第40話 重厚な鱗
「あと、五体……」
翌朝、カケルは未だかつてないほど気合が入っていた。隣を歩くリアナも、カケルのただならぬ様子を察してか、余計な口を挟まずにシルバーの傍らで真剣な面持ちを崩さない。
昨日と同じ森へ足を踏み入れようとした、その時だった。索敵を担当するキンカチョウたちがすぐに獲物を見つけた。現れたのは、徘徊していた六体のオークだ。
「リアナさん、シルバー! 今日は一気に決めるよ!」
カケルの号令と共に、家族たちが躍動した。シルバーが【神速】で一気に距離を詰め、茶渋がその背中を踏み台にして高く舞い上がる。上空からの【爪撃】と、シルバーの【裂爪】が同時に決まり、屈強なオークが瞬く間に沈んでいく。
その連携には、もはや言葉はいらなかった。一体、また一体と、昨日とは比較にならない速度で討伐が進む。順調に最後の一体が茶渋の鋭い一撃で消滅した瞬間、カケルの脳内に透き通った声が鳴り響いた。
『対象:オーク(Dランク)の討伐を確認』
『召喚獣:茶渋がレベル25に上昇しました』
『召喚獣:ワサビがレベル24に上昇しました』
『召喚獣:ほっぺがレベル20に上昇しました』
『召喚獣:キンカチョウがレベル18に上昇しました』
『召喚獣:ジャンピングスパイダーがレベル10に上昇しました』
『オーナー:カケル・モリシタの召喚士レベルが10に上昇しました』
『新たな召喚枠「トカゲ」が解放されます』
(……来た!)
カケルは思わずその場で拳を固めた。
「師匠!? 今、レベルが上がったのね!」
駆け寄るリアナに力強く頷き、カケルは逸る気持ちを抑えながら告げた。
「うん。今日は召喚を試したいから家に戻ろう!」
自宅に戻ると、カケルは家具を端に寄せ、広いスペースを確保した。
「この世界では、あの子たちがどんなサイズで召喚されるかわからないからな……一応。 ……トカゲと聞いて思い出すのは、やっぱりあの三匹だ」
カケルは目を閉じ、前世で最も長く、最も濃密な時間を過ごした「鱗のある家族」を思い浮かべる。あのトゲトゲした愛らしい感触、重厚な身体、生命力に溢れた独特な鱗の質感を思い出す。
カケルは新しく解放された「トカゲ枠」の中から、まずはあの二匹を呼んでみることにした。
「おいで……イガ、グリ!」
床からまばゆい光が溢れ出した。光が収まった後、そこに現れたのは、リアナが思わず悲鳴を上げてシルバーの影に隠れるほどの巨躯だった。
「……な、なによこれ! トカゲって、こんな……ドラゴンみたいな大きさじゃないの!」
そこにいたのは、全長約二メートルに及ぶ二体のフトアゴヒゲトカゲだった。前世での40センチという愛らしいサイズ感はどこへやら、今の彼らはカケルの腰の高さを優に超える背中と、太い四肢を備えている。
カケルは感動よりも先に、その圧倒的な質量に気圧された。
「……でかい。想像以上だ」
二体は特に驚く様子もなく、ただそこにある床の感触を確かめるようにどっしりと伏せた。二体が伏せた瞬間、居間の床が低くうなり、空気が重く沈んだ。
「待ってくれ、このままじゃ家が壊れる! リアナさん、外に出よう。裏庭だ!」
「えっ、ええ……! 分かったわ!」
カケルは慌ててイガとグリを先導し、裏庭へと繋がる大きな扉を開け放った。トカゲたちはのっそりと、しかし力強い足取りで庭へと移動していく。広い外の空気に触れ、ようやくカケルは息を整えることができた。
「よし……ここなら大丈夫だ。……トカゲなら、あの子も呼べるはず……じったん、おいで!」
さらにもう一度、先ほどより強烈な光が庭を包み込む。現れたのは、全長約三メートルほどもあるアオジタトカゲ。胴回りが丸太のように太く、全身が磨き上げられた鎧のような鱗で覆われている。
じったんは、庭の地面を押し沈めるほどの圧倒的な質量を持ってそこに鎮座した。巨大なツチノコが顕現したかのようなその異様なフォルムは、静止しているだけで地面に沈み込むような重圧感がある。
「……嘘でしょ。トカゲって、あんなに『重そう』なの……?」
庭の土が、じわりと沈んでいた。さっきの二体だけでも言葉を失いかけたリアナは、さらに現れた大きなトカゲにただただ圧倒され、完全に固まった。
(……じったん、やっぱりそうなるよな。元が大きめなトカゲだからなんとなく予想はしていたけれど……裏庭に出ておいてよかった)
