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前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


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第4話 初依頼と驚異の捕食

「……はい。では、こちらがカケル・モリシタ様の冒険者登録証になります」


受付嬢のミラは、困惑を隠しきれない顔で一枚の鉄板を差し出した。プレートにはカケルの名前と『職業:召喚士』、そこでランクを示す『G』の文字が刻まれている。


カケルが受け取った登録証は、しっくりと手に馴染んだ。それがこの世界における、彼にとって唯一の身分証明書となる。


プレートに刻まれた『カケル・モリシタ』という文字を指でなぞる。


かつての人生で名乗っていた『森下翔』という名は、あの凄まじい衝撃と共に、アスファルトの上で終わりを迎えたのだ。カケルはこれからはこの世界の一人の人間として、この名と共に生きていくことを静かに決意した。


「カケル様、まずはこの『Gランク』からのスタートとなります。冒険者のランクはGから始まり、実績を積むことでF、E……と上がっていきます。最高ランクはSです。ランクが上がれば受けられる依頼の幅も広がり、報酬も格段に良くなりますよ」


ミラは事務的な手際で書類を整理しながら、ランクアップの仕組みを説明した。一定数の依頼達成とギルドが定める貢献度が必要なこと、誠に昇格時には実技試験が課される場合もあるという。


「今のカケル様が受けられるのは、同じGランクか、一つ上のFランクの依頼までです。ご自身の判断で、くれぐれも無理のないものをお願いしますね」


ミラの視線は、カケルの肩で大人しくしているワサビ君に向けられていた。その瞳には、頼りなさげな召喚獣を連れて戦おうとする新人への、隠しきれない不安が混じっている。


カケルは軽く会釈をして、ギルドの奥にある大きな掲示板へと歩み寄った。掲示板には羊皮紙が何枚も貼り出されている。そこには明らかに日本語ではない奇妙な記号が並んでいたが、不思議なことに、カケルにはその意味が手に取るように理解できた。


『商業区の溝掃除:銅貨八枚』

『納屋のネズミ駆除:銀貨一枚』


言葉だけでなく、読み書きにまで補正がかかっている事実に、カケルは内心で安堵の溜息を漏らした。これならば、未知の土地で騙される心配も少ない。


彼が一枚の依頼書に目を留めた。


『廃屋のギガ・フライ討伐:銀貨三枚(成功報酬)』


ギガ・フライという名前から、カケルは漠然と「通常よりも大きめのハエ」だろうと推測した。カメレオンであるワサビ君にとって、ハエはもっとも得意な獲物だ。日本にいた頃、大きなクロコオロギを平らげていた姿を思い出し、これならば問題ないと判断した。


「ワサビ君、これにしよう」


カケルの呼びかけに対し、ワサビ君は相変わらずのマイペースさで、肩から肩へとゆったり移動するだけだった。その温度感の低さは、これから初仕事に向かうカケルの緊張を適度に和らげてくれた。


依頼書を受付へ持っていくと、ミラは驚いたように顔を上げた。ギガ・フライ討伐は群れで現れる上に不潔で、装備が汚れるのを嫌う冒険者たちからは敬遠されている依頼なのだという。


カケルは受理のスタンプをもらって、ギルドを後にした。


指定された場所は、商業区の外れにある古い廃屋だった。腐敗した木材の匂いと、生臭い風が漂う不気味な場所だ。


「う…臭いがキツイな……」


カケルが扉をわずかに開けると、中から「ブゥゥゥン」という、空気を震わせるような重低音の羽音が響いてきた。


暗がりに目が慣れるにつれ、カケルの顔から血の気が引いていく。


そこにいたのは、彼が想像していた「少し大きなハエ」などではなかった。赤く光る複眼と、不気味に蠢く長い脚。体長三十センチはあろうかという、魔物の群れだったのだ。


カケルは思わず後ずさった。肩に乗っているワサビ君のサイズよりも、敵の方が何倍も大きい。自分より巨大な獲物を前に、ワサビ君も警戒するように体を揺らし、体色を濃くした。


「ブゥゥゥン!」


異変を察知したギガ・フライの一群が、不気味な体液を撒き散らしながら一斉に襲いかかってきた。


(なんで安易に元いた世界のハエを基準に考えてしまったんだ!!)


