第111話 襲撃された村
朝の借家に、騎士隊からの伝言が届いた。短い文だった。
【報告がある。騎士隊に来てほしい。】
読み終えたカケルは、紙を持ったまま少しだけ眉を寄せた。
それ以上は書かれていない。けれど、わざわざ騎士隊へ呼ぶ以上、軽い話ではないのだろう。
カケルは紙を畳んだ。
「行こうか」
「ええ」
二人は借家を出た。歩きながら交わす言葉は少ない。
騎士隊の詰所へ入ると、通されたのは隊長室だった。机の向こうにはエアリスがいる。もう包帯は外れている。顔色もいつも通りで、腕の動きにも不自然さはない。
カケルはそれを見て、わずかに肩の力を抜いた。
「もう大丈夫そうですね」
「うん。さすがに、いつまでも寝かされてはいられないからね」
エアリスはそう言ってから、少しだけ表情を引き締めた。
「急に呼び出してすまないな」
「いえ」
カケルが答えると、エアリスは机の上に置かれた紙へ視線を落とした。
「呼んだのは、例の謎の陣関連で別領で起きた件を伝えておきたかったからだよ」
リアナの表情が引き締まる。
「……何かあったのね」
エアリスは頷いた。
「小さな農村が滅ぼされた」
その一言で、部屋の空気が重く変わる。カケルは黙って続きを待つ。
「発見された時には、もう終わったあとだった。村人は全員殺されていて、広場には例の陣が描かれていたらしい」
エアリスの声は淡々としていた。だからこそ、余計に冷たく響く。
「……陣」
リアナが低く繰り返す。
「うん。それと、今までの陣と同様に、魔獣の死体が積まれていたそうだ」
カケルの喉が、わずかにつまる。現地を見たわけではない。見ていないのに、その言葉だけで嫌な光景が浮かんだ。
広場に描かれた陣。積み上げられた魔獣の死体。殺された村人たち。
カケルは知らず、指先に力を入れていた。
エアリスは紙の一枚に目を落とす。
「あの陣が関係している可能性が高いので、こちらにも報告がきた。ただ、村人も全員殺されてしまっていて目撃者もいないから、今のところ新しい手がかりはないに等しい」
けれど、こうして改めて聞かされると、胸の奥に沈むものがある。しかも、今回は多くの人が殺された。
エアリスが小さく息をつく。
「今回は事後報告だけだ。君たちを現地へ向かわせるつもりはないし、こちらもまだ動ける材料が足りない。ただ――」
そこで一度、言葉を切る。
「また起きた、ということは知っておいてほしかった」
カケルはゆっくり頷いた。
「……はい」
リアナも短く頷く。
騎士隊の詰所を出たあとも、二人はしばらく黙って歩いた。先に口を開いたのはリアナだった。
「やっぱり……終わってなかったのね」
カケルは前を向いたまま答える。
「うん」
短い返事だった。
それ以上、何を言えばいいのか分からなかった。
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