第22話 連携の真価
Dランクへと昇格して数日が過ぎ、カケルを取り巻く環境は一変していた。
これまで、ギルドで誰一人として彼に声をかける者はいなかった。召喚獣を連れた「得体の知れない新人」として、遠巻きに眺められるのが常だったのだ。
だが、実績が認められた途端、潮目が変わった。
「よう、カケル。次の依頼、うちと組まないか?」
ギルドのロビーで、一人の男が声をかけてきた。先日、謝罪に来たベリックだ。
カケルは少し驚いて足を止めた。誰かからパーティに誘われるというのは、これが初めてのことだったからだ。
「……俺に、ですか?」
「ああ。俺たち『鉄の牙』は前衛が揃ってるんだが、火力がもう少し欲しくてな。お前のトカゲ・ワサビの攻撃力があれば、仕留め損なうことはねえはずだ」
カケルは少し考え込んだ。これまでは能力の全容を秘匿するため、滅多に他人に家族の戦い方を邪魔されないためにソロを貫いてきたのだ。
(Dランクになった以上、もう隠し通す段階でもない。それに、これからのことを考えたら、誰かと組むという経験もしておいた方がいいかもしれない)
「……分かりました。ただ、あの子たちの戦い方は少し特殊なので、基本的には彼らに任せていただければと思います。ベリックさんたちは、もし撃ち漏らしが俺のところへ来そうになった時だけ、対処をお願いできますか?」
「ああ、約束する。俺たちが徹底して『盾』になる。お前さんの家族には指一本触れさせねえよ」
こうして、カケルにとって初めての「他パーティとの同行」が始まった。
向かった先は、北に位置する『静寂の森』。依頼は、繁殖期で凶暴化したフォレストウルフの群れの間引きだ。
「……本当に、俺たちが露払いでいいんだな?」
森の入り口で、ベリックが腰の剣を確かめながら改めて問いかける。
「あ、はい。……ええと、あの子たちに任せてくださる、という話でしたよね。少し変な戦い方になると思うので、よろしくお願いします」
カケルは屈強なベリックたちに少し気圧されながらも、しっかりと答えた。
森の深部、狼たちの気配が濃くなる場所でカケルは足を止めた。
「ピー太郎、ピー次郎、プー子、ペー子。【索敵】を頼んだよ」
カケルの肩や腕から、四羽のキンカチョウが音もなく飛び立つ。彼らは巨大化せず、野生の小鳥と見分けがつかないサイズのまま、樹冠を縫うようにして散っていった。
「おい、あんな小さな鳥を放り出して大丈夫なのか?」
パーティの一人が心配そうに声を上げたが、カケルはあえて何も言い返さず、脳内に響く報告に神経を集中させた。
『対象:フォレストウルフの群れを捕捉しました。前方三十メートル地点、個体数は八体です』
淀みのない報告がカケルの意識に直接届けられる。
「大丈夫ですよ。あの子たちが……その、直接俺に敵の居場所を教えてくれるんです。……あ、来ました。前方三十メートル、数は八です。皆さん、配置をお願いできますか?」
ベリックたちが顔を見合わせながらも配置に付くのを確認し、カケルは次の指示を出す。
「ほっぺ、【呼び鳴き】の出番だ。魔獣たちを、こっちに呼んで」
ほっぺは「ホッペチャン」と短く鳴いて返事をすると、離れた枝に飛び移る。すっと背筋を伸ばし、嘴を大きく開いた。
次の瞬間、森の静界を鋭く切り裂くような、驚くほど大きな鳴き声が響き渡った。
それは遠くの仲間に居場所を知らせるための、耳を打つような高音だった。
「……っ、なんだあの声!? あんな小さな体のどこから……」
ベリックたちが思わず耳を塞ぐ中、その騒がしいまでの音色に惹きつけられたフォレストウルフたちが藪から姿を現した。
「茶渋、まずは【威圧】。それから【爪撃】でお願い」
大好きなカケルを守るために、影から音もなく飛び出したのは、ライオンをも凌駕するほどに巨大化したサビ猫の茶渋だ。鋭い眼光で、獲物たちを真っ向から一睨みする。
その瞬間、飛びかかろうとしていた二頭の狼が、まるで目に見えない鎖で縛られたかのように硬直した。格下の魔獣の戦意を根こそぎ奪い去る、捕食者の眼光。
動けなくなった獲物へ、茶渋が肉薄する。魔力によって強化された鋭い爪が閃き、一閃。抵抗すら許されず、狼たちの喉元が深く切り裂かれた。
絶命した二頭の狼が、重苦しい音を立てて地面に横たわる。
その時、一頭の狼が茶渋を迂回し、カケルを目掛けて飛び出してきた。
「カケル、危ねえ! 下がってろ!」
ベリックが「盾」としての本分を果たすべく、吠えながら剣を抜こうとした。だが、その指が柄に触れるよりも早く、家族の反応がすべてを上書きした。
「ワサビ君、【舌撃】!」
カケルの肩にいたワサビ君の口から、閃光のような速度で舌が射出された。
空中で牙を剥いた狼の眉間を、超高速の舌先が正確に打ち抜く。岩石をも砕く凄まじい衝撃に、狼は悲鳴を上げる暇もなく弾き飛ばされ、数メートル先の樹木に激突した。
ベリックは引き抜きかけた剣を握ったまま、呆然と立ち尽くすしかなかった。助けに入る隙も、守る必要さえも、そこには一欠片も残っていなかった。
「……助かったよ、ワサビ君。茶渋、そのまま次をお願い」
カケルがワサビ君の背中を指先で一撫ですると、彼は何事もなかったかのようにくるりと片方の目を動かした。
カケルの指示は、淀みなく正確だった。
キンカチョウが探し、ほっぺが呼び、茶渋が制圧し、仕留める。そしてワサビ君がカケルに近寄る脅威を排除する。
わずか十五分足らずで、八頭の群れは壊滅した。ベリックたちは、一度も剣を抜くことさえなかった。
「……さて、片付けをしないと。茶渋、魔石の回収をお願いできるかな?」
カケルの言葉に応じ、茶渋は巨大な前脚を器用に動かした。鋭い爪先で狼の死体から手際よく濁った魔石を掻き出し、それをカケルが受け取ってワサビ君に精製させていく。
「……おい、嘘だろ。精製までやってるのか?」
ベリックが、一歩も動けなかった自分たちの脚を見つめ、驚愕に声を震わせた。
「召喚獣が精製までこなすなんて、聞いたこともねえぞ。……俺たちはただ、特等席でとんでもねえ連携を見せられてただけか」
「あ、いえ……そんな大層なものじゃありません。俺はただ、あの子たちが自由に動けるように手伝っているだけですから。……みんな、本当に自慢の家族なんです」
カケルは戻ってきた茶渋の頭をそっと撫でた。茶渋は満足げに目を細める。
「お前さんは、ただの召喚士じゃねえ。……召喚獣の個性を引き出すプロだな」
ベリックの賞賛を、カケルはいつもの丁寧な微笑で受け流した。
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