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前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


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第47話 森の強者との対峙

昨夜の焚き火を囲んだ告白から一夜が明け、一行は再び森の奥深くへと進んでいた。朝日が差し込む時間帯だというのに、木々が密集するこの一帯は薄暗く、どこか冷ややかだ。


「昨日は、ありがとう。……心が、少し軽くなった気がする」


リアナがシルバーの隣を歩きながら、カケルにそっと語りかける。


「なら、よかった。今日は拠点を守るための大事なルート確認だ。気を引き締めて行こう」


カケルが答えた直後、ぴたりと足が止まった。


背後にいたエアリスと騎士たちが、一斉に剣の柄に手をかける。風が止み、森から一切の音が消える。先ほどまで聞こえていた虫の音すら、何かに怯えるように途絶えていた。


「……来るぞ。これまでの魔獣とは、格が違う」


カケルの低い声に、隣に立つリアナが息を呑んだ。周囲の空気が、重く、粘りつくようなプレッシャーに支配される。シルバーは毛を逆立てて低く唸り、上空ではピー太郎たちが激しく羽ばたきながら、鋭い警告音を上げた。


『対象:フォレスト・タイラントの強力な生体反応を捕捉しました。前方約五十メートル、個体数は一体、ランクはBです』


ナビゲーターの無機質な報告が脳内に響くと同時に、地響きが鳴った。


ドォン、と木々をなぎ倒して姿を現したのは、全身を硬質の外殻と剛毛で覆われた巨獣だった。巨大な熊のような体躯に、岩をも砕く鋭い鉤爪。その瞳には、領域を侵す者への純粋な殺意が宿っている。


「総員、散開! 迂闊に近づくな!」


エアリスが鋭い号令を飛ばす。ベテランの騎士たちですら、その威圧感に足を震わせていた。


「リアナさん、下がって。じったん、イガ、グリ。……頼む、みんなを守ってくれ」


カケルは、目の前の巨獣の膂力を見据え、必要な布陣を敷いた。


「じったん、正面。一歩も引かなくていい。イガ、グリは【陽光充電】で速度を上げろ! 側面から揺さぶるんだ!」


カケルの指示に応じ、重厚な足音と共に三体のトカゲが展開した。じったんが騎士たちを守る防波堤のように最前線に陣取り、イガとグリが木漏れ日を吸い込んで鱗を輝かせながら左右へと散る。


ガァァァァッ!


タイラントが咆哮し、丸太のような腕を振り下ろした。狙いは、中心にいるカケルとリアナだ。


「じったん、【重装甲】!」


重低音が響き、衝撃波が周囲の草木を震わせた。


じったんの背を打つ鉤爪。だが、その衝撃はこれまでの魔獣とは比較にならなかった。


バキリ、と硬質な鱗が軋む嫌な音が響く。じったんの太い脚が激しく震え、その膝が地面にめり込むほど深く沈み込んだ。


「じったん……っ!」


耐えきったものの、その背の鱗には細かなヒビが走っている。ランクBの凄まじい質量が、じったんという「動かない壁」を真っ向から押し潰そうとしていた。


だが、ランクBの力はそれだけではなかった。タイラントは即座にじったんの頭部を足蹴にし、その跳躍力を利用して、じったんを飛び越えた。その先には、不意を突かれたリアナがいる。


「しまっ――リアナさん!」


「えっ……!?」


空中で身を翻したタイラントの爪が、リアナへと迫る。シルバーが飛びかかろうとするが、わずかに間に合わない。カケルの心臓が、一瞬、止まったかのような衝撃に襲われた。


「グリ、【威嚇】! そのまま【砂走り】で割って入れ!」


横から割り込んだのは、グリだった。喉元を大きく膨ませて真っ黒に変色させ、激しいヘッドボビングでタイラントの注意を強制的に自分へと引き寄せる。さらに、地面を滑るような【砂走り】の高速移動でリアナの前に滑り込んだ。


タイラントの爪が、守りに入ったグリの背中を激しく打つ。体当たりではない。ただ、その機動力で間に合い、トゲだらけの鱗を盾にしてリアナを守り抜いたのだ。だが、ランクBの猛攻は、グリの防御許容を瞬時に突き破った。


鈍い音が響くと同時に、グリの体が淡い光に包まれる。だが、いつもなら一瞬で粒子となって消えるはずの体が、不自然に明滅し、空間に激しいノイズが走った。


「……っ、グリ!? なんだ、何が起きてるんだ!」


消えかかったはずの片足が、不自然な形を残したまま空間に固定される。粒子化が止まりかけているのか。


――「死」という概念がカケルの脳裏をよぎり、背筋に氷を押し当てられたような悪寒が走る。


数秒の沈黙。ノイズが極限まで高まり、弾けるようにグリの姿が掻き消えた。


『召喚獣グリが許容ダメージを超過。保護機能により、強制送還を実行しました。これに伴い、対象個体は30分間の再召喚インターバルが発生します』


ナビゲーターの無機質な声が届く。だが、今の異様な光景を見たカケルには、その「30分」が永遠にも感じられた。グリがいない、その穴をどう埋める。


「……許さない。みんな、仕掛けるぞ! グリが繋いでくれたんだ、絶対に仕留める!」


カケルが鋭く叫ぶ。その声には、家族を傷つけられたことへの怒りと、それを押し殺して指示に徹する凄絶な覚悟が籠もっていた。


「ほっぺ、【呼び寄せ】で撹乱だ! チョロ、【蜘蛛の糸】で右目を狙って!」


エアリスの肩から飛び立ったほっぺが、タイラントの目の前で激しく羽ばたき、耳を突き刺すような鋭い呼び鳴きで注意を逸らす。その一瞬の隙に、木の枝から飛び降りたチョロが、タイラントの右目めがけて粘着性の高い糸を放った。


「グガァッ!?」


視界を奪われ、狂ったように腕を振り回すタイラント。その足元には、【砂走り】で高速旋回するイガがいた。鋭いトゲ状の鱗がタイラントの足首を掠めるたび、微細な切り傷が無数に刻まれ、その機動力を確実に削いでいく。


その光景を、背後にいた騎士たちは言葉を失って見つめていた。一糸乱れぬ連携。それぞれが自分の役割を理解し、一秒の無駄もなく巨獣を追い詰めていく。


「リアナさん、シルバーを! 茶渋、ワサビ君も続いて!」


カケルの号令が飛ぶ。リアナはシルバーと共に、迷うことなく前へ踏み出した。


「シルバー! 私たちの『絆』を見せてあげて!」


シルバーが銀色の閃光となって正面から喉元を狙う。タイラントがそれを防ごうとした瞬間、死角から【隠密】を解除したワサビ君の【舌撃】が、剥き出しになった脇腹を正確に貫いた。


さらに、じったんの影から飛び出した茶渋が、重力に従うままタイラントの首筋へ【爪撃】を叩き込む。


三方向からの同時攻撃。それは、力に頼った個の武力ではない。お互いを信じ、役割を完遂することで生まれた「死の檻」だった。


「――トドメだ!!」


シルバーの牙が、タイラントの喉笛を深く裂いた。巨獣が崩れ落ち、大地を揺らして絶命する。


静寂が戻った森の中で、カケルは祈るような思いでグリのステータスを表示させた。だが、画面に映し出されたのは「再召喚可能まで:20分」という無情なカウントダウンだった。


今すぐにでもグリの無事を確認したいという願いは、非情な数字によって阻まれる。カケルはただ、唇を噛んでその刻限を見つめるしかなかった。


「……師匠。ごめんなさい、私のせいで、グリが……」


駆け寄ってきたリアナの顔は青ざめ、シルバーも申し訳なさそうに耳を伏せている。エアリスも駆け寄り、沈痛な面持ちでカケルの肩に手を置いた。


「いや、リアナさんのせいじゃない。……俺の指示が甘かったんだ。グリが助けてくれなきゃ、もっと最悪なことになってた」


カケルはそう言ってリアナを落ち着かせようとしたが、自分の手もわずかに震えていた。


それから20分間。カケルたちは戦利品の回収もせず、ただグリが現れるはずの場所で、じっと時が過ぎるのを待った。騎士たちもまた、武器を収め、自分たちの命を救ってくれた「小さな守護者」の復活を祈るように、周囲に静かな警戒陣を敷いていた。


「……あのトカゲがいなければ、今頃俺たちは……」


一人の騎士がぽつりと呟いた言葉に、周囲の面々が無言で深く頷く。彼らにとって、カケルの家族はもう、単なる「召喚獣」ではなく、背中を預けられる戦友になっていた。


ようやくカウントがゼロになる。


「お願いだ……グリ、出てきてくれ!」


祈るような声と共に、再び光が収束する。そこに現れたのは、先ほどと同じ、トゲだらけの無骨な姿だった。グリは不機嫌そうにまぶたを動かすと、何事もなかったかのように尻尾を振り、ゆっくりと歩き出した。


その何事もなかったかのような、いつも通りの挙動。カケルは膝から崩れ落ちるように安堵の息を漏らした。それを見届けた騎士たちからも、安堵の溜息と、奇跡の再会を祝うような拍手が自然と沸き起こる。


「……よかった……。本当によかった……」


「師匠……。私、わかったわ。シルバーが、あんなに自由に動けたのは、みんなが道を作ってくれたから」


リアナが、震える自分の手を見つめて、小さく吐息を漏らす。


「お父様が言っていた『圧倒的な武力』がいらない、なんて……そんなのはまだ嘘になるわ。正直に言えば、今だって足が震えてる。……でも、もう逃げない。この絆があれば、私は私でいられるから」


シルバーと共に強敵を討ち果たし、仲間が文字通り身を挺して自分を救ってくれたことを知ったリアナの瞳には、弱さを受け入れた上での確かな誇りが宿っていた。


カケルは立ち上がり、グリのトゲだらけの背中を、感謝を込めて強く撫でた。


「……ああ。俺たちのやり方で、これからも進んでいこう。教訓だ、次は……誰も強制送還させない。そんな戦い方をしよう」


夕暮れに近い陽光が、戦い終えた家族たちと、彼らを深い敬意の眼差しで見守る騎士たちを優しく照らしていた。

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