天才と露店市
連続投稿。次は一時間後です。
昼過ぎ。
人込みがより多くなった。
これだけ多いと危険度も増すので、一旦宿に戻ろうという案も出たが、フィーが楽しそうなのでもう少しだけ様子を見る。
「フィー様、俺と手を繋ぎましょう」
「え、嫌」
にべなく断られるオルザ。
フィーは私の手を強く握った。
「ぐっ・・・・・はぐれた際、危険ですから。お願いです。俺と繋いでください」
「えー。んー、まあしょうがないか」
しょうがないと言われたオルザは、涙目で私を睨む。
ちょっと可哀そうだ。でも、女の子なんて大体そんなものなので、諦めてほしい。
フィーが渋々、オルザの手を握った。
三人が手を繋いでいると危ないので、私とは離す。
清々すると同時に、少し寂しい。
「じゃあ、行こう!」
フィーの元気な合図で、歩き出した。散策しながらオルザに尋ねる。
「ところで、オルザさん。頭に付けられるものだと、何が良いのかしら?」
「そうだな。動きを阻害しないものが良い。それと、どれだけ動いても落ちないものだな」
「なるほどね。なら、ヘアピンでいいわね」
作るものが決まったのなら、後は早い。
必要な素材を取り扱っている露店市を探す。
そこでたくさんの人に見られていることに気づいた。初めはフィーがあまりにも可愛くて見ているのだろうと考えていたのだが。
顔を向ける。サッと視線をそらされる。他のところを見る。視線を感じる。顔を向ける。そらされる。
これの繰り返しだ。
しかもこれが数人ならばまだしも、行く先々で起こるのだ。勘違いのレベルでは済まされない。
エーゲルが壁になって、視線を遮ってくれもしたが、いかんせん数が多い。カバーしきれるはずもなかった。
――私から出ている天才のオーラでも見ているのかしら?
「貴様、何かしたのか?」
「いや、していないと思うけれど・・・・・?」
「どこかで恨みを買っているのかもしれない。・・・・・気をつけろよ」
ついにはオルザからも心配されてしまう。
「これは早めに宿に戻った方がよさそうだ」
「はい」
「そうね」
ちょうど近くに、欲しい素材が並んでいた。
品質も錬金要素も理想とは程遠かったが、何とかするしかない。手早く買って、去ろうとしたその時だった。
「おい、てめーらか。ギルドを血の海で染め上げたっていうのは」
柄の悪い男が数人、人込みをかき分け寄ってきた。
「赤髪の女と・・・・・長身の男。お前か」
男たちは私を見下ろした後、オルザに視線を移した。
オルザは素早くフィーをエーゲルへと渡すと、私の前に出てかばってくれる。
「オレたちの縄張りで、派手なことしやがってよぉ。どういうつもりだ、あぁん?」
ギルドを血の海にしたと言っていたが、そんなことしていない。
そもそもギルドで立ち寄ったのは、冒険者ギルドだけだし、オルザと共に行動したのは今日が初めてだ。
恨みを買うようなことは誓ってしていないかった。
「無視かぁ? フードなんぞ被りやがって。布の下は怖くて見せられないんでちゅか~?」
男がフードへと手を伸ばす。
まずい。オルザは身を隠している最中だ。髪色も未だそのままであるし、ここまで多くの人に見られたらばれるのも時間の問題になる。
「何のことを言っているのか分からないのだけれど。人違いじゃないのかしら?」
今度は私がオルザの前に出て、かばうように言う。
「人違いじゃねえよ。お前、クレア・ジーニアスだろ」
名前も知られていた。
それなら、人違いではないのか?
だが、人前で名前を名乗ったのだってそれこそ冒険者ギルドぐらいで・・・・・。
「あ!」
そうか、冒険者ギルド! 全てが繋がって、思わず声を上げた。
ギルドを血の海に染めた覚えはないが、震撼させた記憶はある。長身の男は、オルザではなく、アサシンのことだったのか。
後ろにいるオルザから、強い視線を感じる。
ごめんなさい、すぐに終わらせるから。
「血の海になんてしていないわ。情報の伝達ミスね。帰ってちゃんと話を聞けば、誤解だってわかるわよ」
「うるせぇ、お前には用はねえんだ。・・・・・おい、男。女に守られて惨めじゃねえのか」
「ああ、その人は関係ないわ。私と一緒にギルドにいたのは別の人よ」
「誰が信じるか、そんなウソ。おい、何とか言ってみろ」
困った。全然信じてもらえない。
というか、この人はギルドで何を聞いたのだろうか。
しょうがないので、強制終了させてもらおう。
「その人、言葉が不自由なの。・・・・・ねえ、ところであなたたちは私に何の用で来たのかしら? 注意喚起? それとも、――力で従わせたいの?」
男は一瞬、言葉に詰まって。それから、ニヤリと笑った。




