第44話 「盾」の本領
ピクニックから数日後。カケルの元に、エアリス率いる騎士隊から協力要請が舞い込んだ。内容は「街道で発生した土砂崩れの撤去作業と、その周辺の警戒」だ。
「土砂崩れの撤去は作業員が進めています。ただ、現場付近で魔獣の気配が出まして……。作業中の護衛を、エアリス隊長が望んでいます」
使いの騎士からそう説明を受け、カケルは快諾した。巨躯のトカゲたちは力仕事にも向いている。守り役としても、じったんは頼もしい。
現場は切り立った崖の下を通る街道だった。崩れ落ちた岩と土砂が道を塞ぎ、作業員たちが騎士隊の指示を受けながら、慎重に取り除いている。
「カケル、来てくれて助かるよ。この付近には地中に潜むタイプの魔獣が出るという報告があってね。作業員たちが無防備になるから、目を光らせておいてほしいんだ」
作業の指揮を執るエアリスの言葉にカケルは頷き、まずは広域の警戒から始めることにした。
「ピー太郎たち、【索敵】をお願い」
カケルが呼び出すと、四羽のキンカチョウたちが勢いよく空へと舞い上がった。彼らは手慣れた様子で周囲に分かれ、上空からの索敵を開始する。
続いて、本命の守り手としてじったんを召喚した。
「じったん、作業員たちの前に立って守ってあげて。茶渋とワサビ君も、近くで警戒をお願い」
召喚されたじったんは、どっしりとした重厚な足取りで作業現場の最前線へと移動した。その横ではリアナとシルバーも、いつでも動けるよう身を構えている。
作業が始まって一時間ほど経った頃だった。上空で索敵を続けていたキンカチョウたちが、突如として鋭い警告の鳴き声を上げた。
『対象:アースワームの生体反応を捕捉しました。真下、地中十メートル地点。個体数は三体、ランクはCです。急速に地上へ接近中』
ナビゲーターの無機質で丁寧な報告が脳内に響く。
「みんな、足元に注意して! 真下から三体来るぞ!」
カケルが叫ぶのとほぼ同時、積み上がった土砂が内側から大きく爆ぜた。
「……来たぞ! 全員下がれ!」
エアリスの鋭い声と同時に、土の中からぬらりと光る巨体が飛び出した。鎌のような顎を鳴らす――ランクCの魔獣「アースワーム」が三体。
狙われたのは、逃げ遅れた数人の作業員だ。アースワームの一体が、口から緑色の腐食液を吐き出しながら、猛烈な勢いで突っ込んでいく。
「じったん、【重装甲】!」
カケルの指示に応じ、じったんが作業員たちの前に割り込んだ。逃げる間際だった作業員たちの背後で、じったんは丸太のような胴体を低く沈める。
放たれた腐食液はじったんの硬質な鱗に弾かれ、アースワームの力任せな体当たりも、びくともしない巨躯によって完全に受け止められた。ガキン、という金属音に近い衝撃音が響くが、じったんの鱗には傷一つついていない。
「すごい……! あの巨体を正面から受け止めて、押し返されないなんて!」
リアナが驚きの声を上げる。アースワームはじったんという「動かぬ壁」に困惑し、次の一撃を繰り出そうと鎌を持ち上げた。
「今だ、じったん! 【粉砕】!」
じったんがその短い四肢を力強く踏み込み、一体目のアースワームの胴体に食らいついた。重厚な顎が、魔獣の硬い外殻を「ミシミシ」と嫌な音を立てて噛み砕いていく。
「よし、そのまま――って、えっ?」
カケルが追撃の指示を出そうとした、その時だった。アースワームをがっちりと咥えたじったんが、突如として全身を激しく回転させ始めたのだ。
「ええっ!? 回ってる!?」
ドォン!
じったんの巨躯が回転の勢いでアースワームを地面に叩きつけ、そのまま噛み裂いた。獲物をねじ切るための、凄まじい「デスロール」だ。一体目が無残に転がった。
これにはカケルも言葉を失った。全長三メートルの巨体で行われるそれは、すさまじい破壊力だった。
「じ、じったん……今の動きは聞いてないよ……」
カケルが呆然とする中、残りの二体のアースワームはじったんの放つ圧倒的な「捕食者」の気配に怯み、動きを止めた。
「シルバー、今よ! 二体目を!」
「茶渋、行け!」
リアナの号令とカケルの指示が重なる。じったんの背の上で身を低くしていた茶渋が、弾丸のような速さで飛び出した。空中で放たれた【爪撃】が二体目のアースワームの複眼を切り裂き、その隙を見逃さずシルバーが喉元を一気に食い破る。大量の体液を吹き出し、二体目も沈んだ。
そのままシルバーと茶渋は、最後の一体を挟み込むようにしてじったんの正面へと追い込んでいく。
「じったん、最後の一体だ!」
逃げ場を失った三体目の頭部を、再び放たれた【粉砕】の一撃が粉々に砕いた。
戦いが終わると、じったんは何事もなかったかのように口周りをチロリと青い舌で拭い、再び作業員たちを守るようにその場に鎮座した。
「助かったよカケル。索敵に盾に攻撃……さすが君の家族だな」
エアリスが感嘆しながら近づいてくる。作業員たちは魔獣の急襲に腰を抜かし、さらに味方であるはずの巨大なじったんの凄まじい戦いぶりを見て、動けなくなっていた。
カケルはじったんの傍に寄り、その大きな頭を撫でた。
「じったん、ありがとう。守ってくれて助かったよ。……でも、さっきの回転は、次からは広い場所だけでお願いね。デスロールなんて、いつ覚えたの?」
じったんは興味なさげに一度だけ瞬きをして、太陽の光を浴びながら再びうとうとし始めた。
その横で、リアナはシルバーと向き合い、真剣な表情で頷き合っていた。
「じったんが前にいてくれるなら、私たちはもっと踏み込める。……シルバーを、どこで解き放てばいいのか。さっき、少しだけ掴めた気がする」
リアナの言葉に、カケルは優しく微笑んで頷いた。
「そうだね。一人で全部やろうとしなくていいんだ。家族みんなで補い合う、それが俺たちの戦い方だから」
守りがあるから、踏み込める。土砂崩れの現場で、カケルと家族たちはその手応えを確かにしていた。
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