第39話 リアナの成長と秘密の告白
リアナがカケルの家に転がり込んでから、早いもので一ヶ月が過ぎようとしていた。
最初は巨大な銀狼が居間にいることに毛を逆立てていた茶渋も、今ではシルバーを「少し大きな弟分」として認めたのか、たまに横たわった彼の腹の上に乗って一緒に昼寝をするほどに打ち解けている。
ギルドに到着して依頼板を確認していたリアナが、カケルを振り返って声をかけた。
「師匠、今日の依頼は東の街道に出る『フォレストボア』の群れなんてどうかしら? シルバーもやる気みたいだし」
「うん、行こうか。今日はリアナさんとシルバーが主役だよ。俺たちはサポートに徹するから」
カケルがそう言うと、茶渋が「にゃうん」と了解の返事をする。ワサビ君もカケルの肩で、準備万端と言わぬばかりに体色を周囲の壁に合わせて変化させた。
街を出てしばらく歩き、依頼書に記された地点――東の街道沿いの深い森へと差し掛かった。キンカチョウたちが周囲を警戒しながら先導し、そのうちの一羽が鋭く鳴いて標的の発見を知らせる。
草木を分けた先に、五頭のフォレストボアがこちらに気づいて低い唸り声を上げていた。かつてのリアナなら、ここで即座に「シルバー、行きなさい!」と叫んでいたはずだ。
だが、今の彼女は違う。
「……シルバー、まだ。まずは相手の動きを見て。ほっぺが鳴いたら右に回り込んで」
リアナはシルバーの耳元で静かに囁いた。シルバーは低く身を構え、主人の指示をじっと待つ。その瞳には、恐怖ではなく、背中を預けるパートナーへの深い信頼が宿っていた。
ピーッ、とほっぺの鋭い鳴き声が合図のように響く。木々の間を素早く移動しながら鳴き声を響かせるほっぺに翻弄され、苛立ったフォレストボアが注意を逸らして大きく突進した。
その誘い出された瞬間を、リアナは見逃さない。
「今よ、シルバー! 右から【神速】。深追いはしないで!」
銀色の閃光が走る。シルバーはほっぺに気を取られたフォレストボアの懐に飛び込むと見せかけ、その鋭い爪で一撃を加えた直後、カケルに教わった通りに一撃で引いて距離を取った。
「茶渋、今だよ」
カケルが短く命じると、シルバーが作った隙を逃さず、茶渋が【爪撃】で追撃を加える。
さらに逃げようとするフォレストボアの足元を、あらかじめジャンピングスパイダーたちが仕掛けていた【蜘蛛の糸】が捉えた。巧妙な罠に足を引っかけ、勢いづいていた巨躯が鈍い衝撃音と共に派手に転倒した。
「シルバー、【銀狼の咆哮】で怯ませて! その隙に一気に決めるわよ!」
リアナの的確な指示に従い、シルバーが雄叫びを上げる。フォレストボアたちが怯んだ瞬間、リアナとシルバー、そしてカケルの家族たちによる切れ目のない連携が重なり、波状攻撃が繰り出された。
合計五体のフォレストボアは、逃げる間もなく次々と沈んでいく。最後の一体がシルバーの【裂爪】によって力なく地に伏し、戦闘は短時間で幕を閉じた。
この一ヶ月、カケルはこうした地道な依頼をリアナと共に繰り返してきた。それはリアナとシルバーの絆を結び直す日々で、同時にカケルにとっても、指示を短く正確にする癖を作り直す日々だった。
依頼を終え、夕暮れの道を街へと戻る。
「師匠! 今日のシルバー、最高に格好良かったと思わない?」
「ああ、リアナさんの指示も完璧だったよ。シルバーも嬉しそうだ」
リアナに撫でられ、シルバーは尻尾を大きく振って「くぅん」と喉を鳴らした。
自宅に戻り、家族たちにおやつを配り終えたカケルは、ふと自分の状態を確認しようと思い立った。この一ヶ月、地道に経験値を積み重ねてきたため、そろそろではないかと思ったのだ。
(ナビゲーター、俺の現在のレベルと、次までの目安を教えてくれ)
脳内に、淡々とした声が響く。
『オーナー:カケル・モリシタ、召喚士レベル9。ランクD魔獣をあと5体ほど討伐することで、召喚士レベル10に到達します』
(あと五体……ついに、そこまで来たか!)
具体的な数字を聞いて、カケルの中に熱い期待が込み上げる。ついにレベル10、次の召喚枠の解放だ。
その高揚感を抑えきれず、カケルは隣で片付けをしていたリアナに勢いよく声をかけた。
「リアナさん、実は……明日あたり新しい家族が召喚できるかもしれない!」
「えっ、召喚獣が増えるってこと!?」
リアナは驚きに目を見開いた。
「……ずっと気になってた。普通、召喚って一体が限界でしょ。出来る人でも二体、せいぜい三体。なのに師匠は、種類までバラバラで……どうやって維持してるの?」
カケルは少し考えてから、膝の上の茶渋を優しく床に下ろすと、リアナの方へ向き直り、居住まいを正した。
「……リアナさんになら、話してもいいかな」
その真剣な眼差しに、リアナも思わず背筋を伸ばす。一ヶ月の共同生活で築かれた師弟の信頼関係。カケルは静かに言葉を紡ぎ始めた。
「信じてもらえないかもしれないけれど、俺は、この世界の人間じゃないんだ。別の世界で死んだと思ったら、次の瞬間にはこの世界にいたんだよ」
「別の世界……?」
リアナが呆然と呟くのを肯定し、カケルは言葉を継いだ。
「ああ。そこでも俺は、茶渋たち……まさにこの子たち自身と一緒に暮らしていたんだ。でも、その時は召喚獣なんて存在じゃなかった。魔力なんて持たない、普通の動物であり、大切な家族だったんだよ。なぜかこの世界に来たら召喚獣になっていたんだけどね。今の俺がたくさんの召喚獣を維持できているのは、前世からずっと続いてきた家族としての繋がりが影響しているんじゃないかって思ってる。形は変わっても、魂の深いところで繋がっているからこそ、俺の精神も魔力も耐えられているんじゃないかな」
カケルは、肩のワサビ君や、足元で喉を鳴らす茶渋を愛おしそうに撫でる。
「だからこの世界で、みんなが穏やかに暮らせる場所を、俺はこの手で作るって決めているんだ。まだまだ俺が未熟だから、召喚できていない家族たちがいるんだけどね」
カケルの告白を聞き終えたリアナは、しばらくの間、言葉を失って立ち尽くしていた。やがて、彼女はふっと力を抜くと、呆れたような、それでいてどこか納得したような笑みを浮かべた。
「……前世なんて話、普通なら信じられないけれど。でも、師匠がこれほどまでに『変』な理由だけは、分かった気がするわ。普通じゃない絆があるから、普通じゃないことができるのね」
リアナはそう言うと、シルバーの頭をぽん、と叩いた。
「いいわよ、師匠。その明日召喚されるかもしれない新しい家族、私も楽しみにしてるわ。シルバーも、新しい弟分に格好いいところ見せたいわよね?」
シルバーが「うぉん!」と力強く応える。カケルはその様子に勇気づけられ、力強く拳を握った。
「……よし、明日が勝負だな」
カケルは窓の外、静かに沈みゆく月を見据えた。明日は、節目だ。
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