第99話 噛み合わせる
翌朝、カケルとリアナが森の入口へ着くと、アルシュタイン騎士団はすでに動き始めていた。前日に参加していた騎士たちが、今日新たに加わった者たちへ位置取りを説明している。
ハルトは腕に止まったスカイホークを軽く上げた。
「高く回れば前方です。右へ流れれば右前方、左なら左前方です。そこから先は地上で位置を確認します」
近くにいた斥候役の騎士が頷く。
「合図が出た方向へ入って、位置を見ます」
少し離れたところでは、ベッカーがブラックボアの首筋を叩いていた。
「昨日みたいに先に突っ込むなよ。合図のあとだ」
ユリウスも、傍らのグレイウルフに手を置いたまま言う。
「追いすぎるな。自分の位置を空けるな」
どの声にも無駄がない。
グランツがこちらへ歩いてきた。
「おはようございます、カケル殿」
「おはようございます」
グランツは一礼し、それから全体へ向き直る。
「本日は人数を増やす。まず第一層で昨日の形を確認する。そのあと第二層入口まで入る」
短く言い切ってから、さらに続けた。
「昨日より危険だ。気を引き締めろ」
「はっ」
騎士たちの返事が揃う。グランツは再びカケルを見た。
「準備はできております」
「はい。じゃあ、まずは第一層で少しだけ確認しましょう」
前日より人数は増えている。だが散らばりすぎず、まとまって進んでいた。前日に見た形を、そのまま広げているのが見て取れる。
第一層に入ってほどなく、ハルトのスカイホークが高く上がった。ハルトがすぐに声を上げる。
「前方です!」
それを聞いた斥候役の騎士が前へ出る。
「右寄りです!」
グランツが短く命じた。
「止める位置を先に取れ。押すのはそのあとだ」
召喚士でない騎士たちも左右へ散り、持ち場につく。ブラックボアが前へ出る前に、槍持ちの騎士たちが半歩先に位置を取った。
飛び出してきたのはホーンラビットの群れだった。昨日より人が増えたぶん、わずかに動きはぎこちなさがあったが、崩れることはない。
ベッカーが押し込みすぎる前にグランツの声が飛ぶ。
「まだだ」
ブラックボアがそこで止まる。
その間に右が塞がり、左へ流れた一体をグレイウルフが追いすぎずに押さえた。止まった個体へ、後ろからシャドウリンクスが飛び込む。
カケルはその流れを見て、小さく頷く。
「今の位置で大丈夫です。押す前に止められていると思います」
グランツが短く返す。
「続けるぞ」
もう一度。今度も大きくは乱れなかった。
確認を終えると、グランツが森の奥へ顎を引いた。
「第二層入口まで入る」
第二層は木々の間隔が少し詰まり、見通しも悪くなる。足元の土も重い。第一層より空気が張っていた。
しばらく進んだところで、スカイホークが木々の上で大きく旋回した。
ハルトが即座に声を張る。
「前方、二手です!」
斥候役の騎士が二人、すぐ前へ出る。一人が低く言った。
「右に二体!」
もう一人が続ける。
「左に三体です!」
グランツが命じる。
「ハルト、高度を上げろ。斥候はそのまま位置を見ろ」
「はい!」
スカイホークがさらに高く上がる。斥候が左右へ散る。全員の足が止まり、前方を見る。
さらに少し進んで、前方の草の切れ目から黒茶色の甲殻が覗いた。尾を高く上げた魔獣が、地面すれすれを這うように動いている。
斥候の一人が息を詰めた。
「マッドスコーピオンです!」
グランツの声が鋭く飛ぶ。
「毒持ちだ! 気をつけろ!」
騎士たちの空気が一気に締まった。
「ダリオ、前だ! 尾を振らせるな! 槍持ちは距離を取れ! マルクは正面から行くな!」
「はっ!」
アイアンライノーを伴ったダリオが前へ出る。槍持ちの騎士たちも横へ開き、尾の届く距離を避けながら構えた。
ブラックボアはその半歩後ろで待つ。グレイウルフが右へ回る。シャドウリンクスは低く姿勢を落として機をうかがう。
マッドスコーピオンは速かった。二つ、三つに分かれ、地を這うように散る。
グランツが命じる。
「ダリオ、前に出ろ! ベッカーは待て!」
アイアンライノーが前へ出る。ブラックボアはその半歩後ろで構えた。
だが、最初の当たりは少し乱れた。
右へ流れた二体を止める前に、左の一体が前へ出たのだ。ダリオが受けたことで正面は保ったが、右の二体に気を取られたぶん、左の一体への反応が遅れた。
シャドウリンクスが踏み込む。だが毒尾が先に上がる。グランツが即座に切った。
「引け! 追うな!」
騎士たちが止まり、距離を取る。毒持ち相手に深入りしない判断は早かった。
カケルは散った位置を見て口を開く。
「今のだと、右を見る人と仕留める人が同じところを見てました。止める位置をもう少し分けたほうがよさそうです」
ベッカーが息を吐く。
「俺が押す前に、右を止めたほうがよかったな」
ダリオがアイアンライノーの首を叩く。
「正面は俺が受ける。そっちは先に止めてくれ」
斥候役の騎士がすぐ言った。
「毒尾を上げたやつがいたら知らせます」
グランツが全員を見回した。
「ダリオが前だ。右を先に止めろ。ベッカーは押しすぎるな。マルクは止まったやつだけを見ろ」
「はっ」
ハルトがスカイホークを上げる。
「前方、まだいます!」
「行け!」
グランツの声と同時に、騎士たちが動いた。
今度は先に右を止める。
ユリウスのグレイウルフが右へ回り、その横に非召喚士の騎士が槍を構える。真正面ではダリオのアイアンライノーが先に前へ出て、毒尾を持つ一体に重く当たった。
尾が振られる前に体勢を崩し、動きを止める。ブラックボアはそこで初めて押し込んだ。
「右、止まりました!」
斥候の声が飛ぶ。グランツが即座に命じる。
「マルク!」
「はい!」
シャドウリンクスが低く飛び込み、止まった一体を仕留める。
もう一体が左へ散ろうとしたが、今度は左にもあらかじめ騎士が入っている。進路を切られたマッドスコーピオンが止まり、その一瞬をブラックボアが押した。
カケルはその流れを見ながら、小さく頷く。
「今の形なら崩れませんね」
五体目が止められたところで、グランツの命令が飛ぶ。
「マルク!」
「はい!」
シャドウリンクスが飛び込み、最後の一体を仕留めた。第二層入口に静けさが戻る。
グランツがゆっくり息を吐く。
「使えます」
それだけ言ってから、カケルへ向き直った。
「この形で続けます。次は人数をさらに増やします」
「はい」
カケルが頷くと、グランツはすぐ騎士たちへ向き直る。
「今日の形を覚えろ。前日組は後発へ教えろ。ここで終わらせるな」
「はっ!」
そうして、二日目の訓練は終了した。
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