第11話「守と攻」
黒かった髪が、淡い白銀へ変わっていく。
服装もまた、一瞬で白を基調とした柔らかな装いへ変化していた。
『……ま、守る……!』
透明な壁が、俺たちを包み込むように展開された。
バチバチバチッ!!
スタン弾が一斉に叩き込まれる。
青白い電撃がバリア表面を激しく走り、火花を散らした。
けれど一発も貫通しない。
『……だ、大丈夫……!』
怯えた声を漏らしながらも、僕は必死にバリアを維持する。
上部通路の工作員たちがざわつく。
「スタン弾無効!防御能力を確認!」
その声に混じり、冷静な指揮官の声が飛ぶ。
「射撃部隊。アサルトライフルへ切り替えろ」
ダダダダダダダッ!!
凄まじい銃声が倉庫内へ反響した。
弾丸の雨がバリアへ叩き込まれる。
衝撃が次々と伝わり、透明な壁に鈍い波紋が広がった。
それでもバリアは壊れない。
『っ……!』
激しい衝撃に、僕が小さく息を呑む。
けれど、防御は維持されていた。
工作員たちの間に、明らかな動揺が走る。
「まだ破れないのか!?」
「なんだこの強度は……!」
『……ここじゃ、守るだけになっちゃう……』
このままここに留まれば、押し切られる。
小柄な身体の僕は、迷うように視線を揺らしながらも、すぐに澪の手を掴んだ。
「っ……!?」
『こ、こっち……!』
澪を引くようにして、僕はコンテナの影へ走り出す。
銃弾がバリアを叩き、火花が散る。
耳障りな金属音が響く。
それでも、僕は必死に前へ進んだ。
そして、積み上げられた大型コンテナの陰へ、滑り込むように飛び込んだ。
銃声が少し遠ざかる。
直撃は避けられる位置だ。
『……はぁ……はぁ……』
息を乱しながら、僕が震える。
澪も荒い呼吸のまま、コンテナへ背を預けた。
「……助かったわ」
荒い呼吸を整えながら、澪がそう呟く。
コンテナ越しに響く銃声は、まだ止まらない。
弾丸が金属を叩くたび、鈍い衝撃音が倉庫内へ反響していた。
僕は小さな肩を震わせながら、コンテナへ背中を預ける。
『……こ、怖いよぉ……』
弱々しく漏れた声。
けれど、それでも僕は逃げなかった。
その姿を、俺は内側から見ていた。
怖がっているし、怯えている。
それでも、僕はちゃんと守り切った。
『でしたら、ここからはわたくしの役目ですわ』
頭の奥で、お嬢が優雅な声で小さく笑う。
すると、僕の小柄な身体が淡い光に包まれた。
白を基調としていた柔らかな服装が、白と赤を基調とした気品あるドレス調の衣装へ変わっていく。
銀色だった髪は、鮮やかな深紅へ染まっていった。
震えていた肩は静かに伸び、その場の空気すら変わる。
お嬢はコンテナへ背を預けたまま、焦る様子も見せず、外から飛んでくる銃声を静かに聞いている。
まるで、この状況すら“退屈な茶番”だと言わんばかりに。
澪が、その横顔を息を呑むように見つめていた。
『まぁ。少々騒がしすぎますわね』
その声音には、余裕しかない。
直後――コンテナ越しに銃弾が叩き込まれる。
お嬢は小さくため息を吐いた。
『品がありませんこと』
そして、何もない空間へ右手をゆっくり差し出した。
掌に深紅の光が収束し、一丁の大型リボルバーがその手の中へ現れる。
赤く輝く銃身。
そこへ刻まれた、薔薇を思わせる繊細な装飾。
グリップにも赤い薔薇の意匠が彫り込まれており、その姿は武器というより、美術品に近かった。
ベースになっているのはS&W M29。
だが、普通のM29じゃない。
俺は知っている。
お嬢の銃弾は、普通の弾丸じゃない。
俺は勝手に“魔弾”って呼んでいる。
もっとも、その呼び方をするとお嬢は決まって嫌そうな顔をするが。
『やはりリボルバーには夢がありますわ』
その言葉と共に、お嬢はコンテナの影から静かに身を乗り出した。
レーザーサイトが一斉に彼女へ向く。
だが――遅い。
ドォンッ!!
