知いたしました」


カケルは明確に言葉を返した。断れば、リアナの存在は永遠に「淘汰されるべきもの」として確定する。

辺境伯は去り際、最後の一撃を置いていった。


「命を守る戦いは、美しい。だが、戦ではない。真の強さとは何か、その身で知るがいい」


城を出た瞬間、リアナの足が止まった。石畳の上に、彼女の震える指先から影が伸びる。


「……師匠。やっぱり、私は間違っていたのかもしれない。私が……あの日、父様に捨てられたのは、私が弱かったから……」


カケルは彼女を安易に慰めることもなかった。代わりに、前を見据えたまま静かに言った。


「違うよ、リアナさん。あの人は『強さ』を追う人だ。そして俺は、『家族』を守る。ただ、それだけのことだ」


「師匠……」


「見せよう。君とシルバーがどう変わったか。数が弱さじゃなく、誰も欠けないことがどれほど強い力になるのかを」


カケルの声にあるのは、ただ静かで深い決意だけだった。


その夜、借家のリビングに家族全員が集まった。カケルは、十二体の瞳を一つずつ見つめながら告げる。


「次の狩猟会は、誰かと競うためのものじゃない。俺たちのやり方が、俺たちの絆が正しいことを証明する場だ」


シルバーが低く唸り、茶渋やほっぺが応えるように体を寄せ合う。辺境伯の言う「強さ」が世界の正解だというのなら、自分たちはその外側に、新しい正解を築くだけだ。


――強さの定義が違うだけだ。ならば、示すしかない。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


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