①月を小窓に押し込むみたい
ファンタジー世界を舞台にしたミステリです。
事件が起こるまではしばらく読み進めていただく必要がございます。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
古びた小舟が、細やかな波紋を作りながら、延々と続く運河を進んでいく。
沿岸には、定期的に大岩が並んでいた。
これらの大岩は魔物避けの装置で、結界の刻印が施されているらしい。
ロウクス大神殿に向かう連絡船を守るために設置されたものだということだが、いかんせん見た目が無骨なので、あまり心躍らない。
もっとこう、煌びやかでアーティスティックな設置物にすれば良いのに。
例えば、そうね、旗を掲げる戦女神ハイニィヤの像とか、水と癒しの女神エリクスドットの像とか。それか、いっそのこと、全ての神々の像を順番に繰り返し並べていくってのはどうだろうか。
揺れる水面を眺めながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。
私たちが乗っているのは、神殿直行の小型の運河船だ。
しかしこの船、いささか年季が入りすぎた代物である。甲板は色あせ、板の隙間から野草がひょっこりと顔を出している。
「……庭付きの船なんて、女王陛下でも持ってなさそうだよね」
小さく呟く。
聞こえているのかいないのか、結構なお年を召した船頭さんがおおきなあくびをひとつ。
まあ、きっと退屈なのだろう。気持ちはわかる。
私もずーっと退屈だ。
水面を覗き込み、反射する光をぼんやりと眺める。
風はやわらかく、陽光が水面の上で細く砕ける。
きらきらと、無数の光が流れていく。
こう退屈だと、つい空想に耽りたくなるのも仕方なかろう。
──あの水面で煌めいているのは、光の精霊? それとも銀竜の鱗?
──この船頭さんは、実は、亡国の王の世を偲ぶ仮の姿だったり。
──この運河の下には、水中古代都市が眠っていて、そこを寝ぐらにしているクラーケンが、虎視眈々とこの船を沈めようと機会を伺っていたりして。
そんなとりとめのない空想を繰り返しているうちに、ついつい歌い出したくなってきた。
詩人の性である。
私は背負った革のケースからリュートを取り出し、指先で軽く弦をはじいた。
音色が響き渡る。
私はゆっくりと口を開いた。
「水の鏡に 光は揺れて
ひとときの 夢を映し
流れに溶けて 消えゆく
その煌めきは一瞬 しかして永遠」
運河の流れに私の歌声と旋律が溶けて消えていく。
船頭さんが顔を上げ、眠そうだった目を細めた。 歌に聞き入っている様子である。
リュートの弦をつま弾くたびに、水面に浮かぶ光の帯が形を変えてゆらめいた。
まるで私の歌に呼応しているように思える。
なんだか興が乗ってきた。
私は、より遠くまで歌を響かせようと立ち上がった。
リュートを持ち直すと、息を大きく吸い込んで、喉に力を込めようとした。その瞬間──。
急に背後から、ぐい、と襟を引っ張られた。
「おい、ミュゼッタ。身を乗り出すな! 川に落ちるぞ!」
──ああ、もう! いつもこうだ。
騎士のアルフレッドである。私の護衛にして、過保護の権化。私がちょっとでも危なそうな事をすれば、すかさず止めに入ってくる。
無造作に切り揃えられた黒髪に、琥珀色の瞳。いつも難しい顔をして、眉間に皺ばかり寄せている。
もし、王都で眉間の皺の深さを競う大会があったなら、きっとダントツ優勝間違いなしだろう。
色白で端正な顔立ちなのだから、いつもニコニコ笑顔でいれば、きっと世の中の女性達がほっておかないだろうに。
なんとも、もったいないことである。
「大丈夫よ。アル。私、バランスには自信があるんだから」
小さく笑って、軽くジャンプしてみせる。
