第5話 愛猫との再会、そして重すぎる愛
「そうだ!召喚枠!!次は……次は誰を召喚できるんだ!?」
期待に胸が躍る。ワサビ君がいてくれるだけで心強かったが、もし他の「家族」の誰かに会えるのだとしたら。
『回答します。召喚枠【ネコ】が解放されました。現在、召喚可能な対象は一名――個体名「茶渋」です』
「茶渋……!」
カケルの目頭が、一瞬で熱くなった。
茶渋。一人暮らしを始めたころに道端で保護した愛猫。サビ柄が渋いからと名付けた、人懐っこくて甘えん坊な、俺の相棒。
「茶渋……! おいで!!」
カケルの叫びに応えるように、目の前の空間が淡く発光し、粒子が渦巻き始めた。
ワサビ君は肩の上で、その光景を興味なさそうに、しかしどこか懐かしむようにじっと見つめている。
やがて光が収束し、床の上に「それ」が姿を現した。
「ニャーーーーオ!!」
鼓膜を突き抜けるような、やけに響く鳴き声。
そこにいたのは、ふわふわとしたフォルムに、くりくりとした真ん丸の目、そして見間違えるはずもないサビ柄の毛並み。
「茶渋……茶渋なのか……っ!」
カケルは膝をつき、たまらずその体を抱き寄せた。
腕の中に伝わる、ずっしりとした重み。柔らかい毛の質感。および、ゴロコロと喉を鳴らす特大の振動。
「よかった……お前も, お前も無事だったんだな……!」
再会の喜びに浸り、カケルは茶渋の首元に顔を埋めた。
トラックに撥ねられたあの瞬間、一番心残りだったのは、残されたこいつらのことだった。こうして再び抱きしめられることが、夢のようで、涙が止まらない。
だが、感動の再会は、予想外の形でもう一つの「変化」を見せた。
「ニャフーーーーン!!」
茶渋が歓喜の声を上げ、カケルの顔をザリザリと舐め回す。
その直後だった。
「……え? ちょっと待て、茶渋、お前――」
カケルの腕の中で、茶渋の体が急速に膨れ上がり始めたのだ。
ワサビ君がハエを前にして見せた、あの「巨大化」である。
「ちょ、おい! ストップ! デカい、デカすぎるって!!」
ワサビ君の時は「カッコいい」と思えた変化も、自分に懐いている猫が相手となると話は別だ。
茶渋の体躯は瞬く間に大型犬を超え、ついにはライオンほどの大きさにまで膨張した。
「ニャフーーーン!!」
ドスッ、という鈍い衝撃。
巨大化したサビ柄の塊が、全力の親愛を込めてカケルにのしかかってきた。
「ぐはっ……!? おも……重い、死ぬ……っ!!」
ライオンほどの巨体になったとはいえ、中身は甘えん坊な茶渋のままだ。その質量は凄まじく、カケルは廃屋の床に押しつぶされ、身動きが取れなくなった。
視界の全てがサビ柄の毛に覆われ、肺の空気が押し出される。
「お前も……ワサビ君みたいに、巨大化できるのか……!!」
苦しい息の下でカケルが叫ぶと、頭の中にあの声が響いた。
『はい。それはスキルではなく、召喚獣として再構築されたことによる身体的特性です。対象への親愛の情に比例して、自重と質量を増大させているようです』
「ありがた迷惑すぎるだろ, その体質……っ! ワサビ君、助けて……!」
カケルが助けを求めると、いつの間にやら肩から降りていたワサビ君は、少し離れた場所で首を傾げた。そして「やれやれ」と言わんばかりに、左右の目をキョロつかせてから、窓の外の夕陽を眺め始めた。
「ワサビ君……ひどい……っ!」
強制猫吸いと、巨大な岩石に圧し潰されるような重み。
カケルは息も絶え絶えになりながらも、新しく加わった家族の力を知るべく、ステータスの表示を念じた。
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【召喚獣詳細】
名称:茶渋
種族:サビ猫
レベル:1
【固有スキル】
・反射:オーナーを狙う攻撃を瞬時にはたき落とす、あるいは弾き飛ばす。自身の反応速度に依存するため限界がある。
・爪撃:鋭い爪による近接攻撃。
・威圧:格下の魔物を戦意喪失させ、動けなくする。大型化時は咆哮で周囲を制圧する。
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(レベル1なのに、最初からこんなに強力なスキルを3つも持ってるのか……! これにあの巨大化が加わったら、茶渋はとんでもない戦力になるんじゃ……)
カケルは、足元でマイペースに佇むレベル5の先輩召喚獣ワサビ君と、自分を押し潰しているレベル1の期待の新人(?)を見比べた。
「わかった……わかったから、一回小さくなれ、茶渋! これからギルドに、報告に行かなきゃいけないんだから……!」
カケルの悲痛な叫びが、夕暮れの廃屋に虚しく響き渡った。