重い発砲音が倉庫内を揺らした。
上部通路にいた工作員のアサルトライフルが、火花を散らしながら砕け飛ぶ。
「なっ――!?」
工作員が目を見開く。
破壊されたのは武器だけじゃない。
衝撃に耐えきれなかったのか、その身体ごと後方へ吹き飛ばされていた。
『まずは、お静かになっていただけます?』
余裕すら感じさせる声音。
だが、その直後にはもう次の銃声が響いていた。
ドォンッ!!
今度は別方向。
コンテナの影から身を乗り出そうとしていた工作員の肩口を、赤い軌跡が撃ち抜く。
「ぐぁっ!!」
悲鳴と共に、工作員が崩れ落ちた。
早い…しかも正確すぎる。
俺は内側から、お嬢の視界を通して戦場を見ていた。
お嬢は、ただ狙って撃っているわけじゃない。
誰が前へ出ようとしているか。
誰が澪へ射線を通そうとしているか。
どこを崩せば包囲が乱れるか。
全部見えている。
以前使っていたトンプソン機関銃もそうだった。
傍から見れば派手に乱射しているようにしか見えない。
けれど実際は違う。
射線、遮蔽物、退路、威圧。
その全てが計算されている。
お嬢の銃撃は、“戦場そのもの”を支配するために存在していた。
「撃て!!」
指揮官の怒声と共に、再び銃声が倉庫内へ響き渡る。
弾丸がコンテナへ叩き込まれ、火花が散った。
お嬢は相変わらず焦らない。
『同じ場所を撃ち続けるなんて、芸がありませんわね』
お嬢はコンテナへ背を預けたまま、静かにシリンダーを開く。
空薬莢が乾いた音を立てて床へ落ちた。
その動作には、一切の無駄がない。
むしろ優雅ですらあった。
『さて――』
お嬢はコンテナの陰から滑るように飛び出す。
レーザーサイトが一斉に深紅の身体へ重なる。
ドォンッ!!
魔弾が、上部通路の照明設備を撃ち抜いた。
バチバチッ!!
火花が散り、視界が一瞬乱れる。
「視界が――!?」
工作員たちがざわつく。
その隙を、お嬢は逃さない。
ドォンッ!!
今度の一撃は、コンテナの陰へ隠れた工作員の足元。
赤い弾丸は薄い鉄板を貫き、そのまま工作員の脚を撃ち抜いた。
「ぐぁぁっ!!」
『ほら。包囲が崩れてきましたわよ?』
その姿はまるで――戦場を舞台に変える女王だった。
「射線を固定するな!」
上部通路から、指揮官の怒声が響く。
「煙幕展開!制圧部隊は前へ出ろ!」
パンッ!!パンッ!!
乾いた音と共に、白煙が倉庫内へ一気に広がった。
『っ……!』
視界が白く染まる。
コンテナの輪郭すら曖昧になるほどの濃い煙。
お嬢は小さく目を細めた。
『……なるほど』
その直後だった。
重い足音が煙の向こうから響き始める。
ゴン……ゴン……と、金属が床を叩く音。
やがて白煙の中から、黒い大型シールドを構えた工作員たちが姿を現した。
防弾装備と電磁警棒。
完全に“接近制圧”用の編成だ。
『まぁ。随分と嫌らしい編成ですこと』
ドォンッ!!
お嬢の魔弾が放たれる。
赤い軌跡がシールドへ直撃した。
凄まじい衝撃音と共に先頭の工作員が大きくよろめく。
しかし――止まらない。
「前進しろ!!」
指揮官の声と共に、シールド部隊が煙の中から一気に距離を詰めてくる。
『あら、少々面倒ですわね……』
俺は内側から状況を見ていた。
完全にお嬢の射線を潰しに来ている。
さっきまでみたいに、一方的に戦場を支配するのは難しい。
そして、お嬢は近距離で泥臭く殴り合うタイプじゃない。
「接近するぞ!!」
シールドを構えた工作員が、『お嬢』へ体当たりするように突っ込んできた。
お嬢は咄嗟に後方へ飛び退く。
だが、その瞬間には別方向からスタンロッドを構えた工作員が迫っていた。
『仕方ありませんわね!』
さすがに距離が近すぎて射線を取れない。
その時だった。
頭の奥で、戦闘狂の低く笑う声が響く。
『……ハッ。やっと俺の番かよ』
戦闘狂『敵だ!戦闘だ!腕がなるぜ!』
翔「そんな夏だ!海だ!みたいに言うなよ」
賢者『知の力で制圧してみせましょう』
翔「賢者のそれ、もう知の域超えてんだろ……」
戦闘狂『次回、第12話「暴と知」!暴れるぜ!』
賢者『ご期待ください』




