表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が強すぎて人生ハードモード  作者: 雨宮悠理
Phase3 動乱の学園
PR
38/76

異変の始まり

 淡海マヒロは頬杖をつきながらぼんやりと黒板を眺めていた。夏の日差しはガラス越しにじんわりと熱を伝えてくる。マヒロの頭の中は昨日の夜に出会ったあの男の言葉に支配されていた。


(思い知るって……何だったんだよ)


 謎の男のマスク越しの声が頭の中で反響する。すれ違いざまに投げかけられた言葉。あの意味深な口調。それに続くトラックの通過音と、気づいた時には見失っていた不気味な背中。


(嫌な感じがする……)


 無意識に眉をしかめ、手元に置いたシャーペンを軽く転がす。昨夜の出来事が何でもないならそれでいい――そう自分に言い聞かせるが、胸の奥に生じた不快な違和感はどうしても消えなかった。


 教室の中は相変わらず賑やかだった。前方のグループがスマホを回し見ながら笑い合っている。後方では、誰かが小声で雑誌を隠して読んでいるのが見えた。窓際のマヒロの席からは、その喧噪の全てがどこか遠く感じられた。耳には入るが、体の外側を流れていくような感覚。


「――マヒロ。おーい、聞いてる?」


 後ろの席に座る男子が話しかけてきたが、マヒロは気づかなかった。


「おいってば!」


「……え?」


 ようやく反応したマヒロが振り返ると、男子が苦笑しながらこちらをみていた。


「なに、ぼーっとしてんの。大丈夫か?」


「ああ、悪い」


 マヒロは軽く頭を振って気を取り直した。教科書を机の上に出しながらも、まだ頭の片隅にあの言葉がこびりついている。


「大丈夫ですか?淡海さん」


 気付けば隣に座るルナも心配そうな目でこちらを見つめていた。


「ああ、昨日からちょっと考え事をしてて」


「そうなんですね。実は私もちょっと気になることがあります。あ、杞憂かもしれないので、気にしないでくださいね」


 そういってルナは黒板に向き直る。

 自分だけではなく彼女にも、どこか思うところがあるのだろうか。


 しかし、しばらくして――ふと教室の雰囲気が変わったのに気づいた。


(……ん?)


 いつもの賑やかな教室が、妙に静かになり始めている。誰かが不意に口を閉じ、その空気がじわじわと広がっていくように感じられた。周りを見回すと、クラスメイトたちが時計を見たり、隣の席の友人と小声で話している。


「先生、遅くない?」


「次、数学だろ。あの小宮が来ないのは珍しいな。何かあったのかな」


「いや、いつも遅刻なんかしない人じゃん」


 ひそひそ声があちこちから漏れ聞こえてくる。時間はすでに授業開始のベルを数分過ぎていた。いつもなら既に教壇に立っているはずの数学教師が、まだ姿を見せない。


(あの先生が遅れるなんて……珍しいな)


 マヒロは机に肘をつきながら、黒板をぼんやりと眺めた。周りのざわめきが少しずつ広がり、全員が教室の後ろの扉に視線を向けているのを感じる。その中で、マヒロの胸の中に微かな違和感が生じ始めていた。


 何かがズレている。普段と同じ日常が、ほんの少しだけ歪んでいるような――そんな気がした。


◇◆◇◆◇


 しばらく待っても教室に教師が来る気配はない。生徒たちは最初は冗談を言い合っていたが、次第に不安げな表情を浮かべ始めた。


「誰か職員室に行って確認してきた方がいいんじゃない?」


「でも、だれも代行の先生が来ないなんて普通ありえなくない?」


 そんな声があちこちから上がる。


 マヒロは机に肘をつきながら小さく息をついた。


(……なんだ、この胸騒ぎは)


 その時、ふと窓に目をやった。青空が広がるはずの窓の外が、どこか薄暗くなっている。いや、それだけではない。まるで重い霧が立ち込めているような、異様な雰囲気が漂っていた。


 教室はざわつきから静寂へと変わっていった。時計の秒針が動く音すら聞こえるほど、張り詰めた空気が教室全体を覆う。窓から差し込む夏の陽光がひっそりと鳴りを顰め、何気なく見上げた蛍光灯の光が白く明滅しているのが気になった。


(……なんだ、この感じ)


 普段ならば気にも留めないような些細なことが、今はすべて異常に思える。机の上に置いた手を握りしめると、どこからともなくクラスメイトたちの息遣いが耳に響いてきた。ザッ……ザッ……とわずかな布擦れの音、席をずらす椅子の軋む音。


 その時、不意に背筋がぞわりとした。


(誰かに見られている――?)


 マヒロはその感覚に耐えられず、ゆっくりと顔を上げた。しかし、教室の中に異常はない。いつもと同じように、男子が机に頬を乗せてあくびをしているし、数人の女子は集まってスマホを覗き込んでいる。だが――どこかがおかしい。


(まるで、この空間そのものが狂っているみたいだ……)


 そんな思いが脳裏をよぎった瞬間、不意に頭上から声が降ってきた。


「……淡海君」


 ハッとして確認すると、そこにはクラスメイトの片上かたがみユリカが立っていた。


「……ん? どうした?」


 普段なら、彼女がこんな風に話しかけてくることはない。以前、マヒロが冷たくあしらったことがあるからだ。それなのに、今日は彼女の目が虚ろで、何かが決定的に違う。


「……」


 ユリカの唇がかすかに動いている。だが、何を言っているのか聞き取れない。その口元はわずかに笑みを浮かべているようにも見えたが、それは不気味な違和感を伴うものだった。