カケルは冷や汗を拭いながら、家を壊さずに済んだ判断に安堵した。じったんは「ペロリ」と特徴的な青い舌を出し、ゆっくりと瞬きを返した。その反応の薄い仕草は、前世でカケルが愛してやまなかったあの頃のままだ。
「師匠……。私の、トカゲという概念が根底から覆されたわ……」
呆然とするリアナを横目に、カケルは三匹の間を歩き、その鱗に触れて回った。茶渋も恐る恐る庭へ出てくると、自分より巨大な新入りたちを、興味深そうに眺めている。トカゲたちは猫が近づこうが動じることはなく、ただ置物のように静止していた。
「よし、それじゃあ……あの子たちの能力を確認させてもらおうかな」
カケルが意識を集中させると、脳内に新しい家族たちの詳細なステータスが展開された。
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【召喚獣詳細】
名称:イガ、グリ
種族:フトアゴヒゲトカゲ
レベル:1
【固有スキル】
・陽光充電:光を浴びることで代謝を上げ、スタミナと反応速度を自己強化する。
・威嚇:物理的な挙動により格下の魔獣の足を止め、格上の注意を強制的に自分に向けさせる。
・砂走り:地面を滑るように高速移動する。トゲ状の鱗により、接触した敵に微細な切り傷を負わせる。
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【召喚獣詳細】
名称:じったん
種族:アオジタトカゲ
レベル:1
【固有スキル】
・粉砕:圧倒的な顎の力で、噛みついた対象の装甲を粉砕する。一度噛みついたら離さない。
・重装甲:硬く滑らかな鱗と低い重心による高い物理耐性。状態異常への高い抵抗力を持つ。
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(……なるほどな。バスキングが自己強化スキルになってたり、本来の威嚇動作が強制的なヘイト集めになってたり……。あの子たちの生態が、この世界では本当に頼もしい能力として反映されてる)
カケルはじったんの重厚な鱗を撫で、確信した。
(アオジタの強固な顎も、このサイズなら文字通り『粉砕』だ。……あの子がどっしりと構えてくれれば、茶渋やワサビ君たちも、互いに背中を預け合ってもっと自由に動けるようになる。みんなで支え合って、より安全に歩んでいけるな)
カケルはふと、目の前のイガとグリの背中を見つめた。幅広く、安定感のあるその背中は、大人が腰掛けるのに十分な面積を持っている。
「しかし、改めて見るとすごい迫力だな。これだけ安定感があると、なんだかそのまま乗れちゃいそうだな」
カケルが冗談めかして笑いながら呟くと、即座にナビゲーターの解説が響いた。
『イガとグリは搭乗に耐える強度を備えています。【砂走り】による高速移動が可能です。背の棘は通常よりせり出し、「持ち手」として機能するよう強化されています』
「えっ、本当に?……まさか自分の家族に乗せてもらえる日が来るなんて…! 」
カケルは図らずも自分の予想が的中してしまったことに驚きつつ、頼もしい新入りたちを見渡し、満足そうに頷いた。
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今回新たに加わった2種類の家族は、フトアゴヒゲトカゲとアオジタトカゲです。
【フトアゴヒゲトカゲ】
喉元にあるトゲ状の鱗が「アゴヒゲ」のように見えるのが名前の由来です。感情が高ぶるとアゴを黒く膨らませたり、頭を振るボビングという威嚇や誇示の仕草を見せます。爬虫類の中では比較的温厚で人に慣れやすいため、ペットとして世界中で愛されています。
※AIで生成した画像です
【アオジタトカゲ】
その名の通り、鮮やかな「青い舌」を持つトカゲ。ツチノコを連想させる太い胴体と短い四肢、そして鎧のように硬く滑らかな鱗が特徴です。アゴの力が非常に強く、野生下ではカタツムリの殻などを噛み砕いて食べるパワフルな一面も持っています。
※AIで生成した画像です
本作の他にも、完結済みの作品を公開中です。
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