第37話 押し掛け弟子
本日は2話投稿します!
バジリスクとの死闘から半日が経ち、リスティアの街には夜の帳が下りていた。
カケルは自宅の居間で、ようやく一息ついていた。膝の上では茶渋が丸くなって眠り、肩にはワサビ君が器用に止まっている。
(……今日は本当に色々あったな。リアナさん、大丈夫だったかな)
そんな心配が頭をよぎった、その時だった。扉をノックする音がした。
「はい、どなたですか?」
カケルが扉を開けると、そこには街灯の明かりに照らされたリアナと、その足元に寄り添うシルバーが立っていた。リアナの瞳は赤く、先ほどまで泣いていたことを物語っている。
「……夜分に、ごめんなさい」
「リアナさん。どうしたの、こんな時間に」
昼間の不遜な態度はどこへやら、彼女は消え入りそうな声で口を開いた。
「……謝りたくて。今まで、あなたの家族を……その、戦力外だなんて酷いこと言って、本当にごめんなさい。それに、シルバーを道具みたいに扱って、無茶をさせて……私、最低だった」
深々と頭を下げる彼女に、カケルは毒気を抜かれた。
「……分かった。無事ならそれでいい。今日はもう帰って」
「……もう、同じことはしたくないの!」
ガバッと顔を上げたリアナの瞳には、昼間とは違う、しかし同じくらい強い熱が宿っていた。
「私に教えてほしいの! その……召喚獣と『家族』になる方法を! 私を弟子にして、師匠!」
「……はい?」
カケルの口から、間の抜けた声が漏れた。
「弟子って……。俺は召喚士としても未熟だし、師匠なんてガラじゃないよ。君の方が召喚士として経験はあるだろうし、俺が教えられることなんて――」
「私もそう信じてきた! けど、実際は違った……。あなたのように、ちゃんと召喚獣と向き合う方法が知りたいの!」
カケルが困惑して茶渋たちを見ると、眠りから覚めた茶渋は「またこの人間か」と言いたげに細めた目でリアナを見つめ、ワサビ君は面倒そうに目をくるりと回した。
「とにかく、断る。弟子なんて取らないし、そもそも教えることなんて何もないんだ」
「いいえ、諦めないわ! 許可が出るまで、私、ここを動かないから!」
「ええ……」
宣言通り、リアナは玄関先に座り込んだ。視線だけこちらに向け、梃子でも動く気がない。シルバーも主人に従うようにその隣に伏せる。
困り果てたカケルだったが、ここで追い返しても、明日も来る。そう思うと余計に面倒だった。カケルはため息をつき、彼女(と巨大な狼)を部屋に入れた。
「……居座るなら、静かにして。今はもう夜だし、みんなも落ち着きたい」
「ありがとう、師匠!」
そう答えるリアナの顔が、パッと明るくなった。
「師匠って呼ぶのもやめて……」
茶渋は自分の縄張りに巨大な狼がいるのが気に入らないのか、しばらくの間「シャーッ」と低い威嚇を繰り返していたが、シルバーが終始申し訳なさそうに身を縮めているのを見て、やがて呆れたように鼻を鳴らして丸くなった。
「ほら、シルバー。あんまり隅っこにいないで、こっちにおいで」
カケルは一度リアナを見てから、そっと手を伸ばした。シルバーの銀毛に指を差し込む。
「……リアナさん、シルバー、首の付け根がこわばってる。ここだ。抱きしめる前に、ほぐすと呼吸が落ち着く」
「ほぐす……? 召喚獣を?」
「そう。シルバーウルフだって、怖い思いをすれば体も心も固くなる。この辺の首の付け根……ここをね」
カケルが手本を見せると、シルバーは気持ちよさそうに「くぅ……」と喉を鳴らした。それを見たリアナは、目を見開いてノートを取り出す。
「首の付け根……優しく……落ち着く……。凄いわ師匠!」
「だから、メモするようなことじゃないってば……」
騒々しい弟子候補と、肩身の狭そうなシルバーウルフ。
カケルは天井を見上げ、ため息をひとつ。肩の上でワサビ君の目が、ゆっくり回った。
「……明日からどうなるんだ、これ」
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