船が少しだけ揺れた。
アルフレッドが慌てて声をあげる。
「こんなところで飛び跳ねるな!」
「大丈夫、大丈夫。船底の揺れに合わせて体重を移動すれば、ほら、見てよ。完璧なバランス」
言いながら、片足で立って見せる。
「詩人は身軽でなければ務まらないのよ。舞台の上でも客席でも、重心をとらえる能力は必須なんだから」
アルフレッドが私を睨む。
「いい加減にしろ! お前が落ちたら、俺が助けに飛び込む羽目になるだろ!」
「あら頼もしい。私が落ちても、あなたがちゃんと助けてくれるのね。なら、安心安心」
私はにっこり笑って、あげていた片足をおろした。
「ちょっとは反省したか?」
私はそこでニヤリと笑ってみせる。
「……でもね、平穏無事なだけでは、心を動かす物語は作れないのよ。私たちの旅にも、ちょっとした香辛料が必要だって思わない?」
「思わない。川に落ちて死んでしまったら物語どころじゃないからな」
ため息まじりに姿勢を戻す。
「ねぇ、アル。あなた、仮にも騎士なんだから、少しくらい冒険心があってもいいんじゃないの?」
憮然とした顔でアルフレッドは答える。
「護衛の立場からしたら、冒険よりも安全である事の方が重要だ。そうでなくても、お前はなにかと『危うい』んだからな。注意しすぎるくらいがちょうどいい」
「何よ、なにかと『危うい』って。節度は保ってるつもりよ」
私は頬を膨らませる。
「川に落ちて怪我をしたので、女王陛下から賜った大事な使命が遂行できなくなりました、って報告するつもりか?」
「確かにそうだけど……」
「ミュゼッタの仕事は物語を作る事かもしれんがな、俺の仕事は、お前の旅の道中を見守ることだ。……ほら、立ってたら危ないぞ」
彼はそう言って、片手を差し出した。何年も剣を握り続けたことで皮が少し硬くなっている。
旅の間、ずっと私を守り続けてくれた手である。
不器用ながら、まっすぐな性格の男である。護衛としては、かなり信頼できる。それだけは確かだ。
私は彼の手をそっと握り返した。
少しだけ冷たい。でも、その大きな手を握っていると、言い知れない安心感がある。
「そうね。私が紡ぐ叙事詩は、歴史に残る大偉業になる予定だもの。万が一にも物語と一緒に私が流れて行ってしまわないように、しっかりと掴んでいてよね」
言いながら、私は再び彼の隣に腰掛ける。
アルフレッドは少しだけ口元を緩めた。そして、それ以上は何も言わなかった。
船頭さんは私とアルフレッドのやりとりを面白そうに眺めながらも、寡黙に櫂を動かし続けていた。
うーん、ベテランの風格である。
「船頭さん、神殿までは、後どのくらいで着くんですか?」
私が質問すると船頭さんはゆっくりと口を開いた。
「そうですねえ、だいたい半刻ほどでしょうか」
少ししわがれているが、聞き取りやすい声である。
「……ところで、お嬢さん方。神殿へ向かうのは、何か特別な用事ですかな? さっきから物語を作るとかなんとかおっしゃってましたが……」
私は笑顔で答えた。
「ええ、実は私、宮廷詩人なんです。女王陛下の命を受けて、英雄譚を作る旅の途中なんです」
船頭さんは、ふむ、と頷くと顎髭を撫でた。彼の表情は変わらないが、その目は少しだけ柔らかいものに変化したように見えた。
「それで、国中の英雄を訪ねて回っているところなんですが、今回は、ロウクス大神殿にいらっしゃる『盲目の巫女姫様』を尋ねようと思っているんです」
船頭さんは、ぱちんと膝を打った。
「あのシスリィ様を歌に。そりゃあいい! あの方は、まさに英雄と呼ぶに相応しいお方ですからな」
私は思わず身を乗り出して尋ねた。
「船頭さん、もしかしてシスリィ様に会った事があるんですか?」
「ええ、お会いした事がありますとも!」
