第35話 崩れた誇り
「待ってくれ、リアナさん!」
カケルの叫びは、森に響く風の音にかき消された。
木々の間を縫うように駆け抜けるシルバーとリアナの背中を追い、カケルが茂みを飛び出した先――そこには、高さ数メートルに及ぶ巨躯をもたげた、深緑の鱗を持つ大蛇がいた。
Cランク魔獣、フォレスト・バジリスク。その黄金色の瞳が、銀の狼を侵入者として冷酷に射抜く。
「行きなさい、シルバー! そのままやっつけてやりなさい!」
前方で立ち止まったリアナが、勝ち誇ったように腕を振る。シルバーは主人の命に従い、最大速度でバジリスクの喉元へと一直線に牙を剥いた。
(……いきなり、正面から!?)
バジリスクの動きは、大柄な体躯に似合わず機敏だった。正面からの接近に対し、バジリスクは頭部をわずかに引くと、丸太のような太い尾を鞭のようにしならせた。
――ドォォォォォン!
「ギャウンッ……!?」
回避不能のタイミングで放たれた重い「横殴り」。シルバーの巨体が紙屑のように吹き飛ばされ、巨木へ叩きつけられた。
鈍い音と共にシルバーが地に伏した。立ち上がろうとするものの、四肢を震わせたまま動けなくなってしまう。バジリスクの威圧が、地を這うようにのしかかった。
「シルバー……? うそ、一撃で……?」
さっきまでの不遜な笑みは消え、リアナの顔から血の気が引いていく。
「な、なにしてるの!立って……立ちなさい!戦いなさいよ、シルバー!」
パニック状態で叫ぶ彼女の命令に、シルバーは必死で四肢に力を込めようとするが、恐怖から足の震えは止まらない。
バジリスクは動けない獲物を仕留めるべく、鎌首をもたげた。
「……行くよ!みんな」
カケルの静かな呼びかけに応え、家族たちが顕現した。
まず、四羽のキンカチョウが高度を上げ、戦場の周囲へとパッと散開した。
脳内に届くナビゲーターの音声は、それ以上増えない。少なくとも近距離で新たな反応が増えていないことだけを意識の端で押さえ、カケルは目の前のバジリスクへ神経を研ぎ澄ませた。
次にほっぺが、空から【呼び寄せ】をかけてバジリスクの注意を強引に上空へ逸らした。大蛇が苛立たしげに上空を睨みつける。
「今だ、キョロ、チョロ!」
二匹のジャンピングスパイダーが音もなく跳び、足元へ滑り込むように回り込む。続けて【蜘蛛の糸】が奔り、バジリスクの腹部と周囲の根を複雑に絡め取っていった。
強靭な糸による拘束で、巨躯の自由が制限される。
「ワサビ君、お願い!」
【隠密】によって周囲の景色に完全に同化していたワサビ君が、拘束されたバジリスクの死角から一気に距離を詰め、巨大化するとともにその無防備な脇腹へ向けて【舌撃】を放つ。
「グルゥァッ!?」
鱗の隙間を貫く打撃に、バジリスクが苦悶の声を上げる。強靭な生命力で糸を引きちぎり、なお暴れようとする魔獣。
「みんな、今だよ!」
ほっぺの撹乱。ジャンピングスパイダーの再拘束。そこへ茶渋の鋭い【爪撃】が、バジリスクの鱗を次々と引き裂いていく。
強固な鱗に攻撃が弾かれる場面もあったが、カケルは家族たちの挙動の一つ一つに意識を配りながら指示を出し続けた。
「……これで、終わりだ!」
最後は、バジリスクの首筋にできた傷口を、茶渋が渾身の力で切り裂いた。Cランクの巨躯が、地響きを立てて崩れ落ちる。
静寂が戻った森の中で、カケルは大きく息を吐き、駆け寄ってくる家族たちを一人ずつ撫でた。
「みんな、ありがとう」
一方、震えるシルバーの傍らでへたり込んだリアナは、信じられないものを見るかのようにカケルを見つめていた。彼女が「戦力外のペット」と切り捨てた家族たちが、自分の誇りであるシルバーを圧倒した魔獣を、見事な連携で討ち取ったのだ。
その光景は、リアナの歪な誇りを根底から揺さぶるには十分だった。
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