第33話 横取り
翌朝、カケルは昨日の騒動を避けるため、いつもより早めに冒険者ギルドへと足を運んだ。
(貯金のためにも、確実な依頼を地道にコツコツこなすのが大切だからな……)
しかし、ギルドの重厚な扉を開けた瞬間、受付のすぐ近くで柱に背を預けて待っているリアナとシルバーウルフが目に入った。彼女はカケルを見つけるなり、逃がさないとでも言うような視線を向けてくる。
「遅かったじゃない。逃げられたかと思ったわよ」
「……おはようございます、リアナさん」
カケルは努めて穏やかに挨拶を返したが、リアナは止まらない。
「いい? 昨日の続きよ。あなたの召喚術がどれだけ甘いか、私が直々に……」
彼女が何かをまくしたてているが、カケルは「朝から元気だな」とだけ思い、言葉は受け流しながら掲示板から手頃な「害獣間引き」の依頼票を引き剥がした。そのまま受付へ向かい、淡々と手続きを済ませる。
「……ちょっと、無視しないでよ!」
「あ、すみません。今から依頼に行くので。じゃあ、これで」
嵐のような彼女の言葉を背に、カケルはギルドを後にした。一人で地道に稼ごう。そう思っていた。
だが、街を出て目的地へと向かう道中、カケルは背後に奇妙な気配を感じて足を止めた。振り返ると、そこには一定の距離をあけてついてくるリアナとシルバーウルフの姿があった。
(……え、なんでついてくるんだろう?)
彼女は無言で、刺々しい視線をこちらに向けている。
(見定めるって言っていたけど……まさか、依頼が終わるまでついてくる気なんだろうか?)
尋ねようかとも思ったが、背後から「納得いかない」という圧がまとわりつき、カケルは関わり合いを避けるように前を向いた。
リスティア近郊の平原。ここなら、いつも通りの手順で片づく——そう踏んでいた。
「よし、ワサビ君。まずはあそこのホーンラビットを——」
カケルが指示を出そうとした瞬間、横から銀色の閃光が走り抜けた。
「行け、シルバー!」
リアナの鋭い声と共に、シルバーウルフが凄まじい脚力で地を蹴った。ワサビ君が舌を伸ばすよりも早く、鋭い爪がホーンラビットを切り裂く。
(……早いな。やっぱりシルバーウルフは伊達じゃない)
感心するカケルだったが、問題はその後だった。
次に出現したゴブリンの群れも、カケルが茶渋に【威圧】を命じる前に、シルバーが風のような速さで倒し切ってしまった。倒れたゴブリンが草の上に転がった。
「見たかしら? これが『戦力』としての召喚獣よ。あなたの猫が欠伸をしている間に、私のシルバーは全てを終わらせるわ」
リアナは胸を張った。カケルは笑顔を作りかけて、引っ込めた。
(……これは困ったな。リアナさんが全部倒しちゃうと、茶渋たちの経験値にならないじゃないか)
召喚士としてのプライド云々以前に、実利の面で大問題だ。だが、彼女に「レベル上げの効率が悪い」と言ったところで、聞き入れられるはずもない。
「……リアナさん、凄いのは分かったから、次は俺たちに任せてくれないかな」
「何を言っているの? 私がこうして瞬殺してあげているんだから、安全でいいじゃない。あなたはそこで、本物の召喚士の戦い方をしっかり見ていなさいよ」
(……ダメだ。何を言っても『親切で安全にしてやってる』って返ってくる)
カケルは苦笑いを浮かべ、静かに頭を抱えた。この世界では、倒した本人にしか伸びがない。つまりリアナが獲物を全て横取りしてしまうと、茶渋たちのレベルが全く上がらないのだ。
(張り合うつもりはないんだけど……これでは『監視』どころか、ただの妨害だよ。今日一日が無駄になってしまう)
茶渋は獲物を奪われ続けて不機嫌そうに尻尾を振り、ワサビ君は手持ち無沙汰に目をくるくると回している。リアナはカケルの反応を都合よく受け取ったのか、声の調子が上がった。
「さあ、次はあそこの群れよ! 遅れないようについてきなさい!」
「やれやれ……。参ったな」
カケルはため息をつきながら、先行する銀の狼と不遜な少女の背中を追った。レベル10への道のりは、思わぬ伏兵によって足止めを食らっているようだった。
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