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REPAIR  作者: 明星
巫女
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第7話

翌朝。

片桐はガレージの作業机で、完全に組み直したアンティーク時計のゼンマイを静かに巻き上げていた。

微かな機械音とともに、新しい機械油の匂いが冷えた空間にふわりと漂う。

「片桐さん、出かけるんですか」

背後から声がかかった。寝癖をつけたままの有坂が、あくびを噛み殺しながら居住スペースから顔を出した。

「ああ。少し野暮用と、納品だ」

片桐は時計を丁寧に布で包み、コートのポケットに滑り込ませた。

「昨日の夜に言った通り、シンと合流したら教団周辺の見張りを頼む。だが絶対に深入りはするなよ。おかしな動きをしているかどうかが分かればいい」

「ええ、任せてください」

有坂は真剣な顔つきで頷いた。

片桐はその実直すぎる目に一抹の不安を覚えつつも、短く息を吐いて扉を開けた。

外には、ゲートタウン特有の刺すような冷たい朝の空気が満ちていた。


向かったのは廃ビルの三階。

ゴミの溢れる階段を上り、何の看板も出ていない鉄扉を開けると、カラン、と乾いたベルの音が鳴った。

電子部品や古道具が乱雑に積み上げられた薄暗い店内。

カウンターの奥には片眼が義眼の老人が座っていたが、片桐の視線は、その手前にある粗末な丸椅子に腰掛けた男に向けられた。

ヨレヨレのトレンチコートを着崩した国籍不明の男――裏社会の『記録の葬儀屋』、ジョン・ドウだ。

彼は手元のタブレット端末に視線を落とし、貼り付けたような薄い笑みを浮かべていた。

「おや」

ベルの音に顔を上げたジョン・ドウが、タブレットからゆっくりと視線を外す。

「奇遇だね、ミスター・カタギリ。ちょうどこれから、君のガレージに行こうと思っていたところだよ」

「俺のところに? 珍しいな」

片桐はジョン・ドウの言葉を軽く受け止め、カウンターへと進み出た。

「頼まれていた品だ。精度に問題はないはずだ」

片桐が布包みを解き、修理を終えた時計をガラスケースの上に置く。

老人は無言でそれを手に取り、短く鼻を鳴らした。

「……相変わらずいい腕してやがる」

老人は金庫を開け、無造作に札束を掴むとカウンターに置いた。

片桐はそれを数えもせずにコートのポケットに滑り込ませる。

「で? 俺に何の用だ」

片桐が振り返ると、ジョン・ドウは立ち上がり、懐から銀色のスキットルを取り出して口をつけた。

「仕事の依頼だよ。シンネンになってから、トウカツに向かったスクレイパーが何人か姿を消しているそうでね。現場で彼らの痕跡を探し、アワヨクバ、と言えばいいのかな。免許証(ID)を回収してきてほしいんだ」

「死んだとは限らないんじゃないか?」

アビスの領域、そしてこのゲートタウン。

入るのは自由であり、また出ていくのも自由だ。

「イジワルだね」

片桐の言葉にジョン・ドウは薄く笑う。

「この街で上手く生きていけるようなヤツが、外に出たがるはずがない」

「だがもし死んでいたとしても、珍しい話じゃないだろ?」

片桐は短く切り捨てた。

「以前も、若いスクレイパーの免許証をあんたのところに届けたばかりだ。この街じゃ、欲張った連中がアビスでくたばるのは日常茶飯事だ」

「ああ、悲しいねえ。若者が数字(借金)に押しつぶされて死んでいくのは、いつだって胸が痛むよ」

ジョン・ドウは悲痛な顔を作ってみせたが、その目はまったく笑っていなかった。

「だが、今回は少し事情が違うんだ」

「違う?」

「消え方に、イワカンを覚えるんだ。オトツイも五人のパーティが等活へ向かい、そのままショウソクを絶った。彼らはトウカツの歩き方を熟知し、決して無茶はしないレンチュウなのに、だ。それが、誰一人として戻らないどころか、オウエンを呼ぶ通信一つ残さずに消えた」

片桐は、わずかに目を細める。

等活はアビスの表層だ。

等活での活動に問題のない実力を持ったパーティならば、誰か一人が囮になって逃げるなり、死の間際まで通信機に向かって叫ぶなりの痕跡を残すはずだ。

だが、それすら残さずに全滅するなど、通常のアビスの魔物相手では考えにくい。

片桐の脳裏に、以前スパインタワーの酒場で酔っ払いのスクレイパーが吹聴していた噂話が蘇った。

『アビスストーンの急な出現』

もしあの与太話が単なる噂ではなく、等活で何らかの『異常』が起きているのだとすれば。

等活での活動に慣れている者が逃げる間もなくやられ、通信をすることもできないほど超微細粒子ノイズが濃くなる要因があったのだとすれば、今のうちに等活の様子を探っておいた方がいいのかもしれない。

「……今日一日は時間が空いている。それに、ちょうど金も必要だったところだ。その依頼、受けるよ」

片桐は低く応じた。

「しかし、あんたも酔狂な人だ。こんなことに自分の金を払うなんてな」

「僕はね、ミスター・カタギリ。カネなら文字通り、腐るほど持っているんだよ」

ジョン・ドウは肩をすくめて苦笑した。

その笑顔は過去の自分へと向けられたものだった。

「それに、君ならついでに『別の何か』を見つけてきてくれそうな気がしてね。期待しているよ、調律者コントローラー

片桐は嫌そうな顔で答える。

「昔の話だ」

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