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REPAIR  作者: 明星
残党
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第11話

元は普通のオフィスビルであったが、しかしその内部は不当に住み着いた者たちにより迷宮のように入り組んだ作りへと変貌していた。

その四号塔の階段を、片桐は音もなく上っていく。

下層階で蠢く不法占拠者たちのざわめきや生活音は次第に遠ざかり、上へ行くほどに静けさが増していった。

ここに来るまでカビと鉄錆、それに正体不明の腐臭が鼻をついてきたが、不思議と上層階へ向かうにつれて、それらは幾分か和らいできていた。

高く積み上げられたゴミの山や、壁面から剥き出しになった配管を避けながら、片桐は気配を完全に周囲の闇へと溶け込ませていた。

やがて到達した最上階。

かつて中規模のオフィスだったと思われる広いフロアは、無残に荒れ果てていた。

ひしゃげたパーティション、腐り落ちた天井材、無数の配線が床に散乱している。

それらは周囲の違法建築の隙間から差し込む日の光によってわずかに照らされていたが、フロアの大半は深い暗闇に沈んでいた。

その最奥、バッテリー式のランタンが放つ頼りない光の下に、八人の男たちが円座になって身を寄せ合っていた。

酒瓶や残飯が散らかる中、彼らの腕や首元には教団のローブの切れ端が巻かれている。

だが、彼らの顔に信仰心や殉教の覚悟などは微塵もない。

かつて教団の威光を笠に着て、儀式という名目で金を巻き上げていた不良信者の類だ。

自分の所属していた一派が崩壊させられた今もその残骸にすがりつき、原因となった遠野真白を恨むことだけが生きる意味となっている。

片桐は瓦礫の影を縫ってフロアへ侵入し、最も太いコンクリート柱の裏側に身を隠した。

「……少し話をしないか」

静かで、ひどく冷たい声が埃っぽい空気の中に響いた。

「誰だ!」

男たちが弾かれたように立ち上がり、不慣れな手つきで懐から何かを取り出した。

直後、ガチャついた金属音が、いくつも重なった。

(……少し厄介だな)

武装していることは予想していたが、それが拳銃となると簡単な話ではなくなる。

男たちが声のした柱へと一斉に銃口を向ける。

だが、次に片桐の声が響いたのは、彼らの予想に反して十メートル以上離れた別の瓦礫の陰からだった。

「これ以上、遠野真白に関わるな」

どよめきが走った。

残党どもにとっては漏れていないはずの情報だったからだ。

「おまえ、それをどこで……!」

「そっちだ!」

三人が声のした方向へ銃口を振り向ける。

だが、そこにも既に誰もいない。

男たちの心臓の鼓動が、静まり返ったフロアに嫌なリズムで響き始めた。

自分が対峙している存在の正体が分からない。

その不気味さと不安が、戦いの素人集団の精神を急速に削り取っていく。

「ど、どこにいった!」

「こっちは銃を持ってるんだぞ!」

「馬鹿野郎!バラすんじゃねぇ!」

パニックになっている男たちは放っておいても勝手に情報をくれる。

しかし。

(……そんなことはもう知ってるよ)

片桐は常に移動しながら、慌てふためく男たちを様々な場所から観察していた。

「おとなしく引くつもりがないのなら……」

三度目の声は、男たちの真横にある暗がりから這い出てきた。

「全員、殺す」

その言葉が、男たちの恐怖を限界まで引き上げた。

一人の男が、叫んだ。

それに続いて声の聞こえた暗闇に向けて一斉に引き金が引かれた。

「ふざけやがって! そこにいるぞ、撃てぇッ!」

八人の男たちが次々と闇雲に発砲を始め、鼓膜を劈くような乾いた銃声がフロアに反響し、マズルフラッシュが暗闇を一瞬だけ白く照らし出す。

だが、片桐はすでにその閃光の死角へと入り込んでいた。

素人が恐怖に駆られて撃つ弾など、暗闇の中では当たるはずもない。

片桐は全く違う方向から攻撃を開始した。

身を低くし、瓦礫から瓦礫へと滑るように移動する。

最も手前にいる、暗闇に向かって引き金を引き絞っていた男の背後に音もなく立ち上がり、首に腕を回し、慣れた手つきで頸椎を捻り折った。

ゴキッ、という鈍い音が銃声にかき消され、一人目が崩れ落ちた。

「くそ!どこへいった……ヒッ!」

後ろの異変に気づき、二人目の男が振り向いた。

片桐はその男が銃口を向けるよりも早く踏み込み、下段から膝の関節を無慈悲に蹴り砕いた。

男が苦痛に顔を歪めて崩れ落ちたところへ、延髄に手刀を叩き込んで意識を奪う。

「おいおいおい、嘘だろぉ!」

腰を抜かした男がパーティションの裏に隠れ、震える手で銃を乱射し始めた。

弾丸がコンクリートを削り、火花が散る。

男はもう片方の手で携帯端末を耳に押し当て、涙声で叫んでいた。

「早く戻ってきてくれ! 変なヤツが来やがった!」

片桐は瓦礫の陰で銃弾をやり過ごし、滑るようにパーティションの横へ回り込むと、横合いから男の手首を蹴り上げて銃を弾き飛ばした。

そのまま足を引っ掛けて男を転倒させ、靴の底で顔面を踏み抜く。

そして、手から離れて床に転がった携帯端末も、踵で容赦なく踏み砕いた。

(……誰に電話をしていた)

逡巡の後、パーティションを引き裂く弾丸の雨が降る。

片桐は前方へ飛び込み、転がりながら再び瓦礫の陰へと身を隠した。

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