自らの見通しの甘さを呪うような激しい後悔がカケルの脳裏をよぎる。反射的にワサビ君を庇おうとしたその時、カケルの焦燥に応えるように、肩から飛び降りたワサビ君の体躯が、まるで内側から膨れ上がるように急速に膨張し始めた。


「え……っ!?」


二十センチだった体が、瞬く間に質量を増していく。廃屋の床が重みに軋み、影が巨大な壁のように暗がりを覆い尽くす。光が溢れるような非現実的な変化ではなく、目の前で生物の限界を超えた急成長が起きていた。


数瞬後、そこにはカケルの腰の高さを優に超える、全長一・五メートルほどの威容を誇る巨大なカメレオンが鎮座していた。


「……ワサビ君なのか?」


驚愕するカケルの前で、変貌したワサビ君はミトンのような大きな足でがっしりと床を踏みしめた。左右の目をそれぞれ別方向へ高速で回転させ、全方位を捕捉する。その迫力は、もはや小さな愛玩動物のそれではない。


獲物だと思っていた対象の突然の変貌に、ギガ・フライたちが空中でたじろいだ。

だが、ワサビ君の動きは一瞬だった。


――シュパッ!!


肉眼では捉えられないほどの速度。


ワサビ君の口から放たれた舌が、数メートル先の空中にいたギガ・フライを正確に捉えた。粘着性の強い舌に絡め取られた魔物は、抗う術もなく巨大な口の中へと引きずり込まれる。


カケルは、瞬きする間もなく繰り広げられたその圧倒的な光景に、驚きのあまり声も出せず、身動き一つできぬまま立ち尽くした。


ワサビ君がそれを丸呑みにした瞬間、口の端からポロリと小さな紫色の結晶が地面に落ちた。


「……なんだ、これ?」


カケルは足元に転がってきた奇妙な結晶を拾い上げた。小指の先ほどのサイズだが、内側から淡い光を放っている。宝石のようにも見える。


カケルの戸惑いをよそに、ワサビ君の「狩り」は続いた。


右に放たれた舌が二匹を同時に巻き込み、左に放たれた舌が柱の影にいた一匹を捕らえる。逃げ場を失ったギガ・フライたちは、次々とワサビ君の口の中へ収まっていった。


数分後、廃屋に満ちていた不快な羽音は完全に消え去った。足元には、ワサビ君が排出した数十個の結晶がポロポロと転がっている。


やがてワサビ君は再び元の二十センチサイズへと戻り、何事もなかったかのようにカケルの足をつたって、もぞもぞと肩までよじ登ってきた。


呆然としていたカケルは、はっと我に返り散らばった結晶を一つ残らず拾い集めた。手のひらに乗せたその正体について、心の中でナビゲーターに問いかけた。


「これ、一体何なんだ?」


『それは【魔石】です。魔物の心臓部に宿る魔力の結晶体です』


「魔石……? どうしてワサビ君がこれを?」


『本来、魔石の回収には死体を切り開く【解体】の工程が不可欠です。しかし、あなたに使役される【召喚獣】は、捕食した魔物の肉体から魔力のみを効率的に抽出し、不純物を排出した上で魔石として精製・結晶化させる特性を持っています』


「これ、ギルドに持っていけばいいのか?」


『はい。魔石は討伐の証明になるだけでなく、エネルギー源として高値で取引されます。これを提出することで、依頼達成の確実な証拠となり、追加の報酬も期待できるでしょう』


カケルは大きく頷き、それからずっと気になっていた疑問をぶつけた。


「……ところで、今のワサビ君の巨大化は何なんだ? ステータスにはそんなスキル、書いてなかったはずだけど」


『それはスキルではありません。召喚獣ワサビが持つ「個体の特徴」です』


「特徴? スキルと何が違うんだ?」


『スキルは魔力を消費して発動する後天的な能力ですが、特徴は身体構造に由来する先天的な性質を指します。召喚獣としてこの世界に再構築された際、彼は自らの意思で体格を変化させる特殊な生理機能を得たようです。これは魔力消費を伴わない純粋な身体能力であるため、スキル枠には表示されません』


「なるほど、スキルじゃなくてこの世界で召喚獣として変化したってことか……」


カケルは納得すると同時に、肩の上で何食わぬ顔をしている相棒を見つめた。


「なんてことだ……ワサビ君はこの世界に来て、もっとすごくてカッコいいカメレオンになっちゃったんだな!」


カケルはデレデレした笑顔で語りかけた。相変わらずワサビ君はマイペースに目をキョロつかせるだけだったが、その小さな体が以前よりも頼もしく感じられた。


カケルは袋に詰めた魔石の重みを確かめた。依頼報酬の銀貨三枚に、この魔石の売却益。


(初仕事にしては、幸先のいいスタートを切れたのかも。ワサビ君に頼りきりだったけどな)


その時、頭の中に再びナビゲーターの声が響いた。


『召喚獣ワサビのレベルが5に到達。オーナー:カケル・モリシタの召喚士レベルが2に上昇しました。召喚枠が1つ解放されます』


カケルは驚きに目を見開く。


(ワサビ君の活躍が、俺自身の力にもなっているということか。)


新しい力、そして、新しい家族――。カケルの胸が高鳴る中、廃屋に差し込む西日が二人を静かに照らしていた。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


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