船頭さんは、待ってましたとばかりに語り始めた。
「たった一度だけですがね。ちょうど一年ほど前でしたかな。シスリィ様がロウクス神殿に着任なさるとき、わしがこの船でお送りしたんですよ」
何かを思い出すように遠くを見つめながら船頭さんは語った。
「……あの時は感動で胸がいっぱいになりましたわい」
「そんなに素敵な方だったんですか?」
「そりゃもう……神々しいまでのお姿でございました。聖女とは、まさにあのようなお方を指すのでしょうなあ。……あの方が、ただの癒し手ではないということは、ひと目見ただけで分かりましたよ」
癒し手とは、神殿に属する治癒のスペシャリストたちのことだ。単に治癒魔法を扱えるというだけでなく、骨や臓腑の配置を的確に把握し、薬草の性質を見極めたうえで魔法を施す、治癒の熟達者たち。その中にあってなお、生まれながらに盲目でありながら、ひときわ抜きん出た力を持つ癒し手――それが、噂に高い『盲目の巫女姫シスリィ』であった。
「船頭さん、シスリィ様が『奇跡の癒し手』だという話は、本当のことなんですか? いえ、疑っているわけではないのですけど、噂でしか耳にしたことがなくて」
「ええ、あのお力は間違いなく本物ですよ。わしはこれまで何人もの患者を神殿へお送りしてきましたが、そのほとんどが、しっかりと治っておりましたから」
「本当に? たとえば、どんな患者さんがいらっしゃったんですか?」
「たとえば……そうですなあ。つい最近も、若い行商人を送り届けました。荷馬車を引いて隣町へ向かう途中、道が崩れて谷底へ転落してしまったんだそうで。わしの村に担ぎ込まれた時には、腕がおかしな方向に曲がり、しかも高熱を出しておりました。傷口から悪いものでも入り込んだのでしょう。村の者たちも『この様子では、腕を落とすしかないかもしれん』などと言っておりましてな……それで急ぎ神殿へお連れすることになり、わしが船を出したのです」
「それで、どうなったんですか?」
「それがもう、驚くべき話でしてな。翌日には熱もすっかり引いて、腕も元通りになっていたんです」
船頭さんは当時を思い返しているのか、いくらか興奮した面持ちで続けた。
「帰りしなに行商人本人から話を聞いたのですが、シスリィ様が傷口に手をかざしただけで、みるみるうちに痛みと熱が引いていったそうです。そのうえ、折れた骨が繋がっていくのがはっきりと分かったとか。行商人が言うには、並みの癒し手であれば、熱を下げる魔法をかけ、痛みを鎮める魔法をかけ、さらに癒しの魔法をかけ――と、時間をかけて何度も魔法をかけ直すものですが、シスリィ様はそれをただの一度で成し遂げてしまわれたそうで」
その声には、隠しきれない敬意がにじんでいた。
「そこまでのお力があるなら、エリクス教の聖都でも高い地位を得られそうなものなのに」
「この辺りは北部山脈が近く、魔物の被害が絶えませんのでな。怪我人は毎日のように出ます。巫女姫様は、そうした怪我人たちを一人でも多く救いたい一心で、こちらの神殿への赴任を望まれたのだと聞いております」
私は満足げに頷いた。
「能力だけでなく、人柄まで英雄的なのね。私の求める英雄の条件にぴったりだわ」
「……そうそう。シスリィ様といえば」
船頭さんはふと口元をほころばせる。
「船が着くまで退屈なさっているようでしたから、暇つぶしにって事で、ちょっとした謎かけを出して差し上げたんですよ。それをなんと、シスリィ様、船が着く前に解き明かされまして」
「謎かけ?」
私は眼を輝かせた。
私は謎を解くのが大好きだ。
これは持論だけれど、詩作と謎解きは似ていると思っている。
詩の創作は目に見える世界に肉付けしてより一層輝かせるものだと思っているし、一方で、謎解きは目に見えない隠された世界の霧を晴らす行為だと思っている。
