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俺が強すぎて人生ハードモード  作者: 雨宮悠理
Phase3 動乱の学園
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夏の夜の語らい

 ――夕暮れが夜に移ろう頃、淡海マヒロはクラスメイト数人とファミレスから出てきたところだった。放課後、そのまま帰宅しようと校外に出たところで、部活休みのクラスメイト達に捕まった形だった。


「マヒロ、お前さ、あのシュートとかマジでバケモンだよな!」


 向かいに立つクラスメイトが、やたらとテンション高めに声を上げた。肯定するように茶髪が「あのスリーだろ」と同調する。


「だってこいつコートの端から向かいのリングに片手で軽々投げるんだぜ。」


「いや、正直ここまでの奴らプロでも見たことないな。マヒロ、本格的にバスケやれよ」


「いや、やらねえよ。俺が出来たのボールを投げることだけじゃん」


「そりゃ確かにそうかもな」


 そういって藤沢カイはくくくっと笑う。マヒロの周りには、藤沢カイを中心としたバスケ部の連中が集まっていた。少し前までは考えられなかった光景だ。彼らはマヒロをいじりながらも、どこか親しみを込めた視線を向けていた。


(ああ、こんな日が来るとはな……)


 マヒロは内心で驚きと不思議な感慨を覚えていた。

 確かに今でも、人付き合いは得意じゃない。けど、カイの一件で少しずつ周りが変わり始めているのを感じていた。


「おーい、マヒロー。話聞いてるか?」


「ん? ああ、悪い」


「なにぼけっとしてたんだよ。お前んち、この曲がり角の先だろ。じゃあまた明日学校でな」


 そういってカイ達が手を振る。「ああ、じゃあ」と軽く返事をする。彼らと別れたマヒロは、自宅へ向かう道を歩き始めた。


◆◇◆◇◆


 夜風が吹く静かな帰り道。


 マヒロは街灯の下を歩きながら、ふと藤沢カイや乃ヶ峰リノ、そしてルナやサクラとのやり取りを思い出していた。


(最近、変わりすぎだよな……俺の周り)


 そんなことを考えていると、前方から一人の男が歩いてきた。


 ――帽子にマスク。

 ――長袖のシャツに、暑苦しいジャケット。


(……夏なのに、なんだあいつ)


 異様な雰囲気を放つ男。横断歩道ですれ違いざま、男はぼそりと呟いた。


「いまに思い知ることになる――」


「……は?」


 思わず足を止めたマヒロ。しかし振り返ろうとした瞬間、大きなトラックが横断歩道を横切り、視界を遮った。


(アイツ……なんだったんだ?)


 トラックが通り過ぎた後には、マヒロの視界から男の姿は消えていた。しばらくその場に立ち尽くしていたが、結局考えても答えが出るわけでもなく、自宅へ向かう足を再び動かした。


◆◇◆◇◆


 たしか飲み物とか全然なかったよな。家の冷蔵庫にストックしていた飲料類を一通り消費してしまっていたことを思い出した。マヒロの家には同居人はいない。親も含め一緒に住んでいないため、誰も補充してくれる人間はいなかった。


(めんどくさいけど、寄り道して帰るか)


 そうぼやきながら、マヒロは近くのコンビニへ向かうことにした。


 以前マヒロが強盗を撃退したコンビニ。あれから行くかどうか迷っていたが、場所的にも丁度よく、且つマヒロのお気に入りのものが置いてあるチェーンであり、またよく来るようになっていた。店員も気を遣ってか、対応もいつも通りだが、レジで軽くて世間話ができるような間柄にはなっていた。