「おい……片上、どうしたんだよ」


 ユリカは何も言わず、ゆっくりと机に手をついた。そのままじりじりとマヒロに近づいてくる。その動きは不自然で、まるで糸で操られている人形のようだった。


「おい、冗談やめろって――」


 次の瞬間――


 ガシッ。


「……!」


 ユリカの手がマヒロの首を掴んだ。


「う、ぐっ……おい、何だよ……」


 マヒロの目の前で、ユリカが狂気に満ちた笑みを浮かべる。その瞳は焦点が合っておらず、明らかに正気ではない。


「ねえ、マヒロ君……面白いよね……すごく……すごく面白いよね……」


「おい……やめろ……」


 首を絞める力が次第に強くなり、息が詰まり始める。周囲のクラスメイトたちが何が起きているのかに気づき、悲鳴をあげた。


「片上! やめろ!」


 誰かが叫ぶ声が聞こえる。だが、ユリカは振り向きもしない。マヒロの苦しむ顔を見つめながら、声にならない笑いを続けている。


(……くそ、タイタンを使うしか……ないのか……?)


 視界が揺れ始め、マヒロは咄嗟に手を上げた。しかし、次の瞬間、別の声が教室中に響いた。


「止まって!」


 鋭い声と同時に、ユリカの手がマヒロの首からスッと離れる。


「……ぐっ!」


 マヒロは咳き込みながら、その場に倒れ込んだ。ユリカの手が離れた瞬間、酸素が肺に流れ込む感覚がする。それでも彼女の狂気に満ちた笑顔が、脳裏から離れない。


「何なんだ、これ……」


 周囲のクラスメイトたちはパニック状態だ。誰もが何が起きたのか理解できず、声を上げたり机を動かしたりと騒然としている。その中で、ユリカはふらりとその場に立ち尽くしていた。


「片上さん!」


 隣の席にいたルナが、立ち上がっている。その表情は困惑と焦りに満ちている。


「どうして……こんなことを……」


 ユリカに歩み寄るルナ。その言葉には明らかな悲しみが込められている。そして静かに手をかざした。


「……お願い、戻ってきて」


 次の瞬間、ルナの周囲に淡い光が広がった。それは空気を震わせるように教室全体を包み込み、異様な緊張感を溶かしていくようだった。その光はユリカの体を優しく包み込み、彼女の虚ろな目に一瞬だけ生気が宿る。


「……は……」


 ユリカは崩れるように膝をつき、目を閉じた。その身体がそのまま倒れそうになるところを、マヒロが咄嗟に腕を伸ばして受け止める。


「おい、片上、大丈夫か……」


 マヒロは彼女を優しく抱きしめながら、その顔を覗き込む。ユリカは目を閉じたままだが、その顔には先ほどの狂気が完全に消え去り、静かな眠りについたように見える。


「よかった……」


 安堵の息を漏らしながら、ルナは胸を撫で下ろす。その様子を周りで見ていたクラスメイトたちは、驚きと動揺を隠せない。


「……なんなんだよ、これ……」


「片上さん、どうしちゃったんだ……?」


「ていうか、いま月瀬さん、なんか光ってなかったか……?」


 教室全体が静まり返り、全員がルナとマヒロを注視していた。その空気を破ったのは――再び起きた混乱だった。


「お前、ふざけんなよ!」


 別の席から怒鳴り声が響いた。隣の席同士の男子生徒が立ち上がり、互いの胸ぐらを掴み合っている。


「おい、やめろって!」


 周りが止めに入ろうとするも、今度はその止めに入った生徒同士が言い合いを始める。さらには教室の後ろで女子生徒たちも口論を始めている。


「何これ……全員おかしくなってる!」


 誰かが叫んだその言葉がすべてを表していた。まるで教室全体が異常な何かに飲み込まれたような――そんな光景だった。


「淡海さん!」


 ユリカを抱えたままのマヒロの元にルナが駆け寄る。その目は険しく、今起きている事態を冷静に見極めようとしている。


「どうやら、これは……ただの偶然じゃない」


「だとしても……一体何が起きてるの」


 混乱と怒号の渦巻く教室。その中で、マヒロは立ち上がり、ルナとともに周囲を見渡した。状況は刻一刻と悪化しているようだった。


「多分これって普通じゃないよね。それも私達のタイタンに近いもの。私たちでなんとかしないと……」


 ルナのその言葉に、マヒロは静かに頷いた。


「やるしかねえか……」


 次の瞬間、教室の扉がバタンと音を立てて閉まった。誰かが閉めたのではなく――まるで何かに閉じられたかのように。


みなさん、こんにちは!いつも読んでいただきありがとうございます!


こうして皆さんに物語をお届けできるのは、本当に幸せなことだと感じています。感謝の気持ちでいっぱいです!

この物語は定期的に更新を目指しており、皆さんと一緒に成長していきたいと考えています。少しでも続きが気になるような展開をお届けできたら嬉しいです!


ちなみに、途中で「あれ?前に読んだ内容がちょっと変わってる?」と感じることがあるかもしれません。それは物語の本筋を変えない範囲で、文章や展開をブラッシュアップしているからです。より楽しんでいただけるよう、細かい部分をちょこちょこ改稿するのが作者の趣味なんです(笑)。


そして最後に……

いいねやコメント、本当に励みになります!

いただけると「次の更新もがんばるぞー!」ってやる気がグンとアップします。どんな感想でもいいので、気軽にひとことでも残してもらえると嬉しいです!


それでは、今日も物語の世界へどうぞ!

お楽しみいただけますように!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