十話 VSスライム
僕は咄嗟にスライムとカレンの間に体を割り込ませた。
何か策があったわけでもない。ただやっぱり人を守るためには自分が前に出るしか僕には考えられなかった。
『そんなんだから、他人を助けて自分が死ぬとかいう事態になるんだよ甘ちゃんが……』
ステインが咎めるように僕の脳内で嘆息する。
ステインは一心同体という間柄なので、僕が生まれ変わる元となった経緯を話した。話し終えたあとのステインの反応は
『お人好しのお前さんらしいじゃねぇか……』
と言われた。僕はその時、何故か少しステインが悲しそうだと感じた。
もう目の前には、スライムが迫ってきている。
もう避けられない。
「ユキトっ!! 避けてっ!!」
後ろで、カレン達三人が僕の身を案じて言葉を投げかけてくるが、覚悟を決めるしかないか。
もう既に眼前にはスライムが飛んできていた。
そして次の瞬間、僕の左腕に絡みついた。
「すぐに引き剥がすんだッ! スライムはその身体から滲み出る液体であらゆるものを溶かして捕食するんだッ! はやく!」
ユーマが焦燥感に塗れた顔でスライムを引き剥がせと言ってきた。だが、スライムは僕の膂力では引き剥がせない程の力でまとわりついている。
ジュウウゥゥ……。
くっ! 僕の腕が溶かされ始めたのかっ!? いや、まだ焼ける程度で済んでいる。
僕にスライムが気を取られているうちにカレンに攻撃してもらおう!
「カレンちゃん! 今のうちに僕もろともスライムに攻撃を加えて!」
だが、カレンは首をいやいやと振り、涙を溜めた瞳でこちらを見る。
そうだよな、まだ三歳の女の子だ。せっかく出来た新しい友達である僕を傷付けたくはないのだろう。
アイラも、ボロボロと泣きながら自身の魔書を両手で抱き締めて未だ動けないでいる。
この子達は悪くない。仕方ないかな。
「ユーマァ!! 頼む!! 僕ごとやってくれ!! 僕は大丈夫だから!!」
僕の生気を振り絞った叫びを聞いたユーマは、どうやら覚悟を決めたらしく、自身の魔書のページを捲る。
「ッ!! わかった……。死んだらダメだぞッ! 【バーンフレイム】ッ!!」
そうか、ユーマの魔書は赤属性に系統する魔術書だったのか。
ユーマが放った【バーンフレイム】とやらは、唱えた瞬間に僕の左腕もろともスライムを炎で包み込んだ。
「ぅぅううぅああぁあぁあッ!!!!」
ぐぅぅぅ……!! 左腕からは肉の焼ける匂いと、頭がおかしくなりそうなほどの激痛がとめどなく送られてくる。
炎に包み込まれたスライムは、苦しそうに忙しなく形を変化させていた。
暫くすると、ようやく僕の左腕を解放し、ぼとりと地面に落ちた。
僕が少し安堵していると、脳内にステインの声が響いた。
『相棒っ! すっげぇ、重症を負っているところ悪ぃがそのスライムにトドメを刺そうとしているユーマを止めろッ! 俺様達のチカラの見せ所だ!』
なんだって!?
僕は慌ててユーマを止める。
「ユーマ! 試したいことがあるから、スライムにはトドメを刺さないで貰えるかなっ?」
「……トドメを刺したくなったらいつでも言いなよ」
「ありがとう我が儘を聞いてくれて。それとカレンちゃん達をお願い」
「うん」
ユーマは僕を心配そうに見ていたが、やはり女の子達のメンタルケアも必要だ。
カレン達の方へ走っていくユーマを見送ったあと、地面で虫の息であろうスライムを見下ろしながら、再びステインから声が送られてきた。
『俺様からの恩恵の一つ。【従属】を使うぞ。こいつの効果は、ある条件を満たせば、どんな魔物でも支配下に置くことが可能だ。その使用条件の第一条件は相手の情報を読み取ること。ホレ、これがこのスライムのステータスだ』
スライムの情報が半透明のパネルに表記されて僕の目の前に現れる。
個体名 【スライム】
生命力 24/260
属性 青
魔力 160
敏捷 210
知力 1
防御 20
スキル 【融解】【掃除】【魔力吸収】
び、敏捷値が僕よりも高い……。道理でめちゃくちゃ速いと感じたわけだ。
へー、他にもその魔物の好物だったりとか、色々な情報が参照できるが、ステインが言うには第一条件はステータスだけで充分だと言う。
で? 第二条件は?
『従属させたい魔物の生命力が十分の一以下にするか、その魔物に主と認められれば生命力を十分の一にする必要もなく条件は達成できる』
(じゃあ、今のスライムだったら生命力が十分の一以下だから……)
『おう。この条件も達成された。そして次が最後の条件だ。最後の条件は、ソイツに名前を付けることだ』
案外、そんなもんでいいのか、という気がしなくもないが。これは自分のネーミングセンスが試される時なのかな。
うぅん、名前、名前……。
(じゃあ、【スラ】で)
…………ん? ステインからの返事がない。何故?
『うっわー、安直ぅ〜。ネーミングセンスの欠片もねぇなぁ。お前さん』
うるさいな。自分ではいいと思うんだけど。
『さぁ、これで下準備は整った。あとは、俺様が教える通りの言葉を唱えれば完了だ』
(わかった)
僕はステインに教えてもらった通りに言葉を紡いだ。
「主従の契約により、汝、我の下僕と為れ。我が名はユキト、汝の名は【スラ】。ここに従魔の契約を為す!」
唱え終わると、スライムの液状の体が眩く光出した。
「眩しいッ!!」
『見ろ、相棒っ! 新しいお前の仲間だぞ!』
ステインの声につられてスラの方を見ると、ユーマの【バーンフレイム】によってついた傷は完全に塞がっており、色も薄浅葱色ではなく透明に澄んだ色に変化していた。
スラはこっちに近づいてくると、僕に身を擦り寄せて
『キュイキュイ〜!』
と鳴いた。
え、なにこれ、かわいい。
『やったな相棒。従魔第一号だ!』
ステインは僕の脳内で歓喜している。僕も自分の従魔が増えて嬉しいよ!
スライム、ゲットだぜッ!
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