 ――コンビニで適当に飲み物を買い、外に出た時、近くから覚えのある声が聞こえてきた。


「やっほー、淡海君!」


 明るい声に、マヒロは反射的に目を向ける。


「……サクラ?」


 コンビニの横に立っていたのは、芹沢サクラだった。彼女は笑顔を浮かべて手を振っている。


「何やってんだ、こんな時間に」


「いや、ちょっと散歩に。……って、淡海君も一緒じゃん」


「あ、まあ……、そうか」


 無愛想にそう言いながら通り過ぎようとしたマヒロの腕に、サクラがいきなり組み付いた。


「ちょっ、おい、やめろって!」


「いいじゃん、別に~。てかさ、ちょっと時間あるなら話そうよ。時間ある?」


 腕に組み付いたサクラはニッコニコでマヒロの顔を覗いている。


「……なんだよ、わざわざ」


「まあまあ。どっか近くのカフェに行こうよ。ここだと立ち話になるし、それに、流石に暑すぎるからさ」


 サクラの満面の笑顔に、マヒロは肩をすくめながらもため息をついた。結局なんだかんだでサクラの誘いを断りきれない自分に深くため息をつく。いつもこうだ。サクラがやってくるときは必ずと言っていいほど、面倒に巻き込まれる。だが、それもそんなに悪くないんじゃないか、という思考を首を振って振り払う。


「……わかったよ。けど、少しだけな」


「うん。そうこなくっちゃ」


 彼女の誘いを受け、マヒロは仕方なく歩き出す――。


 夜だというのにじっとりとした暑さは変わらず、蝉がうるさいくらいに鳴いている。湿気を含んだ風がマヒロの頬を撫でた。昼間の灼熱から解放されたとはいえ、アスファルトから漂う残り香のような熱気が体にまとわりつく。


「……で、どこの店に行く気なんだ?」


 マヒロは腕を組みながら、ため息交じりに呟く。だが隣のサクラはまるで気にしていない様子で笑っていた。側からみると二人はカップルに見えることだろう。マヒロは何度も振り払おうとしたが、その度にサクラが不機嫌そうな表情になるため、諦めてそのままにしていた。


「じゃあ、あそこのカフェにしようよ。ほら、ちょうどいい感じの店あるじゃん?」


 サクラが指さしたのは、街灯に照らされたガラス張りのカフェ。涼しげな明かりが漏れ、窓越しに見える冷たいドリンクが目を引いた。


「……まあ、これ以上歩くのも暑いしな」


 マヒロは渋々といった様子でサクラに従う。


 カフェの扉を開けると、冷房の効いた涼しい空気が二人を包み込む。静かなBGMが流れる中、夜の帳が広がる窓辺の席に腰を下ろした。周りにも何人か客は入っていたが、全体的に落ち着いた雰囲気で、世間の喧騒とは完全に切り離されているようだった。


「ここ入って正解だったね!」


 注文したアイスラテをストローでくるくるかき混ぜながら、サクラがにこりと笑う。


 マヒロはアイスコーヒーを手に取ると、無言のまま一口飲んだ。


「……」


 予想以上の苦味と、氷の冷たさが舌を刺激する。しかしそのあと、ふわりと香ばしい香りが鼻に抜けた。


「……あれ、案外イケるな」


 小さく呟いたその声を、向かいのサクラは聞き逃さなかった。


「あれれ、そんなに美味しかったの?アイスコーヒー」


「……別に」


 そっけなく答えながらも、マヒロはもう一口アイスコーヒーを飲んだ。その冷たさが、暑い夜の疲れをじんわりと和らげていく。


「ふーん。でも、これからハマっちゃうかもね?」


「……それはどうだか」


 照れ隠しのように眉をひそめながらも、マヒロは腕を組んで外の景色に目を向けた。


「それでさ、淡海君。最近どう?力には慣れてきた?」


「……力?」


「そりゃあタイタンでしょ」


 唐突な質問に、マヒロは目を細めた。


「……慣れてきたって言えるほど使いこなしてねえよ。てか、そもそもあの力自体がいまだによくわからねえし」


 マヒロの言葉にサクラはうんうんと頷く。


「そっか。まあ、淡海君のタイタンって、ぶっちゃけ何に特化してるのかって感じだもんね」


「……そういう、お前のタイタン能力はなんなんだ?」


 アイスコーヒーをテーブルに置きながら、マヒロは直球で尋ねた。実は前々から気になってはいたが聞くタイミングを逃し続けていた。


 サクラは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに口元に笑みを浮かべると、ストローをくわえて含み笑いをした。


