交錯する影
「ミホ、大丈夫?」
サクラがしゃがみ込み、ミホの腕をそっと支える。
「……うん。ありがとう、サクラちゃん……」
ミホは力なく微笑んだが、その目には恐怖の残滓が揺れている。隣で石田リョウタも安堵の息を吐いた。
「助かった……ほんとに……」
先ほどまで彼らを拘束していた敵――リディアとラヴィニアは、どちらも戦闘不能。荒れ果てた教室に沈黙が戻っていた。サクラは、リディアが倒れている姿を一瞥する。
彼女は、ただの敵だった。
それ以上でも以下でもないはずなのに――。
(……あんな表情、するんだ)
サクラの脳裏には、リディアが“岐路”に囚われた際の、一瞬見せた少女のような悲痛な顔が焼き付いていた。
だが、今は感傷に浸っている時間はない。
「みんな、無事でよかった」
ルナが控えめに微笑む。その顔にも疲労がにじんでいる。
「じゃあ、ここからどうする?」
キョウゴが拳を握り直しながら問いかける。カイが辺りを見回し、ふと顔を上げた。
「……ところでさ、マヒロはどうするよ?」
全員の視線が揃う。
「とにかく、一度戻ろう」
サクラの提案に、全員が頷いた。
彼らは慎重に進みながら、途中で戦闘で荒れた廊下を横目に通り過ぎ、マヒロが横たわっていたはずの場所に向かった。
だが――。
「……いない」
そこに、淡海マヒロの姿はなかった。冷や汗が、誰しもの背筋を伝う。
「おい、本当にここにいたのかよ……」
キョウゴが苛立たしげに周囲を見渡す。
カイも呼びかける。
「マヒロ!どこだ!」
返事はない。
代わりに、ひどく嫌な静寂が場を支配していた。
「……淡海さん……」
ルナが心配そうに名を呟く。
その瞬間――。
バキィン!!
遠くでガラスの割れる音が響いた。
◇◆◇◆◇
その頃――。
床に叩きつけられた衝撃で、肺の奥から鈍い息が漏れた。脇腹に鈍い痛みを抱えながら、マヒロはゆっくりと顔を上げる。
(ここは……?)
視界がぼやけている。四方は暗く、現実感が薄い。
――意識の底に沈められたような空間。
周囲を見渡しても、自分以外の人間は見当たらない。
いや――一人。
すぐ正面、ただ一人。
「目が覚めたか」
低く、冷徹な声。
視線を合わせた瞬間、マヒロは本能的に悟った。
(……やべえ。こいつ、強い)
男は端正な顔立ちをしていた。
無駄なく整えられた髪、きっちりと着込んだシャツにジャケット。どこかのエリート社員と言われても違和感はない。だが、その整った外見以上に、異質なのは――その空気。
隙が一切ない。
武器を持たずとも、彼自身が“武器”であると告げているようだった。
「誰だ……?」
マヒロは警戒しながら問う。
男は微かに目を細めた。
「アレクだ」
シンプルな名乗り。
それ以上でも、それ以下でもない。
「……お前もタイタニアか」
「そういうことだ」
「お前も、あのイザヤの仲間か?」
「さて」
はぐらかすような言い方。マヒロは無意識に拳を握りしめていた。こんなにも静かなのに、殺気が全身に刺さってくる。
「何が目的だ」
マヒロが絞り出すように問うと、アレクは微かに笑った。
「我々の目的か」
「……ああ」
「――いいだろう。多少の問答には応えてやる。お前たちの仲間だ。芹沢サクラ、と言ったか」
「サクラ……?」
突然出てきた名前に、マヒロは思わず聞き返した。
「彼女には、特別な価値がある」
「……どういうことだ?」
「お前は知らないか」
アレクは少し意外そうに眉を上げた。
「まぁいい。我々はあの力を手に入れる。お前たちはただの障害だ」
「ふざけんなよ」
マヒロはアレクを睨みつける。
「サクラをどうするつもりだ」
「そこまで答える義務はない」
アレクは冷たく突き放す。
「だが――一つ忠告しておく」
静かに、だが突き刺さるような声。
「“力”を持つ者は、いずれ選ばされる。守るべきものと、切り捨てるもの。お前も、いずれその時が来る」
「……っ!」
「その時、お前はどうする」
アレクの言葉が、胸に突き刺さる。
――マヒロは、かつて矢口を骨折させた時のことを思い出していた。
力があるからこそ、守れるものがある。
けれど、力があるからこそ――壊してしまうものもある。
「……そんなもん、まだ分かんねぇよ」
「そうか」
アレクは一歩、マヒロに近づいた。
「なら、いずれ知る時が来る。これはお前への“試金石”だ」
「試金石?」
「お前が“それ”に足る器か――確かめさせてもらう」
言い終えた瞬間。
ズズズッ……
マヒロの足元に黒い靄が広がった。
「っ!」
マヒロは空間掌握を発動しようとしたが――。
「無駄だ」
アレクが一言告げる。
その瞬間、靄がマヒロを包み込む。
体が沈む感覚――。
「――次に会う時が、本番だ」
最後に聞こえたアレクの声は、氷のように冷たかった。
みなさん、こんにちは!いつも読んでいただきありがとうございます!
こうして皆さんに物語をお届けできるのは、本当に幸せなことだと感じています。感謝の気持ちでいっぱいです!
この物語は定期的に更新を目指しており、皆さんと一緒に成長していきたいと考えています。少しでも続きが気になるような展開をお届けできたら嬉しいです!
ちなみに、途中で「あれ?前に読んだ内容がちょっと変わってる?」と感じることがあるかもしれません。それは物語の本筋を変えない範囲で、文章や展開をブラッシュアップしているからです。より楽しんでいただけるよう、細かい部分をちょこちょこ改稿するのが作者の趣味なんです(笑)。
そして最後に……
いいねやコメント、本当に励みになります!
いただけると「次の更新もがんばるぞー!」ってやる気がグンとアップします。どんな感想でもいいので、気軽にひとことでも残してもらえると嬉しいです!
それでは、今日も物語の世界へどうぞ!
お楽しみいただけますように!