方向性は正反対でも、その根っこにあるものは同じ。
どちらも、世界を少しだけ違う角度から見て、再構築して、形のなかったものがハッキリとした輪郭を持つようになる。
創作も謎解きも「物語が収束する」という点が同じ。その瞬間が私はたまらなく好きなのだ。
「おや? お嬢さん、謎かけに興味おありで?」
船頭さんはにやりと笑い、櫂を軽く動かして船を揺らした。
「実は、私、謎解きが得意なのよ」
船頭さんは「ほほう」と意味ありげにつぶやくと白い髭を撫でた。
「お嬢さん、随分と自信がおありみたいですな。……では、こういうのはどうでしょう? わしが出す謎かけにお嬢さんが答えることができたら船賃は半額。解けなければ倍額払う、ってのは」
「面白い。その賭け、乗った!」
アルフレッドが途端に不機嫌な顔になった。それもそのはず、彼は賭け事が嫌いだからだ。
「……謎の中身も知らんうちからそんな賭けに乗るなんて、信じられんな」
彼の小さなため息が聞こえた。
「『謎かけ』にさらに『勝負』という物語が加わるのよ。そっちのほうが絶対面白いわよ。そのためなら、船賃が倍になるリスクを負うくらい受け入れるわ」
私は思わず唇の端をつり上げた。
突然に巻き起こる謎かけ勝負。
まさにこういうのが旅の醍醐味である。
船頭さんに尋ねる。
「それで、その謎かけというのは?」
船頭さんは、満足げに頷くと腰の袋から小さな紙片を取り出した。
紙の中央には円形の小さな穴が空いている。紙は意外にも上質なもので、指先に吸い付くように柔らかく、そして薄い。
「お嬢さん、銀貨はお持ちで?」
「銀貨ね。ちょっと待って」
財布から銀貨を一枚取り出して渡す。船頭さんはそれを掌に乗せ、もう片方の手に紙を持ちながら説明を始める。
「謎かけの条件は簡単です。この銀貨をこの紙に開いている穴に通してください。紙は折り曲げても構いません。ただし――紙を破ってはいけません」
銀貨と穴を見比べる。
穴は明らかに銀貨より一回り小さい。
紙と銀貨を見比べながら、アルフレッドが眉をひそめて言う。
「これはどう見ても無理だろう。銀貨の方が穴よりも大きいじゃないか」
「……まるで月を小窓に押し込むみたいね」
私の言葉を聞いて、船頭さんは得意げに笑い、穴を掲げて見せつける。
「そう思うでしょう。でも、これがちゃんと通るんですな。魔法も変な細工もなしで。どうです、お嬢さん?」
しばらく銀貨を手に取り、次に穴を覗き込む。
ほんの数秒考える。
そして、私はあっさりと答えに辿り着いた。
「――あ、そういうことね。わかったわ」
「えっ……?」船頭さんとアルフレッドが同時に声を上げた。
「どう考えても通らんだろう……?」
アルフレッドが銀貨と穴を交互に見比べ呻く。その真剣さに思わず微笑んでしまう。
「アル」
私はニッコリと笑う。
「目で見たままで考えていたら、この謎は解けないわよ」
「……どういうことだ?」
「ふつうに目で見てたら、穴より大きい銀貨は通らない。でも、この紙は折り曲げることができる。それさえわかれば子どもでも解けるわ」
船頭さんから紙を受け取り、それを紙がちょうど半分になるように折る。穴は半月状になる。そのまま、穴から銀貨が一部分だけ出るように置き、紙の端を両手でつまんだ。
「まず、紙を半分に折る。この状態で紙の両端を引っ張りながら、持ち上げるようにして弧を描かせる事で、穴の形が歪むのよ。上から見るとちょうど楕円形にね。つまり、穴の横幅が広がる」
すると、まるで月が夜雲の隙間をすり抜けるように、銀貨はスルリと通り抜ける。もちろん、紙は破れていない。
船頭さんの顔が驚きに染まった。
「一瞬で解きなさるとは......」
船頭さんは感心している。私は微笑んでみせる。
