選択の狭間
「――能力、岐路、発動。」
サクラがそう呟いた瞬間、リディアの足元に白い光が円を描いた。
(――なに?)
一瞬、困惑がリディアの表情をかすめる。
次に目を開けた時には、既に“そこ”にいた。
◇◆◇◆◇
石造りの床。
月光に照らされた、無機質で冷たい古城の回廊。
どこまでも広がる夜空。
「……なに、ここ」
目を細めて辺りを見回す。
異質だ。現実世界ではない。
「これは……夢?」
違う。もっと鮮明だ。
心拍音が聞こえる。
足元の硬い感触、湿った空気。
すべてが、痛いほどリアル。
――精神に直接作用する“能力”。
リディアはすぐに理解した。
「ああ、あの娘の力か」
今、自分が対峙していた芹沢サクラ。
タイタニアが持つという特殊能力――タイタン。
サクラの力が、精神に干渉する類のものだということは知っていた。
「やはり……そういう系統か」
低く呟き、ゆっくり前に踏み出そうとした――その瞬間。
「さあ、選べ。」
不意に、無機質な声が響いた。
「……!」
ギクリと足を止める。
前方に“それ”はいた。
黒く塗り潰された棒人間。
顔もない。表情もない。
ただ、そこに“佇んでいる”。
背筋に冷たいものが走った。
「選択を。」
その瞬間、目の前に白いプレートが現れる。
◆選択肢A
『妹を見捨て、自分だけ逃げる』
◆選択肢B
『妹を助け、共に死ぬ』
◆選択肢C
『妹を犠牲にし、自分は力を得る』
「――っ!!」
リディアは目を見開いた。
喉の奥が、焼けるように熱い。
「……やめろ」
思わず声が漏れた。
見たくないはずの過去が、容赦なく心を抉る。
正解の選択肢なんてなかった。
どれを選んでも、地獄だった。
◆選択肢A
『妹を見捨て、自分だけ逃げる』
――そんなこと、できるはずがない。
◆選択肢B
『妹を助け、共に死ぬ』
――無意味だ。死んでどうなる。
◆選択肢C
『妹を犠牲にし、自分は力を得る』
――これが、現実だった。
「最低ね……!」
拳を握りしめる。
忘れたくても忘れられない。
あの日、選んだ“現実”。
◇◆◇◆◇
両親は消えた。
頼った教会は、孤児を装いながら“タイタニアの器”を育てる場所だった。
妹、エミリアは病弱だった。
タイタニアに目覚めることができなかった彼女は、ただの「道具」にされた。
教祖や信者たちの慰み者。
傷だらけで帰ってくる妹に、「お姉ちゃんは頑張ってるからね」と、無理して笑って見せるしかなかった。
――地獄だった。
ある日、教祖が告げた。
「お前の命を私たちに差し出せ。そうすれば、エミリア、お前の妹は救ってやる。」
戦争のための人間兵器タイタニアになる。
そうすれば大切なものが“救済”される。
けれどもし断れば、代わりに――妹はもっと酷い扱いを受ける。
「お姉ちゃん……助けて」
掠れた声。
伸ばされた細い指。
リディアは――その手を、取らなかった。
妹だけはこの世界に関わって欲しくなかったから。
――その日、リディアはタイタニアになった。
だが結局、妹は息絶えた。他の誰にも手を差し伸べられることもなく。
「そうしなければ、生き残れなかった……」
何度も、何度も、自分に言い聞かせた。
でも心の底では分かっていた。彼女を救うための行為だと思い込んでいたが、結局妹と向き合うことが怖かっただけだったのだと。
それでも。
「選択しなければならなかったのは……私だけだ……」
その後、完成した教会史上“最強のタイタニア”となったリディアは、教祖と信者たちを皆殺しにした。
“救済”を謳っていた連中を、救いのない闇に叩き落とした。
血と叫びが舞う祭壇で、リディアはただ立ち尽くしていた。
誰もいなくなった空間で、ふと後ろを振り向いた。
――そこには、妹の姿があった気がした。
笑っていた気がした。
――今度は、迎えに行くよ。
そう呟いて、消えた。
◇◆◇◆◇
「……くそ、くそっ……!」
リディアは額に手を当てる。
目の前には変わらず、棒人間の“ディーラー”。
黒く塗り潰された顔には、何も感情が読み取れない。
「選べ。」
「っ……!」
歯を食いしばる。
“またこの選択肢か”と喉まで出かかったが、違う。
――これは、初めてのことだ。
芹沢サクラの力。
この能力の真髄の理解にはまだ及ばない。
(……違う、これは……)
わかっている。
すべては“私自身の問題”なのだと。
あの時から、私は一歩も進めていない。
――過去に囚われ続ける、弱い私。
「……選択肢なんて、ない」
握りしめた拳から血が滲む。
「全部、クソみたいな答えしかないんだよ」
声が震える。
「だから……」
――私は、何も選ばない。
棒人間が微かに動いた。
「不適切。」
その瞬間。
ディーラーの体が、ズズッと黒い影に変わり、巨大な野獣の姿に変貌する。
「っ……!」
喉が詰まる。
息ができない。
足がすくむ。
体が硬直する。
(来る――!)
巨大に膨張した影がリディアを包む。
「……っ、やめ――」
牙が迫る。
視界が黒く染まった。
「――ッ!!」
現実に戻った時、リディアは崩れるように倒れ込んだ。
地に伏し、白目を剥き、泡を吹いている。
「リディア!!」
サクラが思わず叫ぶ。
だが、リディアは反応しない。
呼吸は浅く、意識が飛んでいる。
「……成功したの?」
ルナが隣で息を整えながら、サクラに問いかける。
サクラは額の汗を拭いながら、僅かに頷いた。
「……うん。終わった……。」
サクラの能力――『岐路の選択』が、リディアの心を打ち砕いた瞬間だった。
(終わった……のかな)
サクラはそう思いつつも、胸の奥で何かが引っかかる。
それが何なのかは、まだわからなかった。
――そうして戦いは、終わった。
みなさん、こんにちは!いつも読んでいただきありがとうございます!
こうして皆さんに物語をお届けできるのは、本当に幸せなことだと感じています。感謝の気持ちでいっぱいです!
この物語は定期的に更新を目指しており、皆さんと一緒に成長していきたいと考えています。少しでも続きが気になるような展開をお届けできたら嬉しいです!
ちなみに、途中で「あれ?前に読んだ内容がちょっと変わってる?」と感じることがあるかもしれません。それは物語の本筋を変えない範囲で、文章や展開をブラッシュアップしているからです。より楽しんでいただけるよう、細かい部分をちょこちょこ改稿するのが作者の趣味なんです(笑)。
そして最後に……
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それでは、今日も物語の世界へどうぞ!
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