圧倒的な差
「淡海君!」
観客席から響いた声に、マヒロは意識を引き戻される。
「……サクラ?」
驚いて振り向くと、サクラが身を乗り出してリングを見つめている。その瞳には、はっきりとした意思が宿っていた。
「無理しなくていい!でも……!」
サクラは少し言葉を詰まらせると、まっすぐマヒロを見て言葉を続けた。
「一人で抱え込むのはやめて!」
その一言が、心の奥深くに刺さる。
(……一人で抱え込むな?)
マヒロは高負荷下で沈んでいく足元を見つめながら、その言葉を反芻した。
「……自分の力だけじゃないんだよ」
サクラの声は静かだったが、その響きははっきりと届いてきた。
(俺の力だけじゃない……?)
その瞬間――マヒロの頭に、あの石像の姿がフラッシュバックした。
――巨大で厳かな姿。天空の島で見たアトラス神の石像。その手に刻まれた力強い紋様が脳裏に焼きついている。
(そうか……。)
自分が持っている力。それはどこか外部から与えられたもの――そう思っていた。だが、あの時の石像を前にした感覚。それはただ「持っている」だけではない。何かを「引き出す」感覚だった。
(俺の中にあるけど……俺の力じゃない。そういうことか。)
全身の重力は相変わらず圧し掛かっている。だが、その中でマヒロは一つの可能性に賭けることにした。
(俺が引き出す……アトラス神の力を……!)
マヒロはゆっくりと目を閉じ、心の中で呼びかける。
(頼む……。俺に、この場を乗り越えることのできる力を貸してくれ……!)
その瞬間、全身に温かい光が走った。
リングの中で、マヒロの体から淡い光が立ち上る。
「……なんだ?」
キョウヤが少しだけ目を細める。
次の瞬間、全身に温かい光が走った。圧倒的な重力に押し潰されていた体が、ほんの一瞬だけ軽くなったような感覚があった。
「……くっ……!」
観客席でサクラが目を見開いた。
「淡海君……!」
マヒロの体が微かに光を帯び始める。その光はゆらゆらと揺れながら、彼の体を包み込むように広がっていった。
膝をついたまま、震える脚に力を込める。足元の地面が軋む音が聞こえた。
「……動けるのかよ」
キョウヤが低く呟く。だが、彼の目にはわずかな警戒が宿っていた。
マヒロは片膝を立て、ゆっくりと上体を持ち上げていく。その動きには、これまでのような焦りはなかった。
(分かった……俺の力は、俺だけのものじゃない。だけど……俺が使いこなす。)
再び全身に重力がのしかかる。しかし、マヒロの瞳には確かな意思が宿っていた。
観客席でルナが息を呑む。七神はその様子を見ながら微かに笑みを浮かべた。
「……少し掴んだようだね」
ようやく立ち上がったマヒロは、額から汗を流しながらキョウヤをまっすぐに見据えた。
「……やっと分かった……これがタイタンの力」
マヒロは全身に立ち込める光の中で、右腕をゆっくりと持ち上げた。
(この力なら……!)
指先に集中する感覚――そこに見えない力が集まり、周囲に広がる圧力が徐々に軽減されていくのが分かった。
「重力磁場……」
マヒロは呟くように言いながら、手を握り締めた。その動きに呼応するように、周囲の空間がわずかに揺れた。足元を縛っていた重圧が、手の動きに従って少しずつ移動し、別の場所へと流れていく。
その様子を見たキョウヤの表情が僅かに変わった。これまでの余裕を崩さなかった彼が、初めてタバコの火を消し、ポケットの携帯灰皿に納める。
「……なるほど、お前も踏み入れたか」
キョウヤは低く呟き、体をゆっくりと構えた。足元の石畳が軋む音が響く。
「キョウヤさんが……やる気に?」
観客席で、月瀬家の使用人たちがざわめき始める。
マヒロは目の前の状況に気を配りながらも、重力磁場を完全に解放することに集中していた。右腕を高く振り上げ、手のひらを閉じた瞬間――。
「……いける!」
彼の周囲を覆っていた圧力がほぼ消え去り、リングの中央には静寂が訪れた。
だが、その静けさは一瞬だった。
「……甘いな」
低く響くキョウヤの声と同時に、彼の体が一瞬で消えた。
(消えた……!?)
次の瞬間、マヒロの視界にキョウヤの拳が現れた。
「っ――!」
超高速で移動したキョウヤの拳がマヒロの腹に直撃する。衝撃で体が大きく後方に吹き飛ばされ、リングの端に激しく叩きつけられた。
「……っ、は……!」
口から息が漏れる。全身に響く痛み――今まで感じたことのない衝撃が体を襲っていた。
キョウヤは無表情のままマヒロを見下ろし、低い声で言った。
「重力は強めることもできるし、逆に弱めることもできる。それを自在に操るのが即ち“使いこなす”ってことだ」
その言葉は、痛みで動けないマヒロの耳に遠く響いた。
「お前が力を掴みかけたのは確かだろう。でもな――その程度じゃ、まだまだだ」
マヒロの視界がじわじわと暗くなる。
(くそ……俺じゃまだ届かないのか……)
そのまま、マヒロはリングに沈み込んだ。周囲からざわめきが起こり、観客席にいるルナが小さく叫ぶ。
「淡海さん!」
七神は表情を引き締めながら、じっとリングの中を見つめていた――。
みなさん、こんにちは!いつも読んでいただきありがとうございます!
こうして皆さんに物語をお届けできるのは、本当に幸せなことだと感じています。感謝の気持ちでいっぱいです!
この物語は定期的に更新を目指しており、皆さんと一緒に成長していきたいと考えています。少しでも続きが気になるような展開をお届けできたら嬉しいです!
ちなみに、途中で「あれ?前に読んだ内容がちょっと変わってる?」と感じることがあるかもしれません。それは物語の本筋を変えない範囲で、文章や展開をブラッシュアップしているからです。より楽しんでいただけるよう、細かい部分をちょこちょこ改稿するのが作者の趣味なんです(笑)。
そして最後に……
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それでは、今日も物語の世界へどうぞ!
お楽しみいただけますように!