「……えっち」


「なんでだよ!」


 マヒロが慌てて声を荒げると、サクラは面白そうに笑った。


「あー、嘘嘘うそうそ。でもそれ、今ここで教えないほうが面白くない?」


「面白いとかどうでもいいだろ。普通、仲間なら教えるもんじゃねえのか?」


「でも、いまの淡海君みたいに力でゴリ押しするタイプには、私の能力の真価って伝わらないと思うんだよね~」


「……なんだそれ」


 肩をすくめたサクラに、マヒロは不機嫌そうに顔をしかめた。


「じゃあ、あの七神はどうなんだ。あいつ、やたらタイタンに詳しいけど、もしかしてあいつもタイタニアなのか?」


 これも気になっていたことのひとつだった。あれだけ周りにタイタニアがいるのだ。七神もタイタニアだとしてもおかしくない。


「それも……秘密かな」


 悪びれもせず、サクラはまた笑った。


「……お前、隠し事多すぎだろ」


「でも、淡海君がもっと力を使いこなせるようになったら、そのうち全部わかるんじゃない?」


 からかうような口調に、マヒロは小さく舌打ちをした。


 外を見ると、夜の街が変わらず騒がしい。通り過ぎる車のライトが窓に映り込む中、マヒロはぼんやりとコーヒーを飲む。


「ま、淡海君は今のペースでいいと思うよ?」


「どうだか……、面倒ごとが増えないといいけど」


 サクラは小さくふふっと笑った。


「……きっとマヒロ君は君自身が思うより特別だからさ」


「え、なんて?」


 サクラがぼそぼそと言った言葉をうまく聞き取ることができなかった。


「ううん、なんでもないよ。今度は美味しいご飯でも一緒に行こうね!」


「……遠慮しとくわ」


「ええ!なんで?」


 わざとらしく驚いた表情を見せるサクラ。


 サクラはグラスの底に残ったアイスコーヒーをストローでくるくると回しながら、ぽつりと呟いた。


「ねえ、淡海君。最近、何か嫌な予感がするんだよね」


「……嫌な予感?」


「うん。はっきりとは言えないんだけど、なんかこう、ざわざわする感じがするっていうか……」


 珍しく真剣な表情を見せるサクラに、マヒロは思わず視線を合わせた。


「どういう意味だ。何かあったのか?」


「ううん、別に。でも――」


 一瞬言葉を飲み込んだあと、サクラは笑顔を浮かべて誤魔化すように肩をすくめた。


「ただの気のせいかもね! でも、念のため淡海君も気をつけてね。君、絶対にそういうの巻き込まれるだろうから」


「おい……俺を何だと思ってんだ」


「まあまあ、でも大丈夫。その時は私が守ってあげるから!」


 軽く片手を振って笑うサクラ。その様子に、マヒロは呆れたように息をついた。


「……お前が言うと、なんか余計に不安になるな」


「ひどいなー!もう少し人を信じてよね!」


 いつもの調子に戻ったサクラに、マヒロは半ば諦めたようにグラスのアイスコーヒーを飲み干した。


 しばらくカフェで過ごした後、去り際に手を振りながら無邪気に去っていくサクラを見送り、マヒロは再びため息をついた。


「……サクラ、本当にお前は何者なんだよ」

みなさん、こんにちは!いつも読んでいただきありがとうございます!


こうして皆さんに物語をお届けできるのは、本当に幸せなことだと感じています。感謝の気持ちでいっぱいです!

この物語は定期的に更新を目指しており、皆さんと一緒に成長していきたいと考えています。少しでも続きが気になるような展開をお届けできたら嬉しいです!


ちなみに、途中で「あれ?前に読んだ内容がちょっと変わってる?」と感じることがあるかもしれません。それは物語の本筋を変えない範囲で、文章や展開をブラッシュアップしているからです。より楽しんでいただけるよう、細かい部分をちょこちょこ改稿するのが作者の趣味なんです(笑)。


そして最後に……

いいねやコメント、本当に励みになります!

いただけると「次の更新もがんばるぞー!」ってやる気がグンとアップします。どんな感想でもいいので、気軽にひとことでも残してもらえると嬉しいです!


それでは、今日も物語の世界へどうぞ!

お楽しみいただけますように!

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