「ちょっと簡単すぎるわ」
「まあ、あまり難しすぎても賭けになりませんからな。それにしても、大体は紙と銀貨を手に試行錯誤して答えがわかるもんなんですがね」
一方、アルフレッドは腕を組み、不服そうに唇を尖らせたまま、黙って私と船頭さんを見つめている。
彼の眉間の皺が、先ほどよりもさらに深くなっていた。
「そんなやり方は騎士道に反する。この小さな穴に銀貨を通すという問題なんだから、穴の形を変えるのは邪道だろう。反則だ!」
彼はそう言って、悔しさを隠そうともしない。私は彼の言葉に小さく微笑む。彼にとって、正解とは常に正面から向き合い、倒すべきものなのだろう。
「でも、これが正解よ。船頭さんだって正解だって認めてたし。悔しいのはわかるけど納得しなさい、護衛騎士殿」
そう茶化すように言うと、アルフレッドは何かを言い返そうと口を開き、しかし言葉に詰まった。
彼はどうにかして私に反論したかったのだろう。
剣技なら誰にも負けないのに、こういった頭を使う勝負になると、彼はひどく不器用になる。
しばらく黙っていた彼だが、不意に顔を上げると、不敵に笑いはじめた。
あ、これはまた変な解決策を思いついた顔だ。
次の瞬間、彼は私の手から銀貨を奪うと空中に投げ上げた。
「最初からこうすれば良かったんだ!」
アルフレッドはそう叫ぶと、腰の剣に手をかけた。そして、鞘から剣を引き抜き、銀貨に向かって一閃した。
船頭と私は、あまりに唐突な彼の行動に、目を丸くして言葉を失った。
銀貨は、見事に二つに割れ、乾いた音をたてて船板に落ちた。
彼は、まるでそれが当然の答えだとでもいうように、真っ二つになった銀貨を拾い上げ、半分ずつ穴に滑り込ませた。
「こうやって銀貨を切ってしまえば、通せるだろう」
勝ち誇ったように言い放つ彼の顔は、悔しさから解放され、どこか晴れ晴れとしていた。
しばしの沈黙のあと、船頭さんが我慢できないというように吹き出した。
「はは、いやはや、素晴らしい! とんでもない腕前ですな。まさか銀貨を真っ二つになさるとは! こんなに『面白い答えを出した人』は初めてです」
アルフレッドは、褒められたのか呆れられたのかわからず、少し戸惑ったように眉をひそめていた。
私は小さく笑って、アルフレッドに向き直った。彼は未だに真っ二つになった銀貨を手のひらの上に乗せたままだ。私に向けるその顔は、ほんの少しだけ得意げに見えた。
「あなたらしい答えね。アル」
私がそう言うと、彼は「そうだろう」と誇らしげに鼻を鳴らした。
「呆れているのよ」
私は笑って、彼の掌から二つに割れた銀貨をそっと受け取る。鋭い刃で切られた断面は光を鈍く反射している。
彼は彼なりのやり方で答えを出したのだ。自分の力で、真っ直ぐに。まるで、彼の生き方そのものみたいだと思った。
一緒に旅をしていて感じる。この真っすぐさに、私は結構、元気づけられている。
私は、その銀貨の破片をそっと自分の財布にしまった。
「せっかくだし、この銀貨、旅のお守りにでもしようかな」
私の言葉に、アルフレッドは少しだけ驚いたように目を見開いた。
「なぜそれがお守りに? ただの割れた銀貨だぞ」
彼はそう言いながら不思議そうに首を傾げた。だが、どこか嬉しそうな顔をしている。
船頭さんは、そのやり取りを満足そうに眺めていた。割れた銀貨を胸元にしまった私を見て、彼は再び静かにオールを握り直す。遠くに神殿の尖塔がぼんやりと見え始めていた。
「それはそうと、この私の銀貨、真っ二つで使えなくなったから弁償はしてくれるのよね?」
アルフレッドは目をパチクリさせた。
「弁償?」
「ええ銀貨一枚。後であなたの財布からきっちりもらうからね」
微笑みかけると、アルフレッドはまた不機嫌そうに顔をしかめた。




