4.ないしょのやくそく
どのくらいそうしていたでしょう。
ふたりとも、いつのまにか小さくすすりあげるだけになっていました。
つかれて、のどがかわいて、おなかがへっていたのです。
そこで、ゆうたとゆうきは、三角岩のちかくにある神社によって、たっぷり水を飲みました。
暑いあつい夏の日でした。
山から流れ出た水はつめたくすんで、ジュースよりもずっとあまくておいしく感じられました。
そして、ほんとうはいけないことですが、あまりにも冷たくて気持ちよかったので、ひしゃくで頭からたっぷり水をかけ合いました。
つめたい水でのどのかわきはおさまりましたが、おなかはへったままです。ぐうと鳴ったのはだれのおなかでしょう。
でも、とゆうきはつぶやきました。
三角岩に行ったってわかったら、かあちゃんにしかられる。
ゆうきは、そのまますわりこんでしまいました。
おひさまは頭のまうえよりすすんでしまっています。足元のかげも、さっきよりちょっと長くなっています。おひるごはんの時間を、ずいぶんすぎてしまったようです。
ゆうたも、ママにしかられるでしょう。
ゆうたも、ほんのちょっと、ちょっとだけゆうきと同じことを考えました。
それでも。
ゆうたが帰らなかったら、ママが心配するように。
ゆうきが帰らなかったら、ゆうきのママも心配するでしょう。
だから、ゆうたは言いました。
ぼくもいっしょにあやまってあげる。だから、いっしょに帰ろうよ。
ゆうたは、つよいな。
ゆうきが言いました。
ゆうたはすごい。だって、いっしょにあやまるって言えるもの。三角岩まで、こわがらずにひとりでさがしに来たんだもの。
ちがうよ。ゆうたは首を振りました。
ぼくは、ゆうきがいないのがいやだったんだ。
ひとりがいやなだけだったんだ。
だからゆうきをさがしに来たんだ。
ねえ、ぼくはわがままなのかな。
そうじゃないよ。
ゆうきは言いました。
ゆうたは、ゆうきがあるんだよ。
だって、おれがさそったときにも、ダメだって言ってくれた。
それでもたすけに来てくれたんだもの。
ゆうたのゆうは、やさしいゆうだ。
ゆうたのゆうは、いさましいゆうだ。
ゆうたのゆうは、ゆうきのゆうだ。
だって、やさしいってゆうきがいることだもの。
おれも、ゆうたみたいになりたいな。
ゆうたは、うれしくなりました。
ゆうきの言葉は、ゆうたのむねをドキドキさせました。
やさしいという言葉が、すごくすてきに思えました。
そして、はじめてじぶんの名前がすきになりました。
ゆうたは言いました。
ゆうきだって、すごいよ。
だって、ぼくに勇気をくれた。
ゆうきのゆうは勇気のゆうだけど、やさしいゆうでもあるんだね。
ゆうたはうれしくて。
ゆうきもうれしくて。
だからふたりはこっそりやくそくしました。
ゆうたのゆうはゆうきのゆう。ゆうきのゆうはゆうたのゆう。
こっそり名前をこうかんしました。
おとこどうしのやくそくです。
ふたりだけのないしょです。
ゆうきが笑います。
ゆうたも笑います。
ないしょのやくそくをかわしたふたりの目の前を、大きなチョウがかすめていきました。
くろくて、みどりで、ぴかぴかの、ゆうたとゆうきがであったときの、あのチョウでした。
ああ、あのチョウだ。ゆうたもゆうきも、すぐにわかりました。
ゆうたとゆうきがであえたのは、あのチョウが飛んでいたからです。
ゆうきにとって、ゆうたにとって、幸運のチョウだったのです。
うれしくてたまらないふたりは、チョウを追いかけて走りました。
しげみを抜けて、林をかけ抜け、丸木橋をわたって、小道をたどり。
たのしいね。
どちらともなく言いました。
夏やすみって、ステキだね。
だってきみがいるんだもの。
ぼくらはともだちだね。
ずうっとともだちだね。
きみにあえてよかった。
そうだ。
あしたもあそぼう。
いっしょにあそぼう。
ずうっといっしょに。
「うん」
おたがいに、やくそくを交わしながら。
ゆうたとゆうきは、しげみをかけ抜けました。
きらりとおひさまが光りました。
ぴかりとチョウのハネがかがやきました。
さわりとすずしい風が吹き、ひらりと木の葉がゆれました。
ゆうたはたちどまりました。
風に飛ばされたように、チョウのすがたはどこにもありません。
ゆうたはチョウを見失ってしまったのです。
かなしくなって、ゆうたはふりむきました。
「ゆうき?」
手水所では手を洗い口を漱ぎ、心を清めます。
遊んじゃダメです。
でも…サワガニとかヨコエビとか、いるんだよね。
そんなときは、ひと気のないとき、その地の神様にことわりを入れてからにしてね。




