第21話 変わる視線と歩み寄る者たち
カケルが手にした、鈍い銅色の光を放つDランクのギルドプレート。それがもたらした変化は、劇的だった。
ギルドの受付ロビーに足を踏み入れても、以前のような刺さるような視線はない。代わりに送られるのは、実力者に対する控えめな敬意だ。
カケルは少しの居心地の悪さを感じつつ、壁際のベンチに腰を下ろした。肩の上では、ワサビ君が左右別々に動く目で器用に周囲を観察している。
そこに、一人の男が歩み寄ってきた。見覚えのある顔だった。ギルドに登録した初日、ワサビ君の小ささを指して大笑いした冒険者だ。
男はカケルの前で足を止めると、バツが悪そうに頭を掻いた。
「……よう。カケル、だったか。あん時は悪かったな」
唐突な言葉に、カケルは目を瞬かせた。
「あの時、とは?」
「とぼけんなよ。お前のトカゲを……ワサビだっけか。そいつを馬鹿にした時のことだよ。この前、森でお前の戦いを遠目に見かけてな」
男は視線を逸らし、独り言のように続けた。
「一瞬だった。まさかあの小さかったのが、あんなにでかくなって魔物を丸呑みにするなんて思いもしなかった。あの舌の速さと威力……ありゃあ俺じゃあ防げねえ。トカゲだなんだと笑ってた自分が恥わしくなった。……すまねえ、謝らせてくれ」
カケルは静かに男を見つめた。相手が謝罪に来るほど、ワサビ君の実力は誰の目にも明らかになったということだろう。
「……いいですよ。気にしてません。あの子の実力は、俺が一番よく分かっていますから」
カケルは短く、事務的に答えた。許す許さないという感情よりも、単に過去の出来事として処理したに過ぎない。
だが、男が「ワサビ」という名前を出し、その動きを認めたことは事実だ。
「さっきも言ったが、あの舌の一撃は信じられねえよ。獲物を仕留めるだけじゃなく、魔石だけを正確に残して消えるんだからな」
「……そうなんです。ワサビ君の舌はただ速いだけじゃなくて、標的を逃さない吸着力と筋力が完璧なバランスで構成されていて……」
家族を褒められた瞬間、カケルのスイッチが入った。カメレオンの皮膚の質感から、獲物を捉える際の眼球の動き、指先の愛らしさに至るまで、淀みない熱弁が溢れ出す。
「お、おい、カケル……わかった、もう十分だ!」
男は苦笑しながら手を振った。
「まあ、それだけ大事にしてるってことだよな」
「……すみません、つい」
カケルがワサビ君の顎の下をそっと撫でると、彼は表情こそ変えないが、静かに目を閉じて指に身を預けた。
ロビーの空気は、以前よりもずっと穏やかなものに変わっていた。
「カケルさん、お疲れ様です。精算の準備が整いました」
カウンターの奥からミラが声をかける。カケルはベンチを立ち、受付へと向かった。
「ありがとうございます」
ミラが差し出した革袋には、今日の成果と、Dランク昇格に伴い一括払い戻しされた預け金が合わさり、ずっしりとした重みがあった。
「これだけあれば、装備も新調できそうですね。今の家をさらに住みやすく改築されるんですか?」
「いえ、今の拠点はあくまで仮住まいですから。これは将来、あの子たちが全員揃った時に、誰にも邪魔されずみんなでのびのび暮らせる広い土地と家を買うための資金にするつもりです」
「……本当に、将来の家族のことばかりですね」
ミラは呆れたように笑いながらも、カケルの徹底した姿勢に感心したように目を細めた。
カケルは革袋をしっかりとカバンに仕舞い、軽く会釈をしてギルドを後にした。
(今の家も悪くないけど、あの子たち全員が揃うにはまだ狭い。理想の『聖域』を建てるためには、今は一銭も無駄にはできないな)
懐の召喚プレートに触れ、レベル7で次に解放される枠には一体誰が待っているのかと、まだ見ぬ家族との再会に想いを馳せる。
「よし、明日も頑張ろうな、ワサビ君」
カケルの呼びかけに、ワサビ君はゆっくりと一度だけ瞬きをして応えた。
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