試練の幕開け
「……淡海さん。」
低く、しかしはっきりとした声がマヒロを呼び止めた。振り返ると、そこにはルナが立っていた。冷たい瞳の奥に、微かな迷いが揺れている。
「……なに?」
戦闘を目前にしたマヒロは苛立ちを隠せない。七神に巻き込まれる形でここにいるだけでも面倒なのに、さらに月瀬家の面倒な提案まで抱え込まされているのだ。
「あなたが戦う必要はない。」
ルナは微かに唇を震わせた。
「私の問題は私が片付けます。だから……怪我をする前に引いてください。」
「無理だな。」
ルナの瞳が驚きに揺れた。
「お前、あんなこと言われて納得できるのか?」
マヒロは月瀬家の重圧に押し潰されながらも、自分が怒っている理由を整理し始める。
「お前の気持ちなんて関係なしに、大人たちが勝手にお前をどうするか決めようとしてる。……俺はそういうのが一番嫌いなんだよ。」
その言葉に、ルナの瞳から一瞬だけ迷いが消えた。
「……だけど、葛城さんは本気です。彼に勝てる保証なんて――」
「勝てるかどうかじゃない。」
マヒロはルナの言葉を遮る。
「嫌なことは嫌だと言わないと、ずっと逃げ続けることになるだろ。」
ルナは言葉を失った。短い沈黙の中で、彼女はかすかに首を横に振る。そしてそのまま、何かを言いかけたが、踏みとどまるように口を閉じた。
「行くか。」
マヒロはその場を後にし、決闘場のリングへと向かった。
◇◆◇◆◇◆
月瀬家の広大な決闘場。その中央には、磨き上げられた石畳が広がり、どことなく厳かな雰囲気が漂っている。観客席のように高い縁には、隆盛含む月瀬家の関係者たち、そして七神とルナの姿があった。
「……。」
ルナが無言でリングを見つめる。その瞳には不安と迷いが揺れている。
七神は腕を組み、やや心配そうな表情を浮かべながら二人を見下ろしていた。
「無茶はするなよ、淡海くん……。」
一方、決闘場の中央では、審判を務める一人の使用人らしき青年が進み出ていた。彼は黒いスーツを身にまとい、丁寧な動作で二人を向き直ると、落ち着いた声で話し始めた。
「お二人に確認です。今回の決闘のルールは至ってシンプルです。」
青年の声が決闘場に響く。鋭い目つきをしたキョウヤは無言。一方のマヒロも渋々といった様子で頷く。
「この戦いは、どちらかが降参するか、戦闘不能となった時点で終了とします。それ以上の攻撃を行うことは許されません。また、私が危険と判断した場合、決闘を即座に中止させていただきます。」
青年は一呼吸置いて、二人を交互に見た。
「タイタンの力に関する制限はありません。ただし、周囲の観客や施設を巻き込む行動は厳禁です。その点をお守りください。」
「了解。」
キョウヤが短く答え、口元に不敵な笑みを浮かべる。
「……。」
マヒロはどうしてこんなことになっているのか、今更ながら後悔にも似た感情が浮かんでいた。だが、目の前には戦わなくてはならない敵がいる。その事実は変わらない。
青年が一歩後ろに下がり、静かに手を挙げた。
「それでは、決闘を開始します。両者距離を取ってください。」
ルナは胸の前で手を組み、じっとマヒロを見つめる。両者が背中合わせに数歩下がり、振り返った時、審判が静かに告げる。
「始めてください。」
「さて、お前の力を見せてもらおうか。」
キョウヤが不敵な笑みを浮かべる。
マヒロも軽く拳を握り、相手の動きをじっくりと観察する。お互いにタイタンの能力を隠し合ったままの戦い。序盤は相手の力を探るための駆け引きになるだろう。そうマヒロは感じていた。
マヒロは、真正面にいる葛城キョウヤを見据える。だが、次第に言葉にしがたいプレッシャーを感じ始める。
(……なんだ、この感じ。)
キョウヤは特に何かを仕掛けているわけではない。ただ腕を組み、余裕たっぷりに立っているだけだ。それなのに、どこか威圧されるような感覚がある。
(歳が上だからか……?)
マヒロは心の中で自嘲気味に笑う。自分はまだ高校生、そして相手は明らかに大人びた雰囲気を纏った社会人だ。それがこの違和感の正体なのかもしれない。
「さっさと来いよ。」
キョウヤが軽く手を広げながら言った。その余裕のある態度に、観客席にいるルナや七神が緊張した表情で見守っているのがわかる。
「……お前が先に仕掛けろよ。」
マヒロが少し面倒くさそうに言うと、キョウヤは軽く首を振った。
「いや、お前が先手を取れ。俺は受けて立つだけだからよ。」
挑発的な口調だが、どこか自信に満ちた声。その余裕が逆にマヒロを警戒させる。
(……仕方ねえ。どの程度の力があるのか様子見するか。)
マヒロは相手を怪我させない程度に終わらせることを考え、キョウヤの方へ歩を進めた。
だが、一歩目を踏み出した瞬間、足元に違和感を覚えた。
(……ん?)
二歩、三歩と進もうとするたびに、足が地面に吸い付くように重くなる。その感覚は次第に強まり、ついには体全体が鉛のように重くなり始めた。
「……何だこれ……?」
マヒロは眉をひそめながら、足を上げようと力を入れるが、重力が体を押しつぶしているかのようで、動きが鈍る。
「どうした、もう止まっちまったのか?」
キョウヤが不敵な笑みを浮かべながら問いかける。その表情からは、余裕と勝利を確信しているかのような自信がにじみ出ていた。
「……っ!」
マヒロは再び力を入れて進もうとするが、一歩どころか足を持ち上げることすらできない。額に汗が滲む。
(何が起きてる……?こいつ、何か仕掛けたのか?)
その疑問に答えるように、キョウヤがゆっくりと歩み寄りながら口を開いた。
「俺はただ立ってるだけだぜ。でもな、タイタンってのはこうやって使うんだ。」
その言葉にマヒロの目が見開かれる。
(……こいつ、まさか……!)
観客席の七神が小さく息を呑む。そして、その隣で心配そうに見つめていたルナが、不安げに小声で呟いた。
「葛城さん……」
七神は腕を組んだまま、険しい表情で決闘を見つめ続ける。
「あれは、ヒュペリオンか。」
七神がポツリと呟く。
「あれは厄介だぞ、淡海くん……。」
一方で、完全に動きを封じられたマヒロは苦悶の表情を浮かべた。
(くそ、身体が重たい。全然動かねえ)
キョウヤはにやりと笑い、足を止めるとマヒロに向かって指を突きつけた。
「さあ、そろそろお前の力も見せてくれよ。そうじゃなきゃ、退屈だろう?」
■葛木キョウヤ(00001)
みなさん、こんにちは!いつも読んでいただきありがとうございます!
こうして皆さんに物語をお届けできるのは、本当に幸せなことだと感じています。感謝の気持ちでいっぱいです!
この物語は定期的に更新を目指しており、皆さんと一緒に成長していきたいと考えています。少しでも続きが気になるような展開をお届けできたら嬉しいです!
ちなみに、途中で「あれ?前に読んだ内容がちょっと変わってる?」と感じることがあるかもしれません。それは物語の本筋を変えない範囲で、文章や展開をブラッシュアップしているからです。より楽しんでいただけるよう、細かい部分をちょこちょこ改稿するのが作者の趣味なんです(笑)。
そして最後に……
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それでは、今日も物語の世界へどうぞ!
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