第30話 地平線の先へ、広がる世界と誓い
リスティアから馬車で十日。たどり着いたハルバート領の森は、湿った土と青い匂いが濃く、足を踏み入れただけで圧を感じる森だった。
「カケル、準備はいいか。ここから先は『未踏域』に近い。何が飛び出してくるか分からんぞ」
馬上のエアリスが鋭い視線を森の深淵へと向ける。カケルは静かに頷いた。上空には索敵を担当するキンカチョウたちを放ち、周囲の警戒を続けている。
「ピー太郎、ピー次郎、プー子、ペー子。高度を上げて広域索敵。何かあればすぐに教えて」
四羽のキンカチョウが空へ溶け込み、深い樹冠の奥へと消えていく。
「……カケル殿、本当に大丈夫なのか? 剣も持たず、そんな小さな鳥を放っただけで……」
同行するハルバート領の騎士が眉をひそめて言った、その次の瞬間、ナビゲーターの警告が脳内に響いた。
「――来ます。右前方、地下。大型の甲殻種です」
カケルが告げた直後、地面が爆発するように盛り上がり、馬車ほどもある巨大なハサミを持つ魔獣「アース・シザー」が姿を現した。騎士たちが武器を構えるよりも早く、カケルは家族たちを顕現させた。
「キョロ、チョロ! 【蜘蛛の糸】で足止めを!」
カケルの足元の影から二匹のジャンピングスパイダーが音もなく現れ、驚くべき跳躍で魔獣の背後へと回り込む。空中で放たれた白銀の糸が、アース・シザーのハサミと脚を瞬時に絡め取った。
「ワサビ君、追撃!」
続けてカケルの傍らの地面に顕現したワサビ君が、一・五メートルを超える巨体へと膨れ上がる。射出された超高速の舌先が、魔獣の眉間を正確に打ち据えた。さらに、影から飛び出した茶渋の【爪撃】が、装甲の隙間を狙って裂き、動きを奪った。
わずか数秒。騎士たちが一太刀浴びせる暇もなく、ハルバート領の脅威は動きを止めた。
「さすがだな。必要最小限の動きで、これほどの脅威を退けるとは」
エアリスが苦笑しながら剣を鞘に収める。先ほどまで疑念を抱いていた騎士も、あまりの速攻に言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くしていた。
その後、数日にわたる調査の最中。
「……見てくれ。これは、まさか『月光草』の群生地か?」
地形の変化を調べていたエアリスが、驚きを含んだ声を上げた。本来なら人目に触れることのない奥地で、青白く発光する希少な薬草がひっそりと自生していた。
索敵の範囲では、ランクB以上に相当する反応が見当たらなかったのも幸いし、一行はカケルの家族たちが作った安全圏の中で、着実にこの地の異変の全容を解明していった。
遠征の全行程を終えた、帰路の夜。
カケルはキャンプから少し離れた丘の上で、家族たちを呼び出していた。空には、前世では決して見ることのできなかった濃密な星空が広がっている。
「……綺麗だね、みんな」
膝の上で喉を鳴らす茶渋の背中を撫でる。肩にはワサビ君が、枝の上ではほっぺとキンカチョウたちが身を寄せ合い、足元ではキョロとチョロが八つの瞳を輝かせていた。
(まだ、呼べていないみんながいるんだな……)
「約束するよ。必ず、全員をここに呼び寄せる。そして、みんなでのびのび暮らせる場所を……俺が作るから」
地平線の先を見据え、カケルは静かに誓った。
召喚士レベル7。目的地はまだ遠い。だが、家族たちと歩むこの道のりに、迷いは感じなかった。
一陣の夜風がカケルの頬を撫で、星々がその誓いを祝福するかのように見えた。
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