表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

その2

「川田さん、あんたの本当の強さがみたい」

 数えでわずかに二つの差だったが、吉村は敬語を使った。剣の遠慮のなさとは対照的だった。もっとも、発言には遠慮はない。例によって、川田の部屋へ上がりこんで酒を飲んでる最中である。吉村の額にでかでかと貼られた湿布、先週の私的試合で川田に打ち込まれた痕がまだ癒え切っていない、そんな折である。本当の強さ。その言葉の意味するところは互いに言わずもがなである。脳裏に、触れるだけで切れそうな、真剣の白刃が浮かぶ。

 川田は黙っている。二人はいつしか一つの狂気に捕らわれつつあって、互いにそれに気づきながら、消して口に出来ない不文律が出来つつあった。吉村が崩したのは若さ故か、あるいは

「出会ったときから、決まっていたのかもしれませんな」

 変わらず静かな口調の中には、既に川田の覚悟が宿っていた。斬りたい。邪念を払おうと修練を積んでも、滝を浴び座禅を組んでも、消せない情熱、いや情念。剣は斬る事と同義である、少なくとも二人にとっては、どうしても、避けられ得ぬ道に感じていた。

「余程に業が深いのかもしれませんね」

 二人は笑った。自嘲気味な、しかし、喜悦を多分に含んで笑った。

 孤独に剣に生きた半生に、ようやく見出した友が、刃交える相手となる。業と言わずになんと言おう。血判を添えた覚書には、禍根なきようしたためられた遺書が添えられた。何度も打ち合った仲であれば、命を落とす試合になる事は明白だった。世間では試合とは呼ばないだろう、血と剣の魔力に魅せられた、殺し合いだ。その夜、吉村は泣いた。剣に生きた自らの最上の望みが叶う事、そして最後の夜になるやもしれない事を泣いた。それは恐怖であった。それは愉悦であった。狂喜ですらあった。そして悲しみでもあった。


(つづく)

【鍛練】

 鍛えぬいた技を技術を能力を、発揮する場がないとしたらどうであろう。仕事であれば結果を出せる。スポーツであれば記録に残る。「己の鬼をこそ斬り捨てよ」師匠の言葉は主人公・吉村の髄まで響く。しかし斬れない。ふり続ける剣はなんのためか。吉村には、自身の中の鬼が見える。その存在、その力を感じる。我々人間は、それぞれに鬼を飼っている。それは狂気か。それは執念か。執着か。我々は斬らねばならぬ鬼を持つ。


【告知】

ネットショップ「らすた」にて作品連載中。

この作品は、「らすた」より配信されているメルマガにて連載された作品です。

最新作、及び日々のコラムをご覧になりたい方は、ぜひ「らすた」を訪れてください!


↓検索キーワード「ビッダーズ らすた」

http://www.bidders.co.jp/user/2573628

↓ブログ書いてます。

http://blogs.yahoo.co.jp/kato_in_the_sky



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