第24話 森の異変
作品タイトルを変更しました!
城塞都市リスティアの冒険者ギルド。その最上階にある執務室に、数人の男女が集められていた。
中心に座るのは、ギルドマスターのヴォルガン・バリスだ。その眼光は鋭く、室内には独特の緊張感が漂っている。
集められたのは、ベリック率いる「鉄の牙」を含む数組のCランク冒険者。さらに、ただ一人、Dランクのプレートを下げたカケルだった。
「急に呼び出して済まねえ。だが、火急の案件だ。北の森のDランクエリア付近で、本来そこには生息していないはずの魔獣が目撃されたり、不気味な魔力の揺らぎが観測されたりしているといった異変が起きている。何かが起きる予兆かもしれん。その調査を、お前たちに頼みたい」
ヴォルガンの重々しい言葉に、カケルは戸惑いを隠せず、思わず挙手した。
「あの……失礼します。ベリックさんたちのような経験豊富なCランクの方々に混じって、なぜ経験の浅い俺も呼ばれたのでしょうか?」
「お前の召喚獣が索敵やおびき寄せができるだろ。今回のような正体不明の異変調査では、その『目』こそが何より必要になるんだ」
ヴォルガン・バリスは深く椅子に背を預け、カケルを真っ直ぐに見据えた。
「イレギュラーが起きた場所で、確実に異変を察知し、安全に立ち回るための『目』として、お前がいてくれると助かる。……やってくれるな?」
(……あの子たちの能力を、そこまで評価してくれていたのか)
カケルは驚きつつも、家族たちの誇らしい成果を認められたことに、少しだけ胸が熱くなった。
「分かりました。……俺とあの子たちで、精一杯務めさせていただきます」
こうして、混合調査チームが結成された。
一行が森に入ってから一時間ほど歩を進めた頃、カケルは言いようのない薄気味悪さに、何度も背後を振り返っていた。
「……おかしいな」
「ああ、カケル。お前もそう思うか」
前を歩くベリックが、苦々しい顔で足を止めた。
このあたりは本来、FランクのホーンラビットやEランクのゴブリンが、嫌になるほど群れているエリアだ。しかし、今日は一匹としてその姿を見かけない。羽虫の音さえ聞こえず、ただ重苦しい冷気が肺の奥まで入り込んでくる。
カケルはすぐにピー太郎たち四羽を空へ放ち、上空からの警戒網を広げた。
ほっぺはカケルの頭の上で周囲を警戒し、肩に乗ったワサビ君は肌を黒く変色させて警戒を最大にし、影に潜む茶渋は喉を低く鳴らして毛を逆立てている。足元のキョロとチョロにいたっては、地面から何かを察知しているのか、何度もカケルの脚にしがみつこうとした。
「あの子たちがこれほど警戒するなんて……まるで、森全体が息を殺して何かに怯えているみたいだ……」
カケルの警告に、ベリックも剣の柄に手をかけた。
「おい、見ろ。道中の草木が白く変色してやがる。枯れてるんじゃない、何かに魔力を吸い尽くされた跡だ」
森の奥へ進むほど、違和感は恐怖へと変わっていった。
順調に進んでいたはずが、かつては獣道だった場所が不自然に巨大な蔓で塞がれているのを見つけたその時――カケルの脳内に、ナビゲーターの無機質な報告が突き刺さった。
『超高速個体が接近中。個体は上空より垂直降下を開始。予測地点――上方。』
「……っ、皆さん、止まって! 来ます、真上です!!」
カケルの叫びと同時に、頭上を覆っていた巨大な樹木そのものが、意思を持った触手のようにしなり、猛然と振り下ろされた。
「なっ……! なぜこんな場所にな……っ!?」
ベリックが叫ぶ暇もなく、巨大な蔓が「鉄の牙」のメンバーを薙ぎ払った。盾を構えていた前衛たちが、紙屑のように吹き飛ばされ、木々に激突して意識を失う。
『対象:フォレストガーディアンを捕捉。敵対個体ランク、B』
「ベリックさん!」
意識を保っているのは、カケルと、倒れた仲間を庇うベリックだけだった。フォレストガーディアンの巨躯が、獲物を仕留めるためにその枝枝を振り上げる。
(……逃げられない。この速度、この範囲……あの子たち数体じゃ守りきれない!)
カケルの額から、冷や汗が流れる。これまでは数体による連携で十分に事足りていたが、九体すべてを同時に管理し、的確な指示を飛ばし続けるのはカケルにとっても未知の領域だ。
だが、今は出し惜しみをしている余裕などない。
(やるしかない。一人でも欠けさせない。俺が、みんなを守るんだ……!)
「みんな……全力で行くよッ!!」
カケルの呼びかけに応じ、魔力の奔流が吹き荒れた。
ワサビ君や茶渋、ほっぺと四羽のキンカチョウ、そして新入りのキョロとチョロ。九体すべての家族が、迫り来る強大な敵を前にして、それぞれの持ち場へと音もなく散る。
「……九体同時は、やっぱりまだ少しキツイな……」
カケルは奥歯を噛み締め、溢れ出る魔力を必死に制御した。
九体もの召喚獣を同時に、かつ正確に指揮する。それはカケルの集中力を極限まで要求した。ナビゲーターを介して次々に送られてくる情報量と、急速に消費されていく魔力。
このまま戦いが長期化すれば、カケルの魔力が底を突き、指揮が乱れるのは明白だった。短期決戦で決めるしかない。
だが、カケルの目は死んでいなかった。
「……ワサビ君、茶渋! 左右から牽制! ほっぺ、気を引いて! ピー太郎たちは周囲に他の魔物がいないか監視!」
カケルは血の混じった唾を吐き捨て、絶叫に近い指示を飛ばした。
「キョロ、チョロ! ――あの子の足を、その糸で完全に封じて!」
限界を超えた魔力消費の中、カケルの「家族」たちが、Bランクの化け物へ牙を剥いた。
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