第45話 広がる探索圏
街道の土砂崩れ撤去作業は、じったんが前に立ち、カケルたちが噛み合ったことで、誰ひとり欠けることなく終わった。現場にいた者たちは、その背中を見て、改めて「家族」たちの力を思い知った。
「よし。イガ、グリ。今日も頼むよ」
カケルは朝の光の中で、イガとグリの体を丁寧に撫でた。指先に触れる鱗は、乾いた岩のように硬質で、それでいて生命の熱を帯びている。
カケルがイガの広い背中に跨がると、独特の低重心な安定感が伝わってきた。馬のような高い視点はないが、地面を鷲掴みにするような力強さが、握りしめた二本のトゲを通じて掌に伝わる。
「師匠、準備いい? シルバーもやる気満々よ!」
隣では、リアナがシルバーウルフの背で手綱を軽く握っている。シルバーは「ガルル」と喉を鳴らし、前足を軽く踏んで逸る気持ちを表現していた。
「ああ、行こうか。……イガ、グリ、無理のない範囲で飛ばしてくれ」
カケルの合図とともに、【砂走り】を発動したフトアゴたちが滑らかに加速する。
「師匠、この調子なら予定より早く着きそうね!」
風を切りながら並走するリアナが声を弾ませる。シルバーもトカゲたちの速度に合わせ、軽快に地を蹴った。
低重心で揺れが少なく、それでいて馬よりも悪路に強い。崖や泥濘地も苦にせず突き進むその機動力は、カケルたちの行ける場所そのものを、ぐっと押し広げていた。
徒歩の頃は、数時間先へ出るだけで「遠征」だった。今は違う。風を切って進めば、距離が壁にならない。
やがて一行は、鬱蒼とした森を抜け、切り立った崖の合間に隠された聖域へと辿り着いた。
――囁きの谷。
そこは、色とりどりの高山植物が風に揺れ、水晶のように澄んだ水が段々畑のような滝となって流れ落ちる、幻想的な渓谷だった。
「……綺麗。自分の足じゃ絶対に来られない場所に、こんな素敵な景色があったのね」
リアナがシルバーの首筋を撫でながら、鮮やかな色彩に彩られた渓谷を静かに見つめている。
カケルはイガから降りると、家族たちを召喚した。空からはピー太郎たちが旋回しながら、高い鳴き声で谷に響く風の音に応える。
じったんは、水飛沫が舞う滝の近くを避け、一番陽当たりのいい、平らで大きな岩場を見つけると、重厚な腰を下ろしてバスキングを始めた。イガとグリもその隣に並び、平らな背中を太陽へ向け、熱を吸い込むように目を細める。
カケルはその光景を眺めながら、岩場に腰を下ろした。
「リアナさん。俺、いつかこんな場所に、みんなと穏やかに暮らせる『聖域』を作れたらいいなって思ってるんだ」
カケルの言葉に、リアナが隣に並んで座った。
「聖域……師匠と、この子たちの家、ってこと?」
「そう。檻も鎖もない、ただ太陽と水があって、みんなが好きなように過ごせる場所」
カケルは、近くの枝に掴まって、葉の上の水滴を長い舌で器用に舐めとっているワサビ君に視線を向けた。
「……独りよがりな夢かもしれないけどね」
「そんなことないわ、師匠」
リアナがカケルの顔を覗き込み、力強く頷く。
「師匠なら、きっとできるわ。だって、こんなに素敵な家族たちが協力してくれるんだもん。……それに、私も全力でお手伝いするわよ! ほら、シルバーもそう言ってる」
「ワフッ!」
シルバーが尻尾を大きく振って応える。
「……ありがとう、リアナさん。そうだね」
カケルは微笑み、家族たちが思い思いに過ごす姿を眺めた